世界の真実を知るためには生贄が必要と言われ、問答無用で殺された俺と聖女 〜実はこっちが真の道!? 荷物運びと馬鹿にされた【空間魔法】で真の最強へ至る〜

赤金武蔵

第6話 憤怒

   ◆◆◆


「もう直ぐ街に着くわね、レッセン」


「ああ。……分かってるなセルン。あの二人のことは誰にも言うんじゃないぞ」


「分かってるわよ。突然現れたドラゴンが二人を燃やし尽くした……その代わり私達がドラゴンを倒し、無事に世界樹ユグドラシルから力を得たってことにするんでしょ。……くひっ」


 セルンの口が三日月型に歪み、醜い笑い声が漏れ出る。


「くひっ……くひひひっ。あぁ……やっとあの女を始末出来たわ……私より可愛くて、私より才能があって、私より誰からも好かれる女を……腹立たしい。ああ腹立たしい……!」


 セルンの呪詛がレッセンの耳に届く。


 レッセンも同じ気持ちだった。自分の誘いを断り、アッシュ、アッシュ、アッシュ……実に腹立たしかった。


 でもそのアッシュももう殺した。そして自分の物にならないあの女も。


 セルンと同じく、醜い笑みが零れる。


「ひひっ……ん、んんっ。セルン、そろそろ悲痛な顔をしろ。もう街が見えてる」


「ええ。あーあ、早くお風呂入りたーい」


 念の為、自分とセルンの腕を剣で斬り、服にも顔にも泥を付けて、如何にも死闘から帰ったかのように出血を演出する。


 セルンに肩を貸して、脚を引きずって拠点としていた街に近付いた。


「む? ……あ、あれは……!?」


「お、おおぉい……た、助けてくれぇ……!」


 やつれ、疲弊し、命からがら逃げ帰ったような顔。


 傍らには死にかけた(ように見せた)少女。


 これだけやれば──。






「包囲ィーーーーー!!!!」






「──ぇ……?」


 包、囲……?


 街から溢れんばかりに押し寄せてくる衛兵、騎士、更には街の住民。


 その顔には、明らかに憤怒と憎悪が浮かんでいた。


「え? え? え?」


「な、何がどうなってるのよ……?」


 困惑している間にも、数百人の人間がレッセンとセルンを囲む。


 その中から、この街を指揮している騎士長が前に出た。


「レッセン殿、セルン殿」


「き、騎士長。これは一体なんの騒ぎだ……?」


「……貴殿らに聞きたいことがある。アッシュ殿と聖女殿はどこに?」


「あ、ああ。……二人はドラゴンのブレスで……助けられ──」






「嘘をつくな不埒者ォォオ!!!!」






 咆哮にも似た怒声。


 鬼のような形相の騎士長に、二人は身をすくめた。


「先程王都から連絡が入った。……レッセン及びセルンを、仲間殺しの大罪人として捕え、王都へ連行すること、と!」


「なっ!?」


「そ、そんな……!?」


 バレた。何故。バレるはずがない。あの場には誰もいなかった。それなのに。誰が。どうして。


 色んな思いが心を過ぎる。だが、まずは言い分を……。


「そ、そんなはずないだろっ。俺だって辛かった、悲しかった……! 助けられなかった俺達の気持ちを、お前達が分かるのか!?」


「ふ、二人が……仲間が目の前で、ドラゴンのブレスで焼かれて死んだのよ!? それなのに、そんなことを言うなんて……!」


 レッセンの慟哭。セルンの涙。


 それを見た街の住民は、僅かに心が揺れた。


 ──しかし。


「白々しい真似をするな……反吐が出る」


 騎士長は嫌悪の眼差しで二人を見る。


 その手には、小さい手の平サイズの水晶があった。


「これは記録水晶だ。この中には、ある映像が入っている。先程王都から送られてきたものだ」


 騎士長の手が淡く光る。と……空中に、映像が映し出された。


 そこに映っていたのは、祭壇の上で横たわるアッシュ。狂気の笑みで剣を突き立てているレッセン。倒れ伏すリオ。その傍らでリオをゴミのように見下すセルンだった。


「こ、れは……!?」


「な、何で……!?」


 あそこには誰もいない。それは気配で探知済みだ。


 それなのに、何故この場面の映像が……。


「王都から送られて来たこの映像が、何よりの証拠。……さあ、もう一度聞かせてもらおう」


 騎士長がゆっくりと剣を引き抜く。それと共に、騎士や衛兵、住民達も武器を構えた。


「レッセン殿、セルン殿。──アッシュ殿と聖女殿は、どこにいる」


   ◆◆◆


「あははははははははっ!」


 余りにも滑稽な言い訳、笑いが止まらないよ!


 何が助けられなかっただ、何がドラゴンのブレスで焼かれただ! 僕達を殺したのはお前らだろうに!


 僕とリオは今、宿の一室で《望遠スコープ》を使って今までの一部始終を見ていた。


「ひーっ、ひーっ! あーお腹痛いっ」


「これからこの二人、どうなると思います?」


「んー? 捕らえようとして来た騎士や街の皆を傷付けて逃亡、かな?」


 この二人が、罪を認めて簡単に捕まるとは思えないし。


「……あっ! アッシュさんの言う通り、レッセンが剣で騎士さんを斬りました!」


「セルンも魔法で街の人を攻撃してるね……」


 こうも躊躇なくやるのを見ると、本当にこいつら、落ちるところまで落ちた感じがする。


 これは……予想してたとは言え、酷いな……。


「アッシュさん……私、見てられませんっ……!」


「安心して、リオ。僕に考えがあるから」


 勿論、傷付いたこの人達をこのままにするはずがない。


 僕達のために怒ってくれた人たちだ。絶対に助ける。


「……ぁ、逃げ出しました……」


「だね。……よし、行こうか」


「え、どこに……?」


 どこに? 決まってるでしょ?


「勿論、この人達を助けにさ」

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