世界の真実を知るためには生贄が必要と言われ、問答無用で殺された俺と聖女 〜実はこっちが真の道!? 荷物運びと馬鹿にされた【空間魔法】で真の最強へ至る〜
第2話 覚醒
……ユグ、ドラシル……? それって、世界樹の名前じゃ……?
ユグドラシルと名乗った女性は、まるで重力を感じさせない足取りで僕達の前に降り立つ。
「……あ、あの、あなたがユグドラシルって、どういうことですか……?」
『──答えましょう。ですが、一つずつ順を追って説明していきます』
ユグドラシルさんの手から黄金のモヤが湧き出ると、それがミニチュアサイズの門を作り出した。
『──世界樹へと通じる門。この門を開くには、今まで苦楽を共にして来た仲間を生贄に捧げる必要があります。今で言う、お二人ですね』
っ……やっぱり僕達は、殺されたんだ……。
隣で震えるリオ。僕はその肩を優しく抱くと、まるで一人でいることに怯えるかのように擦り寄ってきた。
『──石碑にも書いてある通り、本来ここまで辿り着いた人の子達は、今までの冒険を思い仲間を生贄にすることはありませんでした。……彼らは、欲に目が眩んだようですが』
ユグドラシルさんの顔が少し陰る。本当に嘆いてくれているようだ。
くそ……あいつら……!
『──ですが、それ自体が罠なのです』
……罠、だって?
『──欲に目が眩んだ人の子達には、力を得る資格はありません。彼らは今、世界樹に辿り着いたという幻覚を見ています』
ミニチュアの門が開くと、その先にはレッセンとセルンが、何も無いだだっ広い空間で狂気の笑みを浮かべていた。
『──現実世界に世界樹は存在しません。私は、この幽世の世界にしかないのです。そしてここに辿り着くには、祭壇で殺された者のみ』
ユグドラシルさんが、僕とリオの頭をそっと撫でる。
『──おめでとうございます、と言うのも変ですが……ここが最終到達地、世界の最奥。世界の真理を得られる唯一の場所です』
……ここ、が……僕達の目指していた、本当のゴール……。
「……アッシュさん……!」
「ん……!」
言いようのない高揚感が心を熱くし、僕達はどちらともなく抱き合った。
ここが……ここが、長年追い求めていた世界の最奥……!
ああ……長かった……本当に、長かった……!
『──喜ぶのはまだ早いですよ。ここでお二人は、選択肢があります』
……ぇ……選択肢……?
『──一つ。私の力であなた達の持つ力を全て解放し、現実世界へ復活する。裏切られ、殺されたあなた達への救済です』
なっ……そ、そんなことが可能なの……!?
『──二つ。世界の真理を与える変わり、神のみもとに召される。傷付いた心を解放し、神の下で永久の癒しを与えましょう』
……それはつまり……完全な死、ってことだよね……?
力を得て現実世界に戻るか、真理を得て神様の下に行くか……。
「アッシュさん……」
リオが僕の手を握り、真剣な眼差しで僕の目を見つめてくる。
その奥にある、冷たく暗い感情。
それは恐らく僕にもある……冷徹なものだ。
……僕の心は決まっている。
恐らく、リオも同じだろう。
僕は声が出せない。頼むリオ。僕の代わりに言ってくれ。
僕の思いが通じたのか、リオが頷いてユグドラシルさんを見る。
「……決めました、ユグドラシル様。──お願いします、私達に力を下さい」
『──承りました』
ユグドラシルさんの手が暖かく光る。
その光りが僕達の体を覆い、溶け込むように体の中に入ってきた。
……ああ、この光り……何だか安心する……。
『──復活する際、肉体の損傷は治しておきます。……特にリオさんは、あの時の記憶を少しでも和らげておきましょう』
「っ! ……ありがとう、ございます。ユグドラシル様……」
あの時……? 一体、何が……。
『──さあ……目覚めの時です』
◆◆◆
「──ハッ!? ……ぁ、ここは……」
さ、祭壇の上……? そうか、戻って来れたのか……。
「ん、んゅ……っ!」
「あ、リオっ」
「……あれ……ここ……さっきのは夢、でしょうか……?」
「夢じゃない、と思う」
僕の中に、さっきとは違う何かを感じる……。
「……あっ。アッシュさん、声……!」
「え? あ、あー。……出せるようになったみたい……」
「でも、喉の傷跡が……」
……この反応を見るに、喉の傷跡は残ったままみたいだ。
……それでいい。これは……奴らと僕の唯一の繋がりだ。この傷があるからこそ、奴らへの冷たい感情を忘れないで済む。
僕らは祭壇の上から飛び降りて、周りを見渡す。けど……誰も、いない。門も閉まってるし、レッセンとセルンはもう帰ったのか……?
