告白されて付き合うことになった美少女がその日のうちに義妹になった件 〜ところで、おっぱいはいつ揉んでいいの?〜

赤金武蔵

第24話 想い、想われ。好き、好かれ

   ◆◆◆


 お昼休み、私はいつも一緒にご飯を食べてるグループでお弁当を食べていた。
 チラッと雪和くんを見ると、数奇屋くんと何か話してから一緒に教室の外に出た。2人は基本的に教室じゃなくて、別の所で食べてるみたい。


 正直……私も雪和くんとお弁当を食べたい。
 出来ることなら2人で、誰の邪魔も入らせず、イチャイチャラブラブしながらお弁当が食べたい。


 そんな思いを押し殺して、出来るだけ笑顔を作って興味もないコスメやアクセサリーなどのファッションの話で盛り上がる振りをする。


 すると──昼休みお馴染みの放送が、全校放送で流れた。


『皆さんこんにちは。放送部1年、数奇屋ハジメです』


 数奇屋くんの声に、女の子達が色めき立つ。それもそうだ。数奇屋くんは高校に入って、色々な女の子から好意を持たれている。色めき立つのは当然だ。


『実は今日はマイク放送ではなく、テレビ放送になります。教室にいる皆さん、テレビを点けてください』


 ……テレビ放送?


 近くにいたクラスメイトの女の子が、急いでテレビを点ける。
 すると直ぐに数奇屋くんの顔が大きく映し出された。
 それだけでうちのクラスだけでなく、他のクラスからも黄色い歓声が上がった。流石数奇屋くん。


『皆さん映ってますか?』
「「「「「はーーい♡」」」」」


 わっ、まるでアイドル……。
 そんなクラスメイトの様子を見ていると、数奇屋くんがマイクを持って口を開いた。


『実は本日は特別な日でもあります。僕の匿名の親友が、ある人にどうしても想いを伝えたいということでここに来ています』


 カメラを振ると、白いカーテンに光が当てられて1人の影が映し出された。
 ……あの影……まさか……?


『では時間もないので、早速呼んでいただきましょう』


 数奇屋くんがマイクをカーテンの向こう側に入れる。






『……時田咲良さん。この放送を聞いていたら、放送室へ来て下さい』






 ────ッ!
 この……声……!


 私はお弁当を机に置くと、皆の視線も気にせず走った。走った。走った。
 放送室は1階。私達の教室は2階。
 皆が私を見ている。
 そんなの関係ない。階段を1段飛ばしで駆け下り、放送室へと向かう。


 直ぐに放送室が見えてくる。と……。


「お、キタキタ」
「咲良ちん、はやくはやくっ」
「……紅葉ちゃん、夏海ちゃん……?」


 ど、どうして2人がここに……?


「安心しなよ、咲良ちん。誰が来てもここは通さないから」
「しっかりね、咲良っち」


 あ……そうか、2人も……。
 ……2人共……ありがとう。


「あ、そうだ咲良っち。ちょっと提案があるんだけど」
「提案?」


 紅葉ちゃんはそう言うと、人の悪い笑みを浮かべた。


   ◆◆◆


 さっきの放送で、外にいた生徒達が教室に戻る。
 点いているテレビには、学校のアイドルである時田咲良が息を切らして映っていた。
 対面する人物はカーテンの向こう側で見えない。ただ、男子生徒だということは分かる。
 数奇屋はそれを確認すると、直ぐに画面外へフェードアウトした。


 緊張の時間が教室を……いや、学校を包み込む。


『……時田咲良さん』
『ま、待って!』


 男子生徒の覚悟を決めた声と、咲良の上擦ったような声が響く。


『え……?』
『……君が……君が何を言いたいのか分からないけど……何となく、私から言わせて欲しいです』


 男子生徒の言葉を遮り、咲良が生唾を飲んで口を開いた。










『……私には、好きな人がいます。私の全てを差し出してでも一緒にいたい……世界で1番愛している方がいます』










 綺麗で、澄み渡るような声が、テレビや放送を通じて学校中に流れる。
 咲良の続きの言葉を、学校にいる全ての生徒が、教師が固唾を飲んで見守った。
 本当は教師として止めるべきなのだろう。
 だけどそんなことはしなかった。咲良の言葉を、最後まで聞き届けたいという思いが勝ったのだ。


『寝ても、起きても、ご飯を食べても、授業中でも、お風呂に入っていても、その人と一緒にいても……考えるのは、いつもその人のことだけ』
『…………っ』


 咲良の言葉に、カーテンの向こう側で男子生徒が驚いたように口を開く。


『本当は……他の人から告白される時、その人には止めて欲しかった。行くなって、無視しろって言って欲しかった。……私にはその人しかいないから。その人しかいらないから』


 紡がれる、咲良の本当の想い。


『その人に安心してもらうために……私のわがままで、告白を断るところを見せてしまった。断るところを見せて、私の想いはずっと君のものだって……私の1番は君だけだよって、そう伝えたくて』


