外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第16話 ずっと笑っていて欲しい

 約一秒ごとに、白部屋の中に銃声が鳴り響く。


 レスオンも一発目は涙を流し、二発目は鼻血を、三発目は血涙を、四発目は口から泡を、五発目では急激に痩せこけ、六発目は歯が抜け落ち、七発目は毛髪が白くなり、八発目は呻き声を上げ、九発目は毛髪が全て抜け落ち、十発目で痙攣を始めた。


 だが、最後の十発目を受けてなお、まだ息はあるみたいだ。


「へぇ……これだけやっても、まだ魂は崩れませんか。案外図太いのですね」


 確かに……常人なら、たった一発で廃人になるだろう。それを十発もくらって生きてるなんて、こんなの普通じゃない。


「なら、あと十発程撃ち込みますか。ああ、安心して下さい。一度創った魔弾は、無制限に再現可能なので」


 マイヤの手の平に現れる鈍色の弾丸。このレベルの憎悪弾(俺命名)を無制限に出せるって……やっぱり十極天は並じゃないな。


 再び銃に弾を込めているマイヤを横目で見ていると、レスオンの痙攣が止まり……ギョロッと目が動いた。


「……き……は……☆ きはは……☆ 何度……やって、も……私は、変わらない……よ……☆ 私は……絶対、に……懺悔しな、い……☆ 死んで、も……転生して……何度でも絶望を、振りまく……きは……きはははは……☆」


 ……こいつ、しつこいなぁ〜……。


「あ、じゃあ次俺にやらせてくれよ」


「タナトさんが? 何をするのですか?」


「まあ見てろって」


 俺は《神器釣り竿》を召喚すると、それをレスオンの襟首に引っ掛ける。


「これからおまえを、俺が今まで繋いだ異界の中で、最も凶悪で最も残忍な世界……無限異界に招待してやろう」


「……むげ、ん……?」


「歪んだ時空。昼の気温は五百度、夜の気温はマイナス百五十度。重力千倍。こっちの世界の一秒が向こうでは千年という狂った時間の流れ。有機物を燃やさず、決して消えない摂氏千五百度の炎。超猛毒の海」


 一つずつ無限異界について話していくと、レスオンの顔色が青白い色から土気色になっていく。


「そしてここからが取っておきなんだが……」


「ま……まだ、あるの……」


「安心しろ、これで最後だ」


《神器釣り竿》を握り、イヴァロンに合図して少しずつ足から地面に下ろす。


 すると、《虚空の釣り堀》が発動して少しずつ異界に吸い込まれていった。


「無限異界は過酷過ぎる環境のために生物が存在しない。せのせいか、その世界では死や老いという概念が存在しない」


「……死や、老いが……ない……?」


「つまり、死ぬことも老いることもなく、ただただ過酷な環境で激痛に耐えながら生きるだけ……そんな場所だ」


 最初に無限異界に繋ぎ、《釣り神様》からこんな説明をされたときは、そんな不条理な世界があるのかと愕然としたが……無意味ではなかったらしい。


《釣り神様》、無限異界に繋げられるか?