「……っ、アッシュさん、あれ……!」
「え? ……あ、あれは!?」
巨大で壮大な体躯。
硬質で真紅の鱗。
背中から生える二対四枚の翼。
僕達を睨む獰猛な眼に、凶悪な鋭さを持つ牙。
間違いない……ここに来る手前に倒した、世界最強の生物──炎龍!
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
くっ! まだ距離があるのに、なんて威圧感……!
でも何でここに……あいつは古代エルフの里の前を護る存在。ここに来るはずないのに……!
あいつを倒したのは、レッセンとセルンの力があったからだ。僕達じゃどうしようもない……。
「ど、どうしようリオ……!」
「……落ち着いて下さい、アッシュさん。私達はさっきまでの私達とは違いますよ」
──え……?
リオが自分の身長より高い杖を頭上に掲げると、杖の先に浮かんでいる菱形の宝石が回転しながら光りを放つ。
光りが無数の魔法陣を形作り、繋がり、巨大な一つの魔法陣になり……後光のようにリオの背後に展開された。
「行きます──《天罰》」
──カッッッッッ……!!!!
うぉっ!? ま、眩し……!
まるで太陽のように光り輝いた魔法陣から放たれたのは、無数の光の矢。
螺旋を描き、まるで一本の槍のように炎龍へと迫る……!
「ガッ──!?!?!?」
光の矢が、硬質な炎龍の鱗を貫き……胴体に巨大な大穴を空けた。
「……す、ご……」
レッセンとセルンの攻撃をものともしなかった炎龍を、一撃……。
「アッシュさんまだです! 《大空天蓋》!」
僕達の前に現れる、円形状のシールド。
それが、炎龍から放たれた何かを防いだ。
「くぅ……! 死にかけなのに、なんて威力のドラゴンブレス……!」
ど、ドラゴンブレス……!? あいつ、まだ、生きてるのか……!
「お願いしますアッシュさんっ、あの炎龍を仕留めてください……!」
「えっ。ぼ、僕!?」
「今のアッシュさんなら出来ます! ユグドラシル様から頂いた力があれば!」
ユグドラシル様から頂いた……。
…………。
そうだ……僕は……死ぬ前の僕とは違う。文字通り、生まれ変わったんだ!
自分の中に意識を集中する。
……分かる……分かるぞ、空間魔法の本当の使い方が!
手の平を炎龍へ向ける。
「《隔離》」
炎龍の頭部を、半透明の球体が覆う。
そして──。
「《圧縮》」
手を思い切り握り締める。
同時に球体が縮んでいき、極限まで圧縮された炎龍の頭部は消滅し……炎龍は力なく地上へ落下した。
「……す、ご……」
これが……空間魔法を使った攻撃……。
「アッシュさん!」
「え? わっぷ!?」
なっ、えっ、おっぱ……!? 抱き締められ……!?
「凄いです! 私達、苦労せず二人だけで炎龍を倒せましたー!」
「んー! んー!」
やめっ、窒息死する……! 死ぬ、死んでまう……!
