外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜
第9話 夜の魔王!
◆◆◆
一眠りして翌日。俺達は外に出ないで、取り敢えず白部屋の中で各々の時間を楽しんでいた。
イライザとイヴァロンは持ち回りの浮遊馬車内の掃除。ミケはレニーの体を綺麗に。エリオラは俺の隣に座っている。
そんな中、俺がやっているのは珍しく釣りじゃない。
《虚空の釣り堀》と外界を繋ぐ出入り口を極力小さくし、更にエリオラの不可視の魔法を組み込むことで外界からこっちは見えず、こっちからは外界の様子を確認出来る。
対象を影から見守り、どんな危険にも即座に対応出来る監視スキル。
「名付けて、絶対不可視の魔境」
「またの名をただの覗き」
「やめてよね。せっかく人がかっこよく決めてるのに」
「いや、ピープって覗きって意味じゃない……」
遠くからミケに突っ込まれたけど無視。
今俺とエリオラの前には、大きめの平皿くらいの穴が空いている。その先では、マイヤが買い物帰りなのか紙袋を持って芸術の都を歩いていた。
『おっ、マイヤちゃん買い物かい?』
『ええ、おじ様。今日は野菜が安かったから』
『マイヤねーね! あそぼー!』
『ふふふ。また後でね』
『おうマイヤちゃん! 今朝採れたリンゴだ、持ってきな!』
『まあっ、美味しそう。ありがとうございます』
たまに道行く人に話し掛けられたり、遊んでいる子供が笑顔で抱き着いたり、果物屋のおっちゃんから果物を投げ渡されたりと……何だ、こいつ人気なんだな
多分、十極天だから持て囃されてるんじゃない。マイヤの人柄が評価されてこんなに人気なんだろう。でなきゃ、街の人の目がこんなに優しいはずがない。
「ちやほやされて嬉しがるなんて、マイヤはまだまだお子ちゃま。可愛い」
「で、本音は?」
「羨ましい。私もちやほやされたい」
「後で俺がめっちゃちやほやしてやるから、我慢しなさい」
「タナトちょー好き!」
おーよしよし。分かった、分かったから今服を脱ごうとするなズボンに手をかけるな脱がそうとするな!
「子作り強制系ヒロイン……」
「お姉ちゃん、いきいきしてるのだわ」
「ここまで来ると、いっそのこと早く子供の顔を見せろと言いたくなるな」
余計なお世話じゃい!
街ブラをし、そのままホテルの部屋に戻ったマイヤ。紙袋をテーブルに置いて、ベッドに腰掛けると……自分の胸元を隠すようにし、じとーっとこっちを睨み付けてきた。
『ちょっとタナトくん、エリオラさん。さっきからジロジロ見すぎです。えっち』
え、バレたの? マジ? エリオラの隠蔽は完璧のはずなんだけど。
「……直感と感知がずば抜けて高い。凄い」
エリオラもまさか見破られるとは思わなかったのか、目を見開いて驚いていた。マイヤも、伊達に十極天じゃないってことか。
……取り敢えず黙ってやり過ご──。
『黙ってやり過ごそうとしても無駄です。もうタナトくんと達の視線の特徴は掴んでますから。どのようにして見ているのかは分かりませんが、そこから覗いてることくらいお見通しです』
……ご明察。
「エリオラ、隠蔽を解いてくれ」
「うん」
パチン。指を鳴らすと、マイヤが驚いたような顔をした。
「え、なに? どうなってるのですか、これ?」
「俺のスキルの一つだ。気にすんな」
「ほへぇ〜……!」
……スキルを極めたからか、こう言った未知の力には興味津々のようだ。新しいおもちゃを与えられた子供みたいに目を輝かせている。
それをほんわかした気持ちで見ていると、マイヤは頬を染めて取り繕うように話題を変えた。
「そ、それよりっ、女性の私生活を覗き見するとは感心しませんね。やはりあなたはどエロですか、この変態! 夜の魔王!」
「変態じゃないよ! 変態という名の紳士だよ!」
「変態! 変態! 変態!」
むむ、なんという言い掛かりだ。俺はマイヤの為を思って、こそこそと覗きをしているというのに。
「……まあいいです。昨日の今日でこんなことをしてるってことは、何かしら意図があるんでしょうし」
