世界の真実を知るためには生贄が必要と言われ、問答無用で殺された俺と聖女 〜実はこっちが真の道!? 荷物運びと馬鹿にされた【空間魔法】で真の最強へ至る〜

赤金武蔵

第7話 感謝

   ◆◆◆


「……かはっ……!」


 ふ、不覚……! まさか奴らがここまで強いとは……!


 くっ……脇腹を抉られたか……血が、止まらぬ……!


「痛てぇ……!」
「くそ……!」
「う、腕がぁ……!」
「だ、誰かっ、妻が焼かれたんだっ。助けてくれぇ!」
「アイツら、ゼッテェ許せねぇ……!」


 周囲を見渡す。傷付き、血を流している部下、民衆。


 抵抗するとは思っていた。


 簡単に捕まえられるはずがないと思っていた。


 だが、我ら騎士だけでなく、民すら傷付けるとは……何たること……!


 分け隔てなく、我らに優しくして下さったアッシュ殿、聖女殿。


 皆は二人の死を悼み、怒りに震えて武器を取ってくれた。その心意気に胸打たれ、連れて来た結果がこれか……!


 不甲斐なし、不甲斐なし、不甲斐なし……!


 自分の無力さ、不甲斐なし……!


 そして躊躇なく民を傷付けたレッセン、セルン……許さぬ、決して!


 だが二人を追うのは愚の骨頂。今は少しでも動ける部下に指示を出し、民の治療を……。


「ごふっ……!」


 吐血……出血が多い……血を、止めねば……。


「ぐっ、ぬ……!」


 膝を折るなっ。頭を下げるなっ。前を向くのだっ。


 ここで膝をつけば、心が折れる。そうしたら誰が皆を指揮するのだ……!


 剣を地面に突き立て、杖代わりにする。


 と、とにかく……ヒーラーを……。


「ぅっ……」


 だ……めだ、目が、霞む……。


 …………。










「《完全治癒フル・キュア》」










 ──……ぁぁ……暖かい……何だ……誰だ……?


 痛みが、引いていく……力が湧き上がるようだ……。


「む……ぬっ……」


「大丈夫ですか?」


 ……誰、だ……?


 身の丈を越える大きさの杖を持つ、白銀の髪の男性・・


 その傍らに、腕を組んで大人ぶっている黒髪の少女・・


 見たことがあるような無いような……まるで、神話から蘇ったような浮世離れした美しさを持つ二人の人間が、そこにいた。


   ◆◆◆


「大丈夫ですか?」


 僕の隣にいる男が、騎士長に労いの言葉を掛ける。


「う、うむ……すまない、助かった。……貴殿らは……?」


 よし、どうやら上手く作用してるみたいだな。


 空間魔法の一つ、《認識阻害イリュージョン》。


 僕とリオの周囲の空気を歪ませ、目に飛び込んでくる情報を錯覚させる魔法。


 今リオは白銀の高身長イケメン男。僕は低身長黒髪少女の姿として、騎士長の前に立っている。


 更に空気の振動を変化させて、リオの声を男に、僕の声を女にした。ここまで変えれば、誰も僕らがアッシュとリオだなんて思わないだろう。


「私の名はリオン。こちらはアシュナ。放浪の旅の途中、血と焼ける匂いがしたため立ち寄らせて頂きました」


 よしよし、ここに来るまでに決めた設定も、ちゃんと言えてるな。


「そうでしたかっ、助かりました。……あっ。そ、そうだ、皆を……!」


「安心してください。既にここにいる怪我人は全て治癒しました」


 辺りを見渡すと、さっきまで傷付いていた街の住民や騎士達は、綺麗さっぱり回復している。流石リオ、仕事が早い。


「……何から何まで、感謝する」


「いえ、礼には及びません。……ここで何があったか、お聞きしても?」


「……うむ……」


 騎士長は話す。ぽつぽつと。


 レッセンとセルンによって殺されかけた命、部下、民。あれはもう人ではなく、何かに取り憑かれていると、少しすつ話してくれた。


「奴らは、仲間であるアッシュ殿と聖女殿を殺した……! 彼らの無念を晴らすべく立ち上がったが、結果はこのザマだ……」


 騎士長……。


 その気持ちだけで充分です。そう思ってくれるだけで、僕らは救われている。


 だけど、今の僕はアシュナだ。下手なことは言えない。


 でも……どうしても、僕はお礼を言いたい。


 リオ、ごめん。今は僕のアドリブを見逃してくれ。


「……騎士長。アッシュとリオをそこまで思ってくれてありがとう。僕らも嬉しいよ」


「……は……? 何を……」


「アシュナさん……?」


 リオンリオが訝しげな顔を向けて来るが、アイコンタクトを送ると直ぐに頷いた。


「実は、僕はアッシュの師匠。彼はリオの師匠なんだ。……死んだ自分達の為にここまで怒ってくれる人がいる。それだけで……アッシュとリオは報われている。改めて、ありがとうございます」


「ありがとうございます、騎士長さん」


 ぺこりと頭を下げると、リオンリオも続いて頭を下げた。


「それでは、僕らは行きます。逃げた二人を追わないと」


「ぁ……ま、待って──」


交換チェンジ》。


 周りの景色が一瞬で宿の部屋に変わると、《認識阻害イリュージョン》の魔法も解いた。


「ふぅ……ごめん、リオ。勝手な設定を作って」


「いえ、大丈夫ですが……どうしたんですか、いきなり?」


「……騎士長の悔しそうな顔や、街の皆が僕らのために怒ってくれてたって聞いて……ありがとうって言いたくなっちゃった……」


 謝りたいと感じると書いて、『感謝』。


「どうしても、伝えたかったんだよ……」


「……本当、アッシュさんは心の優しい人ですね」


「そうかな?」


「そうですよ」


 ……はは。そう言ってくれると、嬉しい。


「……よし。じゃあ次だ」


「次はどうするんですか?」


「街の人達を傷付けていた映像を、王都に流す。そうすれば、奴らの評判はさらに地に落ちるから」


 復讐の手は緩めない。


 更なる地獄へ引きずり落としてやるよ、レッセン、セルン──!

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