「……あっ。ご、ごめんなさい……!」
「ぶはっ。い、いや、大丈夫……」
寧ろちょっと嬉しかったです、はい。
気を取り直して、落ちた炎龍の亡骸を見る。
胴体に大穴を空け、頭部を失った炎龍。
これを、僕達が……。
「……僕達、強くなってるね……」
「……はい。間違いなく」
……これだけの力があればアイツらに……レッセンとセルンに……。
「……リオ。僕達が復活した理由……分かってるね?」
「勿論です。……あれだけの恨み、屈辱を受けて……死んでも死にきれません」
無表情だが、リオの目には憎悪の色が浮かんでいる。
なら……僕達の道は決まった。
僕らを裏切った、奴らへの──復讐だ。
ユグドラシルと名乗った女性は、まるで重力を感じさせない足取りで僕達の前に降り立つ。
「……あ、あの、あなたがユグドラシルって、どういうことですか……?」
『──答えましょう。ですが、一つずつ順を追って説明していきます』
ユグドラシルさんの手から黄金のモヤが湧き出ると、それがミニチュアサイズの門を作り出した。
『──世界樹へと通じる門。この門を開くには、今まで苦楽を共にして来た仲間を生贄に捧げる必要があります。今で言う、お二人ですね』
っ……やっぱり僕達は、殺されたんだ……。
隣で震えるリオ。僕はその肩を優しく抱くと、まるで一人でいることに怯えるかのように擦り寄ってきた。
『──石碑にも書いてある通り、本来ここまで辿り着いた人の子達は、今までの冒険を思い仲間を生贄にすることはありませんでした。……彼らは、欲に目が眩んだようですが』
ユグドラシルさんの顔が少し陰る。本当に嘆いてくれているようだ。
くそ……あいつら……!
『──ですが、それ自体が罠なのです』
……罠、だって?
『──欲に目が眩んだ人の子達には、力を得る資格はありません。彼らは今、世界樹に辿り着いたという幻覚を見ています』
ミニチュアの門が開くと、その先にはレッセンとセルンが、何も無いだだっ広い空間で狂気の笑みを浮かべていた。
『──現実世界に世界樹は存在しません。私は、この幽世の世界にしかないのです。そしてここに辿り着くには、祭壇で殺された者のみ』
ユグドラシルさんが、僕とリオの頭をそっと撫でる。
『──おめでとうございます、と言うのも変ですが……ここが最終到達地、世界の最奥。世界の真理を得られる唯一の場所です』
……ここ、が……僕達の目指していた、本当のゴール……。
「……アッシュさん……!」
「ん……!」
言いようのない高揚感が心を熱くし、僕達はどちらともなく抱き合った。
ここが……ここが、長年追い求めていた世界の最奥……!
ああ……長かった……本当に、長かった……!
『──喜ぶのはまだ早いですよ。ここでお二人は、選択肢があります』
……ぇ……選択肢……?
『──一つ。私の力であなた達の持つ力を全て解放し、現実世界へ復活する。裏切られ、殺されたあなた達への救済です』
なっ……そ、そんなことが可能なの……!?
『──二つ。世界の真理を与える変わり、神のみもとに召される。傷付いた心を解放し、神の下で永久の癒しを与えましょう』
……それはつまり……完全な死、ってことだよね……?
力を得て現実世界に戻るか、真理を得て神様の下に行くか……。
「アッシュさん……」
リオが僕の手を握り、真剣な眼差しで僕の目を見つめてくる。
その奥にある、冷たく暗い感情。
それは恐らく僕にもある……冷徹なものだ。
……僕の心は決まっている。
恐らく、リオも同じだろう。
僕は声が出せない。頼むリオ。僕の代わりに言ってくれ。
僕の思いが通じたのか、リオが頷いてユグドラシルさんを見る。
「……決めました、ユグドラシル様。──お願いします、私達に力を下さい」
『──承りました』
ユグドラシルさんの手が暖かく光る。
その光りが僕達の体を覆い、溶け込むように体の中に入ってきた。
……ああ、この光り……何だか安心する……。
『──復活する際、肉体の損傷は治しておきます。……特にリオさんは、あの時の記憶を少しでも和らげておきましょう』
「っ! ……ありがとう、ございます。ユグドラシル様……」
あの時……? 一体、何が……。
『──さあ……目覚めの時です』
◆◆◆
「──ハッ!? ……ぁ、ここは……」
さ、祭壇の上……? そうか、戻って来れたのか……。
「ん、んゅ……っ!」
「あ、リオっ」
「……あれ……ここ……さっきのは夢、でしょうか……?」
「夢じゃない、と思う」
僕の中に、さっきとは違う何かを感じる……。
「……あっ。アッシュさん、声……!」
「え? あ、あー。……出せるようになったみたい……」
「でも、喉の傷跡が……」
……この反応を見るに、喉の傷跡は残ったままみたいだ。
……それでいい。これは……奴らと僕の唯一の繋がりだ。この傷があるからこそ、奴らへの冷たい感情を忘れないで済む。
僕らは祭壇の上から飛び降りて、周りを見渡す。けど……誰も、いない。門も閉まってるし、レッセンとセルンはもう帰ったのか……?
