外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第2話 平和イズナンバーワン

   ◆◆◆


「ふわあぁ~……いーい天気だなぁ……」


「すや……」


「しゅぴぃ~……」


浮遊馬車の窓際で暖かな陽射しを浴びながら釣りをしていると、俺の膝を枕にして寝ているエリオラとイライザが気持ちよさそうな寝息を立てた。まるで子猫みたいに小さく丸まっている。エリオニャとイライニャ、激かわ。


 窓から外を見ると、今は丘の上を走っているのか眼下には大草原が広がっている。ここからでも多くの草食動物が群れを作っているのがよく見えた。


「……平和だ……」


 ようやく、旅が再開出来たな……。


 そもそも俺達の目的は世界旅行だ。異界で遭難したり、十極天会合に強制参加させられたりと何だかんだあったけど……やっぱり面倒ごとに付き合わされるのは御免蒙る。平和イズナンバーワン。


 まあ、炎極天のエンリやそのバックにいる組織がエリオラを狙っているみたいだけど、今すぐどうこうしようとしてくる気配はない。というか何かしようとしても、エリオラ大先生が即どうにかしてくれるだろう。よろしくお願いします、エリオラ大明神。


 今は安らかな寝息を立てているエリオラの頭をそっと撫でる。


 寝ているからか無意識だろうけど、幸せそうな笑みを浮かべて俺の手に擦り寄ってきた。


「ふへ……んっ……すぴぃ~……」






 可愛い!! 好き!!!!






 おっと、一瞬理性が。


 落ち着け俺。自分の気持ちに素直になったとしても、そんなケダモノみたいなことはダメだ。あれ、でも今の俺達の関係って、俺よりエリオラの方がケダモノなんじゃ……。


 ……考えないようにしよう。


 そっとため息をついて釣りに集中しようとすると、御者席の方でイヴァロンとミケが何やら楽しそうに話してるのが聞こえた。


「ミケ、ミケ! 余も手綱を握りたいのだ!」


「はいはい、じゃあここに座ってね。危ないから大人しくするのよ」


 ミケはイヴァロンを膝の上に座らせると、手綱を二人で握ってレニーを操る。


「むふーっ」


 ……めちゃめちゃご満悦な笑顔っすね、イヴァロンさん。お前、破壊の魔王より職業合法ロリの方が似合ってるぞ。いや合ロリが職業なのかは知らんけど。


 っと、そうだ。


「なあルーシー。俺達が次向かってるのってどこだっけ?」


『うむ。確か芸術の都だったはずじゃ。名前はクレセンド。都市全体が芸術で造られた、言わば世界最大の芸術じゃ』


「芸術の都クレセンドか……」


 なるほど。イライザの貢献を知るなら、確かにあそこはいい場所かもな。


芸術の都クレセンドの歴史は古い。確か三〇〇〇年以上前から存在していると言われていて、混沌と破滅が跋扈していた時代でも後世に芸術品を残すために作られた都市なんだとか。


でも、その中でも失われた芸術品は数多い。それを復元し、保存に尽力したのがイライザだって聞いたことがある。


 相変わらず人類に貢献してるなぁ、イライザの奴。


「しゅぴぃ~……むにゅ……」


 当のご本人は俺の膝で寝てるわけだが。


 まあ、俺も村の皆の噂でしか聞いたことないし……どんな所なのか楽しみだな。


 そのままゆったりと釣りを楽しむこと一時間弱。御者席に座るイヴァロンが、興奮気味に声を張り上げた。


「タナト! 見えた、見えたぞ! 芸術の都だ!」


 お、着いたのか?


 エリオラとイライザを起こさないように窓を開けて外を見ると……目に飛び込んできたのは、衝撃的な光景だった。


「お……おおっ、すげぇ!」


 何だあれ、ドラゴン!? 超リアルなドラゴンが都市の外壁に描かれてる!


 そのドラゴンが、まるで生きているかのように壁を自由自在に飛び回っている。どうなってんだあれ!?


『あれはモザイクアートじゃな。石を組み合わせて、一つの巨大だドラゴンを作っているのじゃ。じゃがあのクオリティは凄まじいぞ。魔法で石を交互に浮かび上がらせることで、まるで生きたドラゴンを再現しているのじゃな』


「三〇〇〇年前には無かったのか?」


『うむ。ウチとエリオラが封印される前はあんなものはなかった。恐らくイライザが作ったものじゃろう。魔力の質がイライザのものじゃし、魔力の永久機関も水の都と同じ原理じゃ』


 ……やっぱイライザってとんでもない奴だな。芸術と魔法をここまで美しく組み合わせたセンスには脱帽だ。


「タナト。あと五分くらいで着くから、エリオラちゃんとイライザちゃんを起こして」


「はいよ」


 外壁だけでこんなに凄いんだ。都市の中どうなってるんだろうな。ワクワクが止まらん!


   ◆◆◆


 丁度五分後。芸術の都クレセンドに着いた俺達は、外壁の中を見て言葉を失っていた。


「……す、げ……」


「ほわぁ~……」


「美しいのだ……」


 どこを見ても芸術、芸術、芸術。


 建物一つとってもとんでもなく精巧で緻密な細工が施されている。しかもそれが一つや二つじゃない。目に映る建物全てが美しい。そして多分……この都市の建物全てがこんな美しいのだろう。


 見上げると、今度はカラフルな外装の建物が宙に浮いている・・・・・・・。それもかなりの数だ。どういう原理で浮いてるんだ、あのカラフルな建物は。


ありえない程多くの建物芸術の山。それなのに、全体の調和が取れている。何一つ邪魔していない。むしろどれか一つでも欠けちゃいけないような、絶妙なバランスを保っている。


「相変わらず、凄い都市ねぇ」


「むふふふふ。自慢の都市なのだわ!」


 自慢げな顔のイライザ。だけど確かにこれは凄い。自慢する気持ちがよく分かる。


「さあ皆、まずはこの世の全ての芸術が集まる場所、アートミュージアムに行くのだわ!」


 意気揚々と歩くイライザと、その横を歩くイヴァロン。ミケが後に続き、俺とエリオラも並んで最後尾を歩く。


 進んでも、進んでも、見渡す限りの芸術。都市の手前は緻密な細工の建物が多かったが、進むにつれて今度はファンキーな建物が増えてきた。


 建物全体が人の頭で、大きく開いた口が扉になっているもの。食器棚のような形のもの。犬のお尻のような建物。そもそも形が歪なもの。これが芸術……なるほど分からん。多分観光客を楽しませるために作られたものなんだろうけど、ごめんこれに関しては理解できない。


「あの頭の建物、可愛い」


「……可愛い、か?」


「可愛い」


 ……女の子の可愛いは、俺にとっては理解しかねる……。


「あの細長い建物、いいわね」


「ミケもそう思うか? 余も、あれには何やらえも言われぬ魅力を感じているぞ」


「ああ、あれは人体の内臓を模したアトラクションなのだわ。中もすごく精巧に作られてるから、あとで遊びにくるのだわ♪」


「「「さんせー!」」」


 俺としては美しい芸術品を見たいんだが……解せぬ。何がいいんだ、あれの……。


 女子ーズ四人の感性にちょっと引き気味になっていると……ん? 視線?


 キョロキョロ。どこだ? どこから見られてるんだ?


「タナトー、置いていくわよー!」


「お、おう……?」


 ……ま、気のせいだろ。俺そこまで視線や気配い敏感なわけじゃないし。


 気を取り直し、俺は少し離れた皆のいる場所に駆けて行った。










「あれ? あの男の子……?」



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