外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第7話 一人の女として

   ◆◆◆


 宴の終わった翌日。
 芸術の都にて、エリオラは一人街を歩いていた。


 タナト曰く、結局あの後は皆糸が切れたように眠り、あの場で乱交パーティーにはならなかったらしい。
 嬉しいような、悔しいような、チャンスを逃したような……。
 そんな気分を変えるべく一人で街ブラをしているが、やっぱり一人は寂しい。


『エリィ、やはりタナトを連れてくれば良かったのではないか?』


 嘘。エリオラの胸に輝くルーシーがいた。


「んーん。皆寝てたから、起こしたら可哀想」


『その割には、外に出るためにタナトを無理やり起こしていたと思ったのじゃが?』


「…………ぷい」


『やれやれ』


 だって仕方ない。外に出るにはタナトの力が必要だから。
 まあ、その後安眠の魔法を掛けてあげたから、タナトはまた夢の中だろうけど。


『エリィ、目的はあるのか?』


「ないと言えばないし、あると言えばある」


『つまり暇つぶしという訳じゃな』


「流石、よく分かってる」


 と言いつつ、半分本当、半分嘘だ。
 少しだけ、一人になって考えたかったのだ。
 何となく……いや、ほぼ間違いなく、十中八九……タナトは皆から好かれている。
 しかも『LIKE』ではなく『LOVE』。


 ミケ、イライザは分かる。前からそうだった。
 しかし、イヴァロンだ。
 昨日の言動やタナトにべったり甘えようとする姿を見てると……あの子もタナトが好きだというのが分かる。
 ただ、本人に自覚はないみたい。


 それにだ。
 最近は会いに行けてないが、エミュールのこともある。
 定期的に来る連絡で感じる声色は、タナトに会いたくて会いたくてたまらないと言った空気を感じる。


 シャウナもそうだ。
 口では崇拝やら尊敬やら言っているが、顔が間違いなく恋する乙女だった。雌落ちすんでの五秒前。タナトが迫ったら即落ち二コマだろう。


 最後にマイヤ。
 彼女については分からない。
 好きではない……と思う。
 今回は単純に、敵が同じで共闘しただけ。感謝はしてたみたいだが、タナトへの恋心と言うと……ちょっと違う気もする。
 ただ、今後どうなるかは分からない。




 ここまではいい。ここまでは、今まで分析してきた通りだ。
 エリオラは今まで、自分が正妻であれば妾や男女の関係を持つ人が何人いてもいいと考えていた。


 それなのに……最近は何故か、焦る。
 客観的に見て、思考と理性が矛盾していた。


 エリオラは、何を置いてもタナトを優先している。
 タナトがミケのことが好きなのも許せる。
 自分以外との子作りも全然オーケー。
 イライザもイヴァロンも、なんだったら早く告ってしまえとすら思う。


 そう思っていた。今までは。
 しかしここ最近はどうだろう。この焦り具合はなんなのだろうか。


 そのことをルーシーに話すと、面白いと言った感じに笑った。


『くかかかかっ! なるほど、エリィもまだまだ幼いのぅ』


「むか。じゃあルーシーは分かるの?」


『うむ。エリィは正妻としてタナトの傍にいたい。違うか?』


「……その通り」


『なら後は簡単ではないか』


「……どういうこと?」


『……ふむ。これ以上言うと、エリィの為にならんか……よいかエリィ。その気持ちをしっかり持って、今からタナトの元に戻れ。そうすれば自ずと答えは出るじゃろう』


 ルーシーのアドバイスは、具体的な時もあれば抽象的な時もある。
 今回はかなり大雑把なアドバイスだが……ルーシーのアドバイスが外れたことは無い。これは信頼だ。


「……分かった。一旦帰る」


『ん、頑張れよ』


 ルーシーの激励の言葉に無言で頷くと、通信用の魔石で直ぐにタナトへ連絡を入れた。


   ◆◆◆


「おう、エリオラおかえり。酔いはいいのか?」


 見た感じ酔ってるようには見えないけど……散歩に行って、気分がスッキリしたか?


「ん。毒素が分解された。本当なら即分解されるけど、コントロールして分解した」


 何この子自分の意思で酔えるの? すご。
 ……じゃあ何で外に出たんだ?
 ……ま、いっか。
 俺は起き上がると、エリオラが残っているつまみを食べながら俺の膝に座る。


「……おっきくない」


「寝起き早々股ぐらを漁るな。俺だってリラックスしてんだから」


「うん、分かってる。でも……お酒飲んだからか、テンションが上がってるからか分からないけど……」


 もじもじとするエリオラ。
 こんな感じのエリオラ、初めて見た気がする。


「……あぁ、そっか……ルーシーはこのことを……なるほど、分かっちゃった……」


「え、なに? ゴメン聞こえなかった」


「んーん。聞こえないように言ったから」


 エリオラは俺の膝の上で縮こまり、俺の方をチラチラと見る。


「タナト……私はタナトの正妻でありたい」


「っ……ああ」


 確かにずっとそんなこと言ってたな。


「でも最近、皆と仲良くしてるタナトを見て、内心焦ってた。私が正妻なのに、って……でも」


 エリオラは一回、二回、三回深呼吸。


「……この想いを胸にに、タナトに触れて……やっと分かった」


「ん?」






「私。私は正妻として……ううん。一人の女として、タナトとの子供、欲しい……」






 …………。
 エリオラの顔を見る。
 顔どころか首や耳まで真っ赤だ。
 さっき毒素は分解したと言っていたから、この顔の赤さは酔ってるからではないらしい。


「……それは、マジなやつか?」


「……ん、本気」


 ……ああ、あかん。こいつはあかんな。
 この時のエリオラは、言ったことは曲げない凄みがある。
 つまりこれは、マジ中のマジ。


「タナト……お願い……」


「……後悔しても知らんぞ」


「! う、うんっ……!」


 ああもう。
 イヴァロンにヤリ〇ン扱いされたけど、否定出来ねぇなぁ……。
 俺はエリオラをお姫様抱っこすると、皆を起こさないように寝室へと入っていった。

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