『解。現時点での確率は五割。しかし私のサポートを用いた場合、八割の可能性で無限異界へ繋ぐことが可能』


 八割もあれば十分だ。


「さあ、心の準備はいいな?」


「ま……待って……謝る……謝るから、許し、て……」


「残念だったな。俺は身内にはオレンジジュースを煮詰めたほどに激甘だが、その身内に手を出した敵には超の付くほど容赦しないんだ。ま、気が向いたら釣り上げてやるよ♪」


「ま、待っ──」


 さあ、死のない地獄へようこそ。






「《無限堕ちヘル・フォール》」






 トプンッ。


 最後に絶望の表情を見せ、レスオンは異界の中へ消えていった。


『告。無限異界へ落ちたことを確認』


 オーケーオーケー。サンキューな、《釣り神様》。


「……終わった、のですか……?」


「ああ。あいつはこれから、死ぬことも老いることもない世界で、たった一人絶望と共に生きる。数百万人の命を弄んだ代償だ」


「……そう……終わった……終わったんだ……っ……ぅ、うぅっ……うああああぁっ! うええええぇぇぇぇぇーーーんっ!」


 マイヤはその場にへたり込むと、持っていた愛銃を胸に抱き、声を上げて泣いた。


「お疲れ様、マイヤ。よく頑張ったな」


 そんなマイヤの頭をそっと撫でる。今は、今だけは十極天や復讐のことは忘れていい。


 ただ一人の女の子として、好きなだけ泣け、マイヤ。


   ◆◆◆


「すぅ……すぅ……」


 少しすると泣き疲れたのか、マイヤは猫のように丸くなって寝始めた。


「エリオラ、悪いけどマイヤのこと見ててくれ」


「ん、任せて」


 さて、俺はというと。


「ミケっ」


 まだ気絶しているミケの元に駆け寄る。


「お兄ちゃん、ミケちゃんはちょっと寝てるだけだから、心配ないのだわ」


「そ、そうか……よかった」


 イライザの膝を枕にして眠るミケ。その頭を優しく撫でると、くすぐったかったのか薄ら目を開けた。


「ぁ……れ……ここは……?」


「あ、ミケ。起きたか」


「……タナト……みんな……ぁっ!」


「え?」


 ミケは物凄い勢いで立ち上がると、俺達から離れて涙を流しながら深々と頭を下げた。


「ご、ごめっ……ごめんなさいっ。わ、私が……私が油断して、操られたから……皆を危険な目に……!」


「だだだだだ大丈夫なのだ! ミケ、余はまーーーったく気にしていないぞ!」


「わ、私も気にしていないのだわ! だから泣かないでミケちゃん!」


 あわあわあわあわ、わちゃわちゃわちゃわちゃ。何をしてるんだこいつら。


 俺は頭を下げ続けるミケの元に向かうと、その肩を叩いて優しく声を掛けた。


「ミケ、顔を上げてくれ」


「で……でも、私皆の護衛なのに……皆に攻撃をするなんて……どういう顔をすればいいか……」


「いいから」


 ミケの肩がビクッと反応し、ゆっくりと顔を上げる。


 涙を我慢してるのか口元が波打っていた。


 ……ああ、ダメだ。本当、自覚すると気持ちが溢れる。


「ミケ」


「は、はいっ……」


「好きだ」


「……ぁ……」


 自由空間でのことを思い出したのか、目を見開いて俺の目を見つめてきた。


 そんなミケを俺は、ゆっくり、優しく、でもしっかりと抱き締める。


「今回のことで……俺、ミケがどれだけ大切なのか、ようやく自覚したよ。俺、ミケのことも好きなんだ」


「……タナト……」


「まあ、エリオラのことも好きだし、不純と言ったら不純だが」


「……ぷっ……何それ……ふふ……」


「悪いな。どうも俺は、思ったより女好きらしい」


「ホントよ、全く……」


 むっ、と口を尖らせるミケ。そんな顔も堪らなく愛おしい。


「ミケ、おれからの頼みだ。今日のことは水に流して、これからは俺の傍で、ずっと笑っていて欲しい。だから泣かないでくれ」


「……いいの……? 下手したら、誰か殺してたかもしれないのよ……?」


「大丈夫。うちの奴らは殺したぐらいじゃ死なない。だろ?」


 後ろを振り返ると、三人とも元気よく頷いた。むしろこいつらを殺せる奴なんてこの世に存在しない説。


「これからも、ずっと一緒だ。俺と一緒に生きてくれ」


「……あ、はは……っ……ぅんっ……私を……幸せにして下さいっ……!」


 ギュッ……。


 俺の胴体に手を回し、抱き締め返してくるミケ。


 感情が溢れ、制御が出来ていないのか痛いほど抱き締められてる上にゴツゴツの鎧が脇腹や肋骨にくい込んで来て痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!?


「ちょっ、ミケ! お、おれっ、折れるるるるる!」


 ボキッ。


 ぁ……。


「あ、折れたのだわ」


「いい音なのだ」


「たたたたたたタナト!? ご、ごめっ、ごめんなさいぃ〜!」






   ──第六章 完──

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