 誰も、その言葉を笑わない。それ程咲良の言葉には重みがあり、厚みがあり……本気だということが伝わってきた。


『他の人にどう思われたっていい。ずるい女だって、告白して来た人をダシに使ってると思われたって構わない』


 このテレビを見ている女子生徒は、同時に同じことを思った。




 私はここまで相手を愛していたか、と。
 女子として、他の女子の視線を気にし過ぎていないか、と。
 こんな覚悟を決めて人を好きになったことがあったか、と。




 そんな思いが胸に去来し……咲良の愛の深さに尊敬の念を送る。


『……わ、たし、は……私、は──』


 咲良の言葉に嗚咽が混じる。
 言葉にするにつれて咲良の瞳には涙が溜まる。


 そして、宝石のような雫が頬を伝り……。






『私は、私の全てを差し出してでも──あなたの1番でありたい』






 咲良はそっと右手を差し出し、全ての人を恋に落すような儚げな笑みを浮かべた。






『……好きです。大好きなんです。愛しています、あなたのことが。──私と、付き合ってくれませんか?』






 …………。


 今までにないほど、学校が静寂に包まれた。


『……時田咲良さん』
『……はい……』


 今度は、シルエットの男子生徒が口を開く。


『……君が初めてラブレターを貰った時、本当は行くなって言いたかった。無視しろって言いたかった』
『…………』


 咲良の目が大きく見開かれる。


『でもそれを言ってしまうと、君に小さい男だと……女々しい男だと思われることが辛かった。嫌だった』


 このテレビを見ている今恋人のいる男子生徒は、同時に同じことを思った。




 分かる、と。
 彼氏として尊大に構えてなきゃいけない、と。
 気にしてないことを見せつけ、カッコつけてこその男だ、と。




 思春期真っ盛りの恋人のいる男子生徒は、何よりも恋人の視線を気にする。
 その気持ちを、顔も名前も知れない男子生徒へ共感した。


『でも……俺と同じことを君が思ってくれてると知れた。君が俺を愛してくれているように──俺も、世界で1番君を愛している』


 そうして、カーテンから僅かに右手が差し出される。






『本当は、俺から言うつもりでした。──時田咲良さん。俺と付き合ってくれませんか?』






『……はいっ』


 2人の手が握られる。
 綺麗な涙を流す咲良に、シルエット越しでも分かるほど満面の笑みを浮かべてる男子生徒。


 勘違いをし、すれ違いをし……2人は自分の想いをぶつけ──本当の意味で想いを通わせた。


   ◆◆◆


「いやぁ、怒られた怒られた」
「悪ぃな数奇屋、変なこと頼んで……」


 放課後、学校近くの公園の端っこで、俺と数奇屋、咲良、羽瀬さん、峰さんがベンチに座っていた。


「ごめんね、数奇屋くん……」
「ううん、気にしないでよ。僕こういったエンターテインメント大好きだし。でもまさか、放送を使った公開告白とは思わなかったけど」


 そう、もう分かっていると思うが、サプライズとは公開告白のことだ。
 俺の想いを伝え、告白し、咲良がそれを承諾する。そうすることで、咲良に彼氏が出来たことを全校にアピールすることが出来るし、咲良への俺の想いを伝えることも出来る。
 時田咲良に彼氏がいると言う噂ではない、紛うことなき事実を知らせることが出来た。


 のだが……。


「何で俺が公開告白しようとしたのに、公開告白された流れになってるの?」


 俺が咲良を呼び、全校の前で公開告白をする。それがサプライズの趣旨だったのが……なんかズレた気がする。


「あ、それウチの案」
「え、羽瀬さんの?」
「うん。時田っちってチキンじゃん? 途中でヒヨって何も言えなくなる可能性もあったから、咲良っちから言っちゃえって言った」


 チキン言うな! 俺だって男としてやるべきときはやる! ……はず、多分、恐らく、メイビー……。


「えへへ……ごめんね雪和くん」
「……いや、大丈夫。咲良の想いも知れてよかったし」


 ふと咲良と目が合い、どちらともなく笑みが零れた。


 互いが互いのためを思ったが故のすれ違い。滑稽過ぎる。
 でも、これはすれ違いであって、すれ違いじゃなかった。


 だって俺達は同じことを考えて……同じくらい、相手のことを好きなんだから。


 春香さんと羽瀬さんに発破をかけられ、峰さんからサプライズと言う案を貰い、数奇屋に手伝ってもらう。


 こうまでしないと俺は動けなかった。そんな自分が情けないが……。


 皆が傍にいてくれて、本当によかったと思う。


「さてと! じゃあこの間の貸しも込めて、今から飯行くか! 勿論時田っちの奢りで!」
「あーしマックがいい♪」
「じゃ、僕もご相伴に預かろうかな」
「は、はは……お手柔らかに」


 ここまで手伝ってくれたんだ。全然奢るには奢るが……金足りるかな……?


「大丈夫だよ、雪和くん。私もいるから」
「……はは。ありがとう、咲良」


 今は、下校中の生徒もいるから手を繋げない。
 それでも、俺の心は今までで1番……満ち足りていた。






   第1章 完

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