「お、流石。察しが良くて助かる」
「……心配してくれてるのは、とても嬉しいです。私は生まれつきスキルに恵まれ、最初から強くて……心配されることもありませんでしたから」
ふっと切なそうな顔になるが、直ぐに顔付きをキリッとさせた。
「でも言っておきますけど、私は十極天なのですよ? 【魔弾】のスキルを極めています。だから……そんなにお節介を焼かなくても大丈夫です」
ふわっと、まるで聖母のように微笑むマイヤ。まあ、十極天と呼ばれるだけあって、強いのは重々承知しているが……参ったな、なんて言おう。
頭を掻いてどうしようか悩んでいると、エリオラが口を開いた。
「マイヤ、よく聞いて。あなたの見た夢は夢じゃない。あなたの前世の記憶」
「……前世、ですか? でも私、前世の記憶なんて持ってませんが……」
「記憶を持たないで転生する魔族は多い。その多くが、生前に癒えないトラウマを抱えている。今回のマイヤがそれに該当する」
エリオラの説明を、マイヤは黙って聞いている。
「そしてその魔族は総じて、トラウマのせいなのか極端に危機察知能力が高い。マイヤは間違いなく何か危機を感じていて、それを警告夢という形で見ている。その予感は間違ってない」
「……私の身に、何か危険が起こると?」
「恐らく」
「……ありがとうございます、エリオラさん。肝に銘じておきます」
マイヤは真面目な顔でぺこりと頷くと、今度は俺に話しかけて来た。
「理由は分かりました。タナトくんがイヤらしい力で私を覗いてたことは不問にします」
「おいこら、イヤらしくないからな」
「ふん。じゃ、私はお風呂に入ります。絶対覗かないで下さいね。覗くと……」
ジャキッ。いつの間に抜いたのか、手に収まっていた銃を俺に突き付けてきた。
「はいはい、分かった分かった。覗かないから」
「そう、それでいいのです」
と、朗らかに笑うマイヤ。こいつの冗談も何となく分かってきたぞ。
マイヤが俺達に手を振り、俺達もそれに振り返すと穴を塞いだ。
心配っちゃ心配だが……あそこまで余裕そうなら、マイヤなら大丈夫そうかもな。直感だけど。
一眠りして翌日。俺達は外に出ないで、取り敢えず白部屋の中で各々の時間を楽しんでいた。
イライザとイヴァロンは持ち回りの浮遊馬車内の掃除。ミケはレニーの体を綺麗に。エリオラは俺の隣に座っている。
そんな中、俺がやっているのは珍しく釣りじゃない。
《虚空の釣り堀》と外界を繋ぐ出入り口を極力小さくし、更にエリオラの不可視の魔法を組み込むことで外界からこっちは見えず、こっちからは外界の様子を確認出来る。
対象を影から見守り、どんな危険にも即座に対応出来る監視スキル。
「名付けて、絶対不可視の魔境」
「またの名をただの覗き」
「やめてよね。せっかく人がかっこよく決めてるのに」
「いや、ピープって覗きって意味じゃない……」
遠くからミケに突っ込まれたけど無視。
今俺とエリオラの前には、大きめの平皿くらいの穴が空いている。その先では、マイヤが買い物帰りなのか紙袋を持って芸術の都を歩いていた。
『おっ、マイヤちゃん買い物かい?』
『ええ、おじ様。今日は野菜が安かったから』
『マイヤねーね! あそぼー!』
『ふふふ。また後でね』
『おうマイヤちゃん! 今朝採れたリンゴだ、持ってきな!』
『まあっ、美味しそう。ありがとうございます』
たまに道行く人に話し掛けられたり、遊んでいる子供が笑顔で抱き着いたり、果物屋のおっちゃんから果物を投げ渡されたりと……何だ、こいつ人気なんだな
多分、十極天だから持て囃されてるんじゃない。マイヤの人柄が評価されてこんなに人気なんだろう。でなきゃ、街の人の目がこんなに優しいはずがない。
「ちやほやされて嬉しがるなんて、マイヤはまだまだお子ちゃま。可愛い」
「で、本音は?」
「羨ましい。私もちやほやされたい」
「後で俺がめっちゃちやほやしてやるから、我慢しなさい」
「タナトちょー好き!」
おーよしよし。分かった、分かったから今服を脱ごうとするなズボンに手をかけるな脱がそうとするな!
