【ジョブチェンジ】のやり方を、《無職》の俺だけが知っている

赤金武蔵

《魔術師》チュートリアル

「よーし、大分回復したな!」


 ぐっすり寝たからか、顔の痛みも大分引いたぞ。まだ触るとピリピリと痛むけど、さっきよりはマシになった。


 改めてステータスを確認してみる。やっぱり、俺のステータスは《魔術師》仕様に変わっている。あれが夢じゃなかったっていう証拠だ。


「《魔術師》かぁ……母さんが読んでくれた絵本には、凄い力を持った魔法使いが描かれてたけど……」


 何だっけ。確か一番弱い魔法は……。


「《ファイアーボール》?」


 瞬間、俺の目の前に円形状の赤い幾何学模様が浮かび上がり、それが回転しながら大きな炎の玉を生み出した。


「こ、これが魔法……凄い綺麗だ……」


 魔法なんて生まれてこの方見たことない。それも当然だ。うちの村は超辺境の地にあるし、Rランクの【ジョブ】を持ってたのはピッグの《拳闘士》だけ。魔法は絵本か、噂でしか聞いてなかったけど……こんなにも美しいものとは思わなかった……。


 ……こ、これ、どうすればいいんだろ。そのままって訳にもいかないし……。


 困ってると、頭の中に例の無機質な声が響いた。


『《魔術師》チュートリアル「初めての魔法攻撃」──開始』


 ……はい? 初めての、魔法攻撃? てことは、戦うの? ここで? 誰と?


 キョロキョロと辺りを見渡す、と……あ、何かいた。あれは……ゴブリン?


 うちの村の近くでもたまに現れる、最低ランクのNランクの【ジョブ】でも倒すことの出来る、雑魚モンスターだ。


 多分、あいつが今回の俺の敵なんだろう。なら、さっき出した《ファイアーボール》で!


「ギィィィッ!」


 甲高い、不気味な声を上げながら、棍棒を片手に突っ込んでくる。


 そいつに向けて腕を突き出し。


「行け!」


《ファイアーボール》発射!


《ファイアーボール》は俺のイメージした通りに突き進み、無防備なゴブリンを包み込んだ。


 轟音を撒き散らし、ゴブリンの肉体を燃やし尽くす音が洞窟に響き渡る。


 数秒後、そこにはゴブリンの死体もなく、焦げた地面とゴブリンからドロップしたゴールドだけが残っていた。


『《魔術師》チュートリアル「初めての魔法攻撃」──クリア』


「……すっげぇ……! 俺のレベルも、職業レベルも1なのに、こんな威力なんて……!」


 ステータスを再確認する。さっきの《ファイアーボール》一発で、魔力を20消費してるな。つまり俺の今の魔力だと、《ファイアーボール》は二五回が限度ってことになる。


 すげぇ……これが【ジョブ】の……《魔術師》の力……! 確かにこんな力を持ってたら、下のランクの人を虐げる気持ち、分かるかもしれない……。


 だけど俺は違う。俺は最底辺を生き、最底辺の気持ちを誰よりも分かっているつもりだ。


 誰かを助けるとか、見捨てないなんて大それたことを言うつもりはない。だけど、俺の目の前で誰かが虐げられていて、俺の力が届く範囲なら……助けていきたい……かも……。


 ……いいや、考え直せ俺。俺はさっきまで無能で無価値だったんだ。ちょっとした力を得たから天狗になってるようじゃ、この先絶対につまづく。


 それなら、俺みたいな人達を救えるくらい、強くなる。誰も、俺みたいな思いをしなくて済むように。


 ……待てよ。ここのこと、誰かに教えた方がいいんのかも……でも、ここのことを教えたら、世界中がこの石版を求めて戦争が始まるんじゃ……?


 俺程度の魔法でも、あんな力を持ってるんだ。これの存在がこの世界に知れ渡ったら、間違いなく火の海、いや、世界が滅んでしまう。それだけは絶対に避けなくちゃ……!


 そんな覚悟にも似た決意を決めていると、また頭の中に声が響く。


『続いて《魔術師》チュートリアル「初めての魔法防御」──開始』


 ……あ、なるほど。【ジョブチェンジ】をすると、チュートリアルってやつでその【ジョブ】の力の使い方を学べるのか。


 いきなり《魔術師》になっただけで外に放り出されても困ってた所だし、丁度いい。ここで色々と学ばせてもらおう!


   ◆◆◆


『最終チュートリアル「魔法殲滅」──クリア』


「ぜぇっ、はぁっ、ぜぇっ……お、終わった……!」


 流石に最後のゴブリン一〇〇体の殲滅はキツかったけど、やり切った……!


『全チュートリアルのクリアを確認。チュートリアル達成記念として《魔術師》専用装備を授与』


《魔術師》専用装備? 何それ?


 首を傾げてると、石版の表面が波打ち、三つの宝箱が吐き出された。この中に入ってるのか……?


 一つ目、オープン。


『《魔術師》のローブ。魔法防御力を500アップ』


 おおっ! 装備するだけで、魔法防御力を500もアップするのか!


 二つ目、三つ目を連続でオープン!


『《魔術師》の腕輪。魔法攻撃力を500アップ』
『《魔術師》のペンダント。魔力を500アップ』


 す、凄い……! こんないいもの貰えるなんて、超ラッキーじゃん!


 全部を一旦装備し、自分のステータスを確認する。






 ステータス
 名前:ゼノア・レセンブル
 レベル:1
 職業:《魔術師》
 職業レベル:1
 物理攻撃力:250
 物理防御力:100
 魔法攻撃力:360(+500)
 魔法防御力:320(+500)
 スピード:90
 魔力:40(+500)/500
 スキル:<魔法攻撃力向上>






 装備をしたことで、魔法攻撃力、魔法防御力、魔力のステータス値が上がってる! ……でも、このステータス値がそもそも高いのかが分からない。それに、このスキルについても、どれくらい攻撃力が上がってるんだ?


 チュートリアルは終わっても、まだ分からないことだらけだ……。


 ……チュートリアルも終わったことだし、これ以上ここにいる必要はない、か。


 次ここに来る時は、俺の職業レベルを三○に上げたときだな。


「よし、行くかっ」


 ここに入ってきた道を辿って戻っていく。今度は魔法で道を照らしてるから、手探りで進む必要はない。


 道を抜け、古井戸をよじ登る。【ジョブ】を得たことで少しだけ身体能力が上がったのか、思いの外楽に登ることが出来た。


「よい、しょっと。うわ、暗いな……」


 ピッグ達に落とされてから、だいぶ時間が経ってたのか。深い森だから、星や月の光が届かないほど暗い。


「ホント、最初に《魔術師》の【ジョブ】でよかった……」


 俺の周囲に浮かんでいる光の玉。《ライト》って魔法で、辺りを明るく照らすだけの魔法だ。触っても熱くないし、全く害はない。


「とりあえず村には近寄らないようにして、別の村か町に向かうか……」


 ぐぅ〜〜〜〜……。


 ……その前に、食料と水だな。

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