パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第3話 闇オークションカタログ

 シュラーケンの店を後にした俺は、腰を落ち着けるために喫茶店に入った。


 マスターは寡黙で気難しい雰囲気だが、この店の雰囲気をぶち壊さない限りは、何をやっていても問題は無い。だがその雰囲気というのはマスターのさじ加減で、大抵の客は本を読むか小声でお喋りしてるだけだ。


 今の時間は、俺以外に客は二人しかいない。一人は窓際で本を読んでいるが、もう一人はカウンターでマスターとにこやかに話している。ここなら、この本を広げても問題なさそうだ。


「マスター、コーヒーとシフォンケーキを」


「かしこまりました」


 注文をし、カウンターの端っこに腰を掛ける。


 シュラーケンに貰った本。文庫本より二回りくらい大きいハードカバーだ。


 背表紙に書かれている表題は『カタログ』。開いてみても、日常品が書かれているカタログだ。


 だけどこう言うのには、仕掛けが付き物なんだよなぁ。


 指先に魔力を集め、本の背表紙を撫でる。


 すると、表題の文字が『カタログ』から『闇オークションカタログ』に変わった。


 この仕掛けは、闇事情に精通してないと知らないものだ。俺とリエンは依頼でちょっとだけ闇には詳しいが、レアナには出来ない捜索方法だな。


 因みにここのマスターは、シュラーケン程ではないが闇に顔が利く。こういう喫茶店を経営してるからか、自然と情報が集まってくるらしい。


 俺の方をチラッと見るが、直ぐに顔を背けた。どうやら許可が出たらしい。


 さてさて、中身拝見っと。


 闇オークションに出品されるのは、物や人間、亜人など様々だ。


 特に亜人、それも頑丈な獣人は高く売れる。


 若い雄の獣人は力仕事専門に。


 若い雌の獣人は、口にするのもはばかられる程のアブノーマルプレイを強要されている。


 前に悪徳貴族の家に突入した時は、胃の中のものを吐き出してもまだ止まらないくらいの嫌悪感を覚えた。今でもハッキリ思い出せる。


 奴隷なんて、この世にあってはならないものだ。


 国としても取り締まりを強化しているらしいが、それでも闇オークションで奴隷を売り買いしているのが現状だ。闇オークションも中々捕まえられないし、国も手を焼いている。


 ……っと、昔の事を思い出してムカムカしてしまった。ここは雰囲気のある喫茶店。雰囲気は大事にしないとな。


 外面だけ取り繕って、ペラペラと一ページ目から捲る。


 闇オークションに出品されるものは、かなりの確率で曰く付きだ。ごく稀にアダマント鉱石などの超希少物質や、勇者や英雄の装備なんかも出品されるらしい。


 それでも、出品数が一〇〇もあれば、三つ、四つは超希少なものだ。これでも世間から見れば十分に多いと言える。


 曰く付き、曰く付き、曰く付き、曰く付き、これも曰く付き……ざっと見るが、どうやら三〇〇年前の闇オークションは外れだったみたいだ。全部が全部曰く付き。しかも不幸を与える系が多い。


 ペラ、ペラ、ペラ。


 お? これは割と有名な靴だな。


 フェザーファルコンのブーツ。履いた者の体重を半分にし、スピードを倍にする装備だ。


 六〇〇年前にフェザーファルコンが絶滅し、さらに戦争でブーツが焼失したことから、今では超希少アイテムに認定されている。


 つっても、三〇〇年前のものだから、今はもうこれも無くなってるか……だけど、もし現存してるものがあるなら欲しいな。


 さらに読み進める。


 半分くらい流し読みしたところで、ようやく闇オークションの目玉、奴隷用のページに来た。


 人間、人間、人間、獣人、ドワーフ、獣人、人間、獣人……こうして見ると、人間の割合が圧倒的に高いな。


 しかも全員局部を隠しただけの際どい姿の写真が撮られている。……これ、見てて大丈夫か? 知らない奴が見たら絶対勘違いされるやつだろこれ。


 い、いかんいかん。気をしっかり持て俺。俺は今、エルフの調査で読んでるだけだ。決して疚しい気持ちはない。


 あ、乳でか。


 ってそうじゃねーよ空気読め俺の欲望性欲


 ペラ。


 あ、ケツでか。


 だ、か、らっ、ちげーんだよエロフ……じゃなくてエルフ! エルフを探してんだ俺は!


 急ぎ気味にページを捲って行く。


 そして最後のページ。


 ……これが、三〇〇年前に売られたエルフか……。


 色は白黒だからハッキリとは言えないが、多分セラとは別人な気がする。セラは柔らかな雰囲気の美人だが、こっちは少し暴力的な美人だ。


 名前は……書いていない。写真の上に、小さく『No.100823』と書かれていてるだけだ。年齢も分からない。


 長寿のエルフだが、三〇〇年ってのは一体どれくらい長いんだろうな……もしかしたら、まだ生きてるかもしれない……。


 ……ん? 何だ? 右腕に何か小さい痣があるな……いや、痣じゃない。これは……刺青、か? 奴隷の証って訳じゃなさそうだが……。


 目を凝らしてジーッと見ていると、マスターがコーヒーとシフォンケーキを運んできた。


「お待たせ致しました。……随分、熱心に読んでいますね」


「まあ。ちょっと探し物をね」


「宜しければ、私に手伝えることがあるなら手伝いましょうか?」


「え?」


 顔を上げると、マスターがニコッと笑いかけた。


 それから周囲を見渡しても、さっきまでいた二人の客はいない。どうやら帰ったらしいな。


 ……まあ、情報は色んな所から集めた方が良いか。


「……マスターは、貴族の奴隷関係について詳しいか?」


「奴隷、ですかな? まさか買うおつもりで?」


「買わない買わない。ただ、人を探してるんだ」


 マスターにエルフのページを見せると、顎髭を撫でて思案する。


「三〇〇年前のカタログだから、今生きてるか分からない。だがエルフの寿命なら、或いはと思って」


「……残念ながら、直近でエルフの噂は入って来ていませんね。申し訳ございません」


「いや、大丈夫だ」


 となると、あとはレアナを通じて貴族直々に話を聞いてみるか。


 一度レアナの所に行こうかと考えていると、マスターが「ですが、」と続けた。


「直近ではありませんが、二〇年前にエルフを買ったと話す貴族のお客様がおりました」


「っ、そいつはどこのどいつだ!?」


 二〇年。大分絞り込めてきたぞ……!


 だがマスターは、首を横に振ってカタログを返してきた。


「残念ながら、その家は既にありません。お話を聞いた日から二週間後、汚職がばれて家はお取り潰し。家族揃って田舎に逃げているところを、山賊に皆殺しにされてしまったようです」


「……そう、か……」


 シュラーケンも確かに、エルフを追ったら一ヶ月以内に死ぬって言ってたな。二〇年前なら、死んでて当たり前か。


 肩を落とすと、マスターが一枚のメモ紙を渡してくれた。


「お役に立つかは分かりませんが、その貴族……アクロツヴァイ家の屋敷があった番地です」


「……あ、ありがとうマスター!」


 よし、なら次の目的地は決まったな!


 俺はコーヒーとシフォンケーキを一気に食べきり、お代とチップを多めに渡すと、喫茶店を飛び出した。

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