【ジョブチェンジ】のやり方を、《無職》の俺だけが知っている

赤金武蔵

昇級試験 ゼノア

 いやだってさ、だってさ!?


「レインさんっすよ? あの人のスパルタっぷりったらもうヤバいんですよ!?」


「知ってる。あいつの新米ハンター時代に技術を仕込んだのはオレだ」


 あのスパルタはあんたのせいか!?


「レインはあらゆることに貪欲でな。剣術は秘書のキルセナに習い、さらにアルフレッド流剣技も修めている。クレア嬢なら、奴の剣技の腕も身に染みて知ってるはずだ」


 横目でクレアを見ると、自分で自分を抱き締めながらガタガタと震えていた。いや、どんなスパルタ訓練を受けたんだ、クレア……。


「レインの現役時代の最終ランクはゴールド。本来はプラチナプレート並の力はあるが、アルフレッド家に仕える為にハンターを引退した。実力は折り紙付きだぜ」


「アイリッシュ様。私は既に現役を退いた身。今の私に、ゴールドプレートと同等の力があるかどうか……」


「分かってる。だから今回、ゼノアの試験官として雇ったんだ」


「なるほど」


 なるほど、じゃないよ! 俺、モンスタースポットでレベル上げした後もレインさんに習ってたけど、明らかにワイバーン以上だよ、この人!


「今回は《魔術師》としての昇級試験のため、魔法以外の攻撃は一切禁止とする。レインを倒せれば合格、負ければ不合格。いいな?」


「よくないです」


「分かりました」


「よし、それではオレの合図と共に始める」


 あれ、おかしいな? 俺、よくないですって言ったはずだよね? 俺の発言はスルーですか、そうですか。


「双方、構え」


 ちきしょう、やれるだけやってやる!


 魔臓で魔力を練り、レインさんに向けて両手を伸ばす。


 対してレインさんは、いつも通り前の方で手を組んで立ってるだけだ。


「……始め!」


 先手必勝!


「《ウィンド──」


「《ウィンドカッター》」


 っ! 速い──!


 緊急回避!


 辛うじて反応出来、横っ飛びでその場を離れる。


 地面を抉る巨大な風の刃。俺が今まで撃ってきた魔法よりも巨大で、威力も高い……!


 だが、レインさんはそれで止まらず……。


「《フレア》《フレア》《フレア》《フレア》《フレア》《フレア》《フレア》《フレア》《フレア》《フレア》《フレア》《フレア》《フレア》《フレア》《フレア》」


 い゛っ!?


「うぎゃあああああああああ!?」


 こ、これは受けられない……!


 とにかくその場に留まらないように、訓練場内を走り回るっ。


「そちらは地雷でございます」


「え」


 パキッ。何かを踏んだ音。


 次の瞬間──。


「ふべっ……!」


 ま、魔法陣による爆破トラップ……!? しまった、上に打ち上げられた……!


「ゼノア!?」


「ご安心を。ダメージはありません」


 そう、ダメージはない。だけどこれは、飛べない敵に身動きを取らせないように上空に飛ばす、レインさんの得意戦法だ……!


「《フレアランス》」


 ほ、炎の槍……!


「《ガード》!」


 防御魔法を使うが、粉々に砕かれる。だが、威力もスピードも若干落とせた……!


「《ウォータービーム》!」


 水属性中級魔法、《ウォータービーム》を真横に向かって撃ち、その推進力を利用して《フレアランス》の軌道上から避ける。


「……そのような避け方をするとは……」


「へぇ……やるな」


 レインさんとギルド長が目を見張るのが見える。こちとら必死なんだよ……!


「《ファイアーボール》《ファイアーボール》《ファイアーボール》《ファイアーボール》《ファイアーボール》《ファイアーボール》《ファイアーボール》《ファイアーボール》《ファイアーボール》!」


「《ウォーターウォール》」


 俺の《ファイアーボール》が、レインさんの《ウォーターウォール》で防がれる。水蒸気が発生し、レインさんの姿が見えなくなった。


 どこだ、レインさんの魔力の気配は……! っ!


「後ろ……!」


「正解でございます」


 振り返ると、レインさんは俺に向けて腕を伸ばしていた。


 いつの間に……!


 レインさんの前に、魔法陣が展開される。


「《フレアランス》」


 ヤバいっ、当たる! 避け切れない……!


「おおおおおおっ!?」


 咄嗟に練っていた魔力を腕に集め、クロスさせて防御姿勢を取る。


 ゴッ……! 直撃……!


「いっ、いでぇ……!?」


 まるで超巨大な鈍器で撃たれたような痛み……! 腕折れそう……!


「なっ、身体強化魔法……!? まだ教えていないはずですのに……!」


「し、身体強化魔法……?」


 そうかっ、魔力を体に纏わせれば、体を強化出来るのか……!


 地面にぶつかる直前に、何とか体を回転させて受身を取る。


 あ、危なかったぁ……もう少しで負けるところだった……。


 心臓の鼓動が煩いくらい高鳴ってる。だけど、今はそれどころじゃないっ。走れ、止まるな……!


 地面に降り立ったレインさんが、クビを傾げてギルド長を見る。


「……アイリッシュ様、ゼノア様に身体強化魔法を教えたのは、あなたですか?」


「いいや、オレはなんも教えてねーよ」


「……まさか、直感とセンスで身体強化魔法を使うなんて……流石でございます」


 褒めてくれるならちょっとぐらい手加減してよ……!


 だが、身体強化魔法……いいことを知った!


「《フレアランス》」


 レインさんの魔法! 今だ!


 俺の魔力の殆どを身体強化魔法に回し、一気に方向を変え、レインさんに向かって駆ける。


「ぇ……!?」


 腕を振るって《フレアランス》を弾く。若干腕に鈍い痛みはあるが……堪えられる……!


「くっ! 《フレアランス》《フレアランス》《フレアランス》……!」


 俺との距離を取るために、後退しながら魔法を放つ。


 それを弾く、弾く、弾く……!


「この……! 《ウォーターハンマー》!」


 俺よりもデカい、水のハンマー。なら俺も……!


 雷属性中級魔法──!


「《ライトニングハンマー》!」


 レインさんの使う《ウォーターハンマー》より、一回り小さい雷のハンマー。


 だが、水に有効な魔法は雷……! これもレインさんの教えだ……!


 二つのハンマーが、衝突。


 直後、爆音と共に魔法が吹き飛び、相殺した。


「キャッ……!」


 見えた、隙!


「おおおおおおおおおおおおお!」


 最後に振り絞って……行け!


「《ファイアーボール》!」


「っ!?」










 ポシュッ。










「え」


 で、出ない……!?


「うっ……!?」


 あ……この怠さと虚脱感……やばっ、意識が……途切れ、る……。


「魔力、ぎ……れ……か……」


 ぁ……。


 …………。

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