外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第4話 余が釣りました!

「くあぁ〜……寝みぃ……」


 珍しく釣りをする気も起きない。
 太陽の陽射しが心地いい。
 今日も今日とて、芸術の都に滞在している俺達。
 エリオラとイライザは、ミケの案内で都を満喫中。元気だなぁ皆。


 で、俺とイヴァロンはと言うと。


「ふぐおおおおおおっ! 踏ん張るのだ余の豪脚ううううう!」


「がんばれー」


「タナトも少しは手伝ってくれんか!?」


「いや、今日はあれだから、賢者さんですから私」


「ヤリチ〇が!」


 止めてよね、そういう誹謗中傷。傷付くから。


「俺はヤ〇チンじゃない。複数の女の子を同時に愛しているだけだ」


「クズ男の常套句じゃないか、恥を痴れ!」


「そんなこと言うなら手伝わんぞ」


「ごめんなさいでしたタナトさまぁ!」


 うむ、宜しい。


 俺は踏ん張っているイヴァロンの背後に立つと、釣り竿を握っているイヴァロンの手を上から握った。


「いいかイヴァロン。釣りは力任せにやるもんじゃない。相手の流れを読むんだ」


「う、うむっ……!」


 緊張してるのか、イヴァロンはギュッと竿を握っている。ちょっと力を入れ過ぎだな。


「もっとリラックスして。……そう、そうだ。それ行くぞ? いち、にの、さんっ!」


 ぐっ……! お、中々大物っ。


 力を操作し、真上ではなく右上から思い切り引き上げる。


 ザッッッパァーーー!!!!


「おおおお! 釣れた! 連れたぞタナト、大物だ!」


「ああ、レインボーフィッシュ。大人の手の平サイズだ。中々いいサイズだぞ」


「むふーっ!」


 俺からしたら少し小さめだが、今のイヴァロンからしたら十分大物だ。


「タナト、写真だ! 写真を撮ってくれ! あと魚拓もな! 余が釣りましたをやるのだ!」


「あーはいはい。焦るな焦るな」


 異界でも一緒に釣りをしたってのに、随分と嬉しいみたいだ。まあ、釣りを好きになってくれると俺も嬉しいけどな。


 イライザに作ってもらった魔導写真機を使い、満面の笑みでピースをするイヴァロンを撮ると、直ぐに写真となって出て来た。


 ……うん、立派な幼女だ。どこに出しても恥ずかしくないくらいの幼女。


 次に魚から綺麗に水分を取って、墨を塗って紙に乗せる。……うん、上手く写せたな。


「後は魚の種類、長さ、重さ、今日の日付を入れてっと。イヴァロン、最後にサインを入れてくれ」


「うむ!」


 イヴァロンは筆ペンを手に取ると、『イヴァロンなのだ!』とでかでかと書いた。実にイヴァロンらしいサインだな。


 最後に、額縁に乾いた魚拓とイヴァロンの写真を入れて……完成!


「どうだ、中々いいんじゃないか?」


「おお! タナト凄いぞ! これは余が釣った魚だ!」


「おう。正真正銘、イヴァロンが釣ったんだ」


「むふーっ! 余が釣りました!」


 ぴょんぴょん跳ねてご機嫌の様子。何だこの可愛い幼女は。


 イヴァロンの幼女ムーブにほんわかしつつ、それを浮遊馬車の目立つ所に掛けた。うん、ここならリビング全体から見渡せるな。


「ふおおぉ〜……! むふーっ、素晴らしいのだぁ……!」


「気に入ったか?」


「うむ! 余の人生の中で、最高の瞬間だ!」


 これが最高の瞬間って、お前の人生闇深くね?


 ……イヴァロンの人生、か……。


「なあイヴァロン。お前が封印される前ってどんな生活してたんだ?」


「む? 別に普通だぞ。魔王軍を率いて街や村を滅ぼし、人間共がそれぞれ結託するように仕向け、人類の進化に貢献しただけだ。まあ、この世界を見ると、それだけが進化の道ではなかったようだがな」


 そんな普通、どこの世界の普通なんだろうか。


「人間に恨みはないのか? お前を封印したのって、人間側の勇者だろ?」


「む〜……確かに最初は恨んではいたが、まあ今は別にいっかーって感じだな。あの時は余も悪かったのだ。やり過ぎた」


 ……そっか。自分の非を認めて、人間も許して……強い子だな。


 そう思いイヴァロンの頭を撫でると、ほにゃっとした顔で俺の腰周りに抱きついてきた。うーん可愛い。


「だが勇者はなぁ……まだ色々と思いはあるから、許すかどうかと言われたらちょっとなぁ……奴の封印のせいで、余も真の姿を取り戻していないし」


「まだそんな妄言を……」


「妄言じゃないのだぁ!」


 ちょっ、やめっ、ぽかすか殴るなっ。めっ。


 ふざけ半分でイヴァロンの攻撃を受けていると、ピタッとイヴァロンが止まった。どした?


「ふむ……そうか……そうだな……よし、うん、そうしよう……」


「……イヴァロン、どうした? 変なものでも食べたか? クッキーいる?」


「食べとらんわい! クッキーはほしー!」


 リビングのテーブルに置いてあったクッキーを餌付けすると、あーんと美味そうに頬張った。俺もぱくり。うん美味い。流石ミケのクッキー、冷めても最高だ。


「で、どうしたんだよ?」


「うむっ。タナト、貴様は余をどう思っている」


「幼女」


「だろ? なら余が真の姿を取り戻した暁には、余が全身全霊を以て貴様を誘惑してやる」


 ……は? 誘惑……え?


 イヴァロンは俺から離れると、まるで草原に佇む可憐な少女のような笑みを浮かべ……。






「貴様は余が認めた、最高の男だ。楽しみにしておれ♡」






「っ……お、おぅ……」


「うむっ! ……よし、ではもう一度釣るのだ! 今度は余が一人で釣ってやるぞ!」


 ……うん、その……なんて言ったらいいか分からんが……あぁ、くそ。俺、こんなに女にダラしない性格だったっけ? この幼女の笑顔にときめかされた……。


 はぁ……先が思いやられる……。


   ◆◆◆


(くっくっくっく……タナトめ油断しているな……! 余が誘惑すると聞いて気が気じゃないのだろう。そこで余が本当に誘惑し、タナトが乗ってきた所でこう言ってやるのだ!)


『ばーかばーか! 余が本当に貴様程度を誘惑するはずないだろアホめが!』


(くふふふっ。完璧だ……完璧な作戦なのだっ! 待っておれタナト! くははははははははは!)

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