外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第7話 それだけです

「この度は舐めた態度を取ってしまい大変申し訳ありませんどうか許してくださいまさか本物のイライザ様だとは思わなかったんですしかもそのお姉様がいるとはつゆ知らずホントごめんなさい助けてください殺さないでください食べないでください」


 意識を取り戻したマイヤ、ずっとこんな感じで土下座しているでござる。


 うーん、綺麗な土下座だ。こんな見事な土下座は初めて見た。


「マイヤ、顔を上げるのだわ。私達とは余り気負わないで接して。ね?」


「よ、よろしいのですか……?」


「うん。楽しくお喋りしましょ」


 イライザの優しい言葉に、マイヤがほっと息を吐いた。まあ、いきなり本物のイライザやらその姉のエリオラを紹介されてもテンパるよな。


「……え、と……あの、タナトさん、早速一つ聞いても?」


「ん? 何だ?」


「えと……ミケさんとイライザ様とエリオラ様……こんな方々と一緒にいるタナトさんって、何者ですか?」


「ただの釣り人」


「ダウト」


 嘘じゃねーよ。


「マイヤ、タナトを許してあげて。この子は照れ屋さん」


「あぁ、なるほど……」


 おい何勝手に納得してんだこいつコラ。


「えっと……なら、皆さんの関係というとは……」


「私が正妻」


「必然的に私は義妹なのだわ! プラスしてお兄ちゃんの孕み袋なのだわ!」


「私は幼馴染みで……あっ、でもお妾さんということで」


「余は別に──」


「イブはタナトの〇〇〇ケース」


「エリオラ貴様ああああああああ!? 言っていいことと悪いことがあるだろうがああああああああぁぁぁ!!!!」


 あー、騒がしいなぁこいつら。個室でよかった、ほんとに。


「え、え、え? 正妻に孕み袋にお妾さんに〇〇〇ケース……?」


 思考が追いつかないのかマイヤは首を傾げていたが……次の瞬間、顔を真っ赤にして俺をギンッと睨み付けてきた。


「ふっ、ふふふふふふ不潔! えっち! 淫乱! 夜の魔王!」


「待て落ち着け。違うから、全然違うから。こいつらが勝手に言ってるだけだから」


「か、か、勝手にイって……!? なななな何言ってるんですかあなた! はっ!? ま、まさか私のことも手篭めにしようと!? い、言っておきますけど、体は自由に出来ても心まで自由に出来るとは思わないことですね!」


「あんたから話しかけて来て何好き勝手言ってんの……」


   ◆◆◆


「こほん。すみません、取り乱しました」


「あぁ、気にしてないから……」


 つ、疲れた……三十分くらいずーっと取り乱してたけど、ようやく落ち着いてくれた……。


「まあ、タナトさんが物凄い性豪だというのは分かりました」


「分かってない、分かってないぞ」


「それを踏まえた上で、私は私の身を守りながらお話させていただきます」


「安心しろ、あんたに手を出す気はない」


「それは私に魅力がないと?」


「いや、あんたはどちらかと言うと魅力的だろ」


「口説いた! 今口説きましたね!」


「だから、お前みたいな奴には手を出さないし欲情もしないし口説くつもりもない」


「……そこまでキッパリ言われるとムカつきますね」


「俺にどうしろと?」


 何だこの人、情緒不安定か? メンヘラ彼女気取りか?


「とまあ、いい感じに場が和んだところで」


「和んだか? 俺の無けなしのプライドが傷付いただけなんだが?」


「まあまあ、そんなちっぽけなものどうでもいいじゃないですか」


「自覚はしてるものの他人から言われると納得いかねぇ!」


 何なんだこいつ! 俺を傷付けてそんなに楽しいか!? 楽しいのか!?


 マイヤの言動にあえて乗せられていると、口元に手を当ててコロコロと笑った。


「ふふふ。ごめんなさい、タナトさんの反応が面白くてつい。いいリアクションをありがとうございます」


「……どういたしまして、とでも言っておく」


「ええ、そうして下さい」


 なんとなく、この人の前だとペースが崩されるな……魔族として長く生き、スキルレベルを極めた存在としての余裕と言うか、そんな感じがする。


 文字通り憎めない性格だ。実際俺も、なんとなくこの人には心を開いてしまっている。


 これがマイヤの狙い通りなら、ちょっとだけ悔しい。……ほんのちょっとだけな。


   ◆◆◆


 俺達は楽しい(?)お茶会が終わると、アート喫茶を後にした。


 思いの外時間が経っていたらしく、外は既に夕暮れ時。そらは赤く燃え、芸術の都も赤く染めていた。


 少し先を歩くマイヤが振り返ると、鋭い目付きをほんの少しだけ柔らかくした笑みを浮かべる。


「今日はありがとう。皆と仲良くなれて楽しかったわ」


「それは良かった」


 実際俺も、十極天の一人と仲良くなれてよかった。これでこいつらの状況をある程度把握することが出来る。こっちのことも十極天には筒抜けになる可能性があるが……こっちには皆がいる。抜かりはない。


「──で、俺達に近付いた本当の理由はまだ聞いてないんだが?」


「……何のことでしょう? 私はお話を……」


「その程度の嘘くらい俺でも見抜ける。同じような気配がしたからって理由で、わざわざ話がしたいなんて見え透いた嘘はな」


「…………」


 ……目に見える動揺。やはり、マイヤは何か話があって俺らに近付いたらしい。


 口元をキュッと結び、意を決したのか口を開いた。


「……最近、夢を見るんです。私ではない誰かの夢……いえ、夢にしてはリアルすぎる。多分あれは、記憶だと思うんです」


「記憶? 誰の?」


「……分かりません。ただ、そう思うだけです」


 いまいち分からないな。何が言いたいんだ?


「その夢では、私はいつもその人の視点で話が進みます。登場人物は決まってその人、その人のお師匠さん。そして……【催眠】のスキルを使う魔族」


【催眠】。その言葉を聞いたエリオラ、イライザ、イヴァロンがぴくりと反応した。が、今はそれはスルー。


「夢はいつも同じ。その人とお師匠さんが魔族に操られ、その人はお師匠さんの前で辱めを受ける。そして、最後にはその人の手でお師匠さんを殺す……そんな夢……」


「……胸糞悪いな」


「……ええ……そうですね……」


 その夢を思い出しているのか、マイヤは自分の体をキュッと抱くように腕を回した。


「……この夢は何かの警告だと思うのです。予知夢天の【予知夢】ではないけど……近い未来、何か嫌なことが起きるような予感がします」


「……このこと、他の十極天は知ってるのか?」


「いいえ、知りません。私達は十極天という同じ組織に所属はしていますが……互いに弱みを見せたりはしないのです」


 また、変なプライドを持ってやがるな。そんなもん野良犬に食わせてしまえ。


「……ってことは、この話を俺に持ち掛けたのは……」


「……別に助けて欲しいという訳ではありません。ただ、誰かに話してスッキリしたかったのかもしれない。……そんな時に、私達と同じ気配を持つあなたが現れた。それだけです」


 話は終わり。そう言うようにマイヤは小さく微笑むと、街灯の点いた大通りを歩いていき……俺達はその背中が見えなくなるまで見送っていった。

「外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く