「子作り強制系ヒロイン……」
「お姉ちゃん、いきいきしてるのだわ」
「ここまで来ると、いっそのこと早く子供の顔を見せろと言いたくなるな」
余計なお世話じゃい!
街ブラをし、そのままホテルの部屋に戻ったマイヤ。紙袋をテーブルに置いて、ベッドに腰掛けると……自分の胸元を隠すようにし、じとーっとこっちを睨み付けてきた。
『ちょっとタナトくん、エリオラさん。さっきからジロジロ見すぎです。えっち』
え、バレたの? マジ? エリオラの隠蔽は完璧のはずなんだけど。
「……直感と感知がずば抜けて高い。凄い」
エリオラもまさか見破られるとは思わなかったのか、目を見開いて驚いていた。マイヤも、伊達に十極天じゃないってことか。
……取り敢えず黙ってやり過ご──。
『黙ってやり過ごそうとしても無駄です。もうタナトくんと達の視線の特徴は掴んでますから。どのようにして見ているのかは分かりませんが、そこから覗いてることくらいお見通しです』
……ご明察。
「エリオラ、隠蔽を解いてくれ」
「うん」
パチン。指を鳴らすと、マイヤが驚いたような顔をした。
「え、なに? どうなってるのですか、これ?」
「俺のスキルの一つだ。気にすんな」
「ほへぇ〜……!」
……スキルを極めたからか、こう言った未知の力には興味津々のようだ。新しいおもちゃを与えられた子供みたいに目を輝かせている。
それをほんわかした気持ちで見ていると、マイヤは頬を染めて取り繕うように話題を変えた。
「そ、それよりっ、女性の私生活を覗き見するとは感心しませんね。やはりあなたはどエロですか、この変態! 夜の魔王!」
「変態じゃないよ! 変態という名の紳士だよ!」
「変態! 変態! 変態!」
むむ、なんという言い掛かりだ。俺はマイヤの為を思って、こそこそと覗きをしているというのに。
「……まあいいです。昨日の今日でこんなことをしてるってことは、何かしら意図があるんでしょうし」
「お、流石。察しが良くて助かる」
「……心配してくれてるのは、とても嬉しいです。私は生まれつきスキルに恵まれ、最初から強くて……心配されることもありませんでしたから」
ふっと切なそうな顔になるが、直ぐに顔付きをキリッとさせた。
「でも言っておきますけど、私は十極天なのですよ? 【魔弾】のスキルを極めています。だから……そんなにお節介を焼かなくても大丈夫です」
ふわっと、まるで聖母のように微笑むマイヤ。まあ、十極天と呼ばれるだけあって、強いのは重々承知しているが……参ったな、なんて言おう。
頭を掻いてどうしようか悩んでいると、エリオラが口を開いた。
「マイヤ、よく聞いて。あなたの見た夢は夢じゃない。あなたの前世の記憶」
「……前世、ですか? でも私、前世の記憶なんて持ってませんが……」
「記憶を持たないで転生する魔族は多い。その多くが、生前に癒えないトラウマを抱えている。今回のマイヤがそれに該当する」
エリオラの説明を、マイヤは黙って聞いている。
「そしてその魔族は総じて、トラウマのせいなのか極端に危機察知能力が高い。マイヤは間違いなく何か危機を感じていて、それを警告夢という形で見ている。その予感は間違ってない」
「……私の身に、何か危険が起こると?」
「恐らく」
「……ありがとうございます、エリオラさん。肝に銘じておきます」
マイヤは真面目な顔でぺこりと頷くと、今度は俺に話しかけて来た。
「理由は分かりました。タナトくんがイヤらしい力で私を覗いてたことは不問にします」
「おいこら、イヤらしくないからな」
「ふん。じゃ、私はお風呂に入ります。絶対覗かないで下さいね。覗くと……」
ジャキッ。いつの間に抜いたのか、手に収まっていた銃を俺に突き付けてきた。
「はいはい、分かった分かった。覗かないから」
「そう、それでいいのです」
と、朗らかに笑うマイヤ。こいつの冗談も何となく分かってきたぞ。
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