外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第15話 やけどひた……

「ふああぁ〜〜〜……むにゃ」
「あら、タナトお疲れね」
「まあな……」




 エリオラめ、どんだけやれば気が済むんだ。
 まあ、三〇〇〇年一人ぼっちで、人肌が恋しいのは分かるが……おかけでこっちはまだ体がガクガクだ。
 そんなエリオラは、まだ爆睡してやがる。
 本能に忠実か、あいつは。




「こんなことなら、私もお風呂に突入すればよかったわ。あんなき可愛くよがっちゃって……」
「やめてくれマジで……」




 ただでさえエリオラ一人でずたぼろなのに、ミケまで来たら収集がつかない。
 まあ、ミケは分かってるのか、いたずらっ子のような笑みを浮かべてるだけだけど。




「ふふ。お兄ちゃん、お疲れ様なのだわ。はいココア」
「お、ありがとうイライザ。気が利くな」




 イライザが入れてくれたココアを飲み、ミケの作った出来たてクッキーを食べる。
 甘々ココアにサクサククッキー。
 疲れた体に最高の癒しだな。




「イライザ! 余も! 余もココア飲む!」
「はいはい。今入れるのだわ」
「むふーっ。はむっ。ん〜〜〜っ! クッキーもうまいのだぁ」




 イヴァロンもクッキーを食べて満足気だ。
 そんなイヴァロンは俺の膝の上で、一緒に釣り竿を垂らしている。
 それはいいんだが……俺の背も小さくなってるから、ちょっとやりづらい。
 あと、こうしてるとイヴァロンからもいい匂いが漂ってきてちょっとソワソワする。




「イヴァロン、悪いけどどいてくれ」
「うむ? なぜだ?」
「俺女になったから、ちょっとやりづらい」
「余は気にしないぞ」




 お前じゃなくて俺が気になるんだが。
 そう口にしようとすると、イヴァロンは「それに」と言葉を続けた。




「ここは余の特等席だ。貴様に抱き締められながら同じ時を共有すると、あぁ、やはり一人ではないのだなって思える。余はそれが嬉しい」
「…………」




 そう、だよな……。
 エリオラに目が行きがちだが、こいつも二〇〇〇年もの間一人ぼっちだったんだ。
 何となく、そんなイヴァロンの頭を撫でるとほにゃっとした笑顔になった。




「……貴様らと一緒にいると、当時の余はなんて愚かだったのだろうかと思い知らされる。血を流すことだけが全てじゃない。笑顔溢れる世界でないと見えないこともあると教えてもらった」




 遠い目をし、数千年前に思いを馳せるイヴァロン。
 そう、それでいい。
 当時と今は違う。
 それを自覚してくれるだけで、お前は成長しているよ。
 少しだけ感心していると。




「お待たせ、イヴァ。はいココア」
「ココアー!」




 おい、さっきまでの憂いのある表情はどこいった。




「ふー、ふー……ずず。あっちゅぃ! うぅ、やけどひた……」




 おい、これ本当に魔王か?
 火傷した舌を出して涙目になってるけど。
 でもカップは離さず、両手で持ってゆっくりと飲み始めた。




「んく、んく。ぷはーっ、ココアさいこーなのだ!」
「……イヴァロン、はいクッキー。あーん」
「おおっ、タナトからあーんとは珍しいな! あー……」




 ひょいっ。
 口を閉じる寸前で離すと見事に空振った。




「むっ。……ん? 消えたのだ?」




 やだ何この子可愛い。
 イヴァロンは不思議そうにキョロキョロすると、からかわれたことに気付いたのか頬をぷっくーーーと膨らませた。




「タナト! やっていいことと悪いことの違いが分からんのか! 子供か貴様は!」




 お前にだけは言われたくない。




「悪かった悪かった。ほれ、あーん」
「全く……あー……」


 ひょいっ。


「むっ。……ひっぐ、えぐっ……たなとが、たなとがいじめるぅ〜……!」




 ちょ、ガチ泣きすか破壊の魔王様。




「ホント、ごめんな。反応が可愛くてつい」
「ぐすっ……余、かわい……?」
「ああ、可愛いぞ」
「……ん、ゆるすのだ……」




 イヴァロンを抱き締め、頭を撫でながらクッキーを差し出す。
 ちょっと警戒しながらも、ぱくり。
 パァーーー、と笑顔になった。
 この子、チョロすぎてたまに心配になる。




「タナト、イヴァちゃんいじめちゃダメよ」
「悪い悪い。つい……」
「まあ、多分私でも同じことしてるわね」
「私なら泣かせたまま放置なのだわ」
「ここに余の味方はいないのか!?」




 ふっ、何を今更。
 ぷるぷる怯えるイヴァロンがまた可愛く、餌付け感覚でクッキーを食べさせる。
 いやぁ、分かりやすくチョロいなぁこの子。




「はふ……でも美少女タナトにいじめられるの、嫌じゃない」
「お前マゾか?」
「美少女タナト限定のな」




 なんだ残念。
 まあ、俺も今のイヴァロンを見てちょっとサドに目覚め掛けてるけど。ゾクゾク。
 さて、イヴァロン弄りはこれくらいにして、今日はめいっぱい釣りを楽しむか。

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