「……っ、アッシュさん、あれ……!」
「え? ……あ、あれは!?」
巨大で壮大な体躯。
硬質で真紅の鱗。
背中から生える二対四枚の翼。
僕達を睨む獰猛な眼に、凶悪な鋭さを持つ牙。
間違いない……ここに来る手前に倒した、世界最強の生物──炎龍!
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
くっ! まだ距離があるのに、なんて威圧感……!
でも何でここに……あいつは古代エルフの里の前を護る存在。ここに来るはずないのに……!
あいつを倒したのは、レッセンとセルンの力があったからだ。僕達じゃどうしようもない……。
「ど、どうしようリオ……!」
「……落ち着いて下さい、アッシュさん。私達はさっきまでの私達とは違いますよ」
──え……?
リオが自分の身長より高い杖を頭上に掲げると、杖の先に浮かんでいる菱形の宝石が回転しながら光りを放つ。
光りが無数の魔法陣を形作り、繋がり、巨大な一つの魔法陣になり……後光のようにリオの背後に展開された。
「行きます──《天罰》」
──カッッッッッ……!!!!
うぉっ!? ま、眩し……!
まるで太陽のように光り輝いた魔法陣から放たれたのは、無数の光の矢。
螺旋を描き、まるで一本の槍のように炎龍へと迫る……!
「ガッ──!?!?!?」
光の矢が、硬質な炎龍の鱗を貫き……胴体に巨大な大穴を空けた。
「……す、ご……」
レッセンとセルンの攻撃をものともしなかった炎龍を、一撃……。
「アッシュさんまだです! 《大空天蓋》!」
僕達の前に現れる、円形状のシールド。
それが、炎龍から放たれた何かを防いだ。
「くぅ……! 死にかけなのに、なんて威力のドラゴンブレス……!」
ど、ドラゴンブレス……!? あいつ、まだ、生きてるのか……!
「お願いしますアッシュさんっ、あの炎龍を仕留めてください……!」
「えっ。ぼ、僕!?」
「今のアッシュさんなら出来ます! ユグドラシル様から頂いた力があれば!」
ユグドラシル様から頂いた……。
…………。
そうだ……僕は……死ぬ前の僕とは違う。文字通り、生まれ変わったんだ!
自分の中に意識を集中する。
……分かる……分かるぞ、空間魔法の本当の使い方が!
手の平を炎龍へ向ける。
「《隔離》」
炎龍の頭部を、半透明の球体が覆う。
そして──。
「《圧縮》」
手を思い切り握り締める。
同時に球体が縮んでいき、極限まで圧縮された炎龍の頭部は消滅し……炎龍は力なく地上へ落下した。
「……す、ご……」
これが……空間魔法を使った攻撃……。
「アッシュさん!」
「え? わっぷ!?」
なっ、えっ、おっぱ……!? 抱き締められ……!?
「凄いです! 私達、苦労せず二人だけで炎龍を倒せましたー!」
「んー! んー!」
やめっ、窒息死する……! 死ぬ、死んでまう……!
「……あっ。ご、ごめんなさい……!」
「ぶはっ。い、いや、大丈夫……」
寧ろちょっと嬉しかったです、はい。
気を取り直して、落ちた炎龍の亡骸を見る。
胴体に大穴を空け、頭部を失った炎龍。
これを、僕達が……。
「……僕達、強くなってるね……」
「……はい。間違いなく」
……これだけの力があればアイツらに……レッセンとセルンに……。
「……リオ。僕達が復活した理由……分かってるね?」
「勿論です。……あれだけの恨み、屈辱を受けて……死んでも死にきれません」
無表情だが、リオの目には憎悪の色が浮かんでいる。
なら……僕達の道は決まった。
僕らを裏切った、奴らへの──復讐だ。
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