外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第9話 お主ら失礼じゃな……

 そのまま待つこと暫し。


 大広間の奥の別の扉が厳かな音を立てて開くと、その先から口髭を蓄えた初老の男性が現れた。


 獣のように鋭い眼光。瞳は王族の証である金と銀のオッドアイ。
 オールバックにしている空色の髪。
 顔の中央に大きく刻まれているバッテンの傷。


 その人が現れた瞬間、今まで口を開いていた十極天の奴らは口を噤んで席から立ち上がった。


 そうか……この人がレゼンブルク王国三十五代国王陛下。


 シャバルト・S・ミネルヴァ様、か。


 陛下が席に着くと、手を挙げて口を開いた。


「楽にせよ」


 重みと威厳のある声。シャオン王子の喋り方は、国王陛下に似せてるんだな。こっちの方が何倍も凄みがあるけど。


 陛下の言葉に、十極天は席に着く。


 その隣に控えていたシャウナが一歩前に出て、全員を見渡した。


「では、こほん。これより、十極天会合を始めさせていただきます。進行は私、シャウナ・S・ミネルヴァが務めさせていただきます。至らぬところがあるとは思いますが、御容赦願います」


 ……まともだ……シャウナがまともに見える……。いつものウヘウヘ言ったり激レア装備を見てヨダレを垂らしてるシャウナとはまるで別人だ。


「……あれ、偽物?」


「俺には本物に見えるが……」


「……私の目を欺くほどの擬態かもしれない。侮れない」


『お主ら失礼じゃな……』


 そんな軽口を叩いてると、シャウナが笑顔で俺達に無言の圧力を向けてきた。はい、黙ります。


「まず初めに、レゼンブルク王国国王陛下、シャバルト様よりご挨拶を賜りたいと──」


「よい、シャウナ。今は時を争う」


 陛下がシャウナの言葉を遮ると、シャウナも承知したように頭を下げた。


「では、会合に入らせていただきます。この度の議題は予知夢天様の見た予知夢……破壊の魔王イヴァロンの復活です」


 全員の視線が一斉に予知夢天に向く。


「うん、先日の【予知夢】で確かに見たかも」


 ……口癖なのか分からんが、“かも”を付けると曖昧になるな。


 だけど他の人は慣れてるのかそこには触れず……。


「うむ! それはまずいな!」


「でも当時の勇者が封印したのなら、力は弱くなってるんじゃなくて?」


 剣聖天が同意し、魔弾天が疑問を口にする。


 流石に察しはいいな。今のあいつちんちくりんだし。自称ぐらまーえろえろぼでーらしいが。


「魔弾天さん、油断は禁物ですよ。相手は二〇〇〇年前までの世界を混沌と破滅で包み込んだ大悪党……全盛期と同等の力を有してると考えて行動した方がいいでしょう」


 確率天がにこやかに笑いながらも、場の空気を締める。


 うーん、イヴァロンのことを知ってるだけに滑稽な話し合いだ。


「キヒッ。そ、それで予知夢天。奴はいつ復活する? あんたならそれくらい見れるでしょ?」


「それが……復活するという予知夢だけで、いつ、どこかまでは分からないかも」


「キヒヒッ。あんたでも分からないなんて、相当だねぇ」


 呪殺天が爪を噛みながら楽しそうに笑う。どうやら予知夢天の【予知夢】は相当精度がいいみたいだ。


 そんな皆の様子を見ていた国王陛下が、おもむろに口を開いた。


「確率天よ。貴様の【確率】ではどうなっている?」


「はいはい、それがですねぇ……復活する確率は一〇〇パーセントなのですが、場所や時間を指定すると毎回違う数字が出るのです。こんなこと初めてですよ」


「ふむ……予知夢天の【予知夢】でも、確率天の【確率】でも見通せない、か。確かに異常であるな」


 ふーん、【予知夢】も【確率】も、イメージ的には抽象的なもんしか分からなそうだけど……スキルレベルを極めると、狙ったもんが見えるのか。


 確かに俺の【釣り】も、今では狙って装備やアイテムを釣れる。そんなもんか。


 そんな中、要塞天が小さくてを挙げた。


「あー、予知夢天くん。魔王イヴァロンの姿形は見えとらんかのぉ?」


「うーん……曖昧かも。怪物のときもあれば、人間っぽい時もある……たまに子供っぽい見た目にもなるかも」


 お、当たってる。そうそう、子供っぽいんだよあいつ。


「ここまで存在が掴めねー奴ァ初めてだな。ダリィ」


「聖王天よ、気持ちは分かるが貧乏揺すりは止めるナリ」


「はいはい。だがよ、揺すりたくもなるってもんだぜ、こりゃあ」


 重力天の窘めも適当にあしらう聖王天。俺はイヴァロンのことを知ってるからあれだが、確かに姿形も分からない、復活する場所も時期も分からないのは不安になるよな。


 超高みの見物。つーかめっちゃ他人事。


「…………(じーーー)」


 ……ん? 炎極天、ずっとエリオラ見てるな……何だ?


「…………(ぷい)」


 あ、そっぽ向いた。うーん?


「でもさぁあー」


 創造天がお菓子を食べながら、つまらなそうに口を開いた。


「ぼくら十極天なんだよねぇ。今更って言っちゃなんだけど、魔王イヴァロンなら十分倒せるんじゃない?」


 ……うん?


「それは我も思うナリ」


「十人揃えば行けるかもしれないわね」


「キヒッ。呪い殺してやんよ」


 やんややんやと騒ぐ十極天。え、お前らマジで言ってんの? ちょ、落ち着けよ。


 こいつらの神経の図太さ(無神経さ?)に唖然としていると……。






「粛に」






 シーーーーーン……。


 国王陛下の一言で、大広間は静寂に包まれた。


「貴様らに一つ問う。……いや、その前にある事実を伝えておく」


 え、何? 何だ?


「詳しいことは話せん。だが……今この世界に、奇跡の魔女イライザ様がいらっしゃる。復活、と言って差し支えない」


 げっ……! 言った……言ったよこの人……! まあ、イライザ教団やらレヴァイナスあたりから報告を受けたんだろうけど……!


 内心慌ててる俺。だけど国王陛下のその言葉は十極天には効果的面らしく、誰もが息を飲み込んだ。


「イライザ様の復活は全てトップシークレット。他言することは許さん。そしてその上で聞く。──この中に、奇跡の魔女イライザ様と渡り合う自信のある者、手を挙げよ」


 …………。


 誰も、挙げない。


 そりゃそうだ。イライザの伝説は今日まで語り継がれている。それを知った上で手を挙げるのは、愚の骨頂と言っていい。


「……魔王イヴァロンと全盛期のイライザ様は、互角の戦いを繰り広げたという。少なくとも魔王の力はイライザ様級……それを肝に銘じた上で、会議を進めようではないか」


「「「「「はっ!」」」」」


 お……おぉ……国王陛下すげぇ。一瞬で場を引き締めた……。流石国王陛下。伊達に国王やってない。


「……で、エリオラ。実際のところどうなんだ?」


「……今のあの子なら、五人が限界。……でも」


 でも?






「力が回復したら、負けることはない」

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