外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第8話 ──瞬殺

「来ますよ、お二人共」


「ああ、分かってる……」


 戦闘に関してボンクラな俺でも分かるぞ……ここまで漂ってくる圧。とんでもないな、こりゃあ……。


 背中に冷や汗が流れる。


 背筋を伸ばして毅然としているが、内心ビビり散らしております。


「ん……ふあぁ〜」


 退屈そうに欠伸をするエリオラ。この圧の中でもブレないエリオラさん、マジパネェっす。


 あ、胃がキリキリしてきた。超トイレ行きたい。出来ればそのまま引きこもってたい。ついでに釣りしたい。


 だがそんな俺の願いとは裏腹に、大広間の扉が徐々に開いていく。


 うっ……! 少し扉が開いただけで、何て威圧感だ……!


「タナト、お辞儀」


「……え。あ、ああ」


 っぶね、忘れてた。


 エリオラと並んで急いでお辞儀をする。


 複数人の足音が聞こえる。だけど俺の視界には床が映ってるから、十極天がどんな奴らなのかは見えない。


 でも、この頭の上から押さえつけられてるような圧力……とてもじゃないが、頭を上げる気になれない……。


「十極天の皆様、お待ちしておりました。さあ、こちらへ」


 入って来た十極天を、シャウナが席まで案内する。


 が……急に、足音が止んだぞ……?


「あ、あの……皆様……?」


 シャウナの慌てたような声……なんだ、どうしたんだ? 誰か今の状況を説明してくれ、三〇〇ゴールドあげるから。


 意味が分からない状況に、意味の分からないテンパり方をする俺。


 すると。






「その方、面を上げるナリ」






 ──……厚みのある、重い声……俺の頭の上から聞こえてくる。


 つまり、これは俺に言ったセリフ……。


 うわぁ……うわぁ、嫌すぎる。とにかく嫌すぎる。俺なんもしてないよ。ただここで黙ってお辞儀してただけだよ、何なのこれ。どういうこと、ねえこれどういうこと。


「む? 聞こえているナリか?」


 あああああもう! どーにでもなーれっ!


 ゆっくり、ゆっくりと頭を上げる。と。


「うぉっ……!?」


 ち、近っ、顔近っ!?


 視界いっぱいに広がる見慣れない十人の顔ッ。しかも全員俺のことを見てるし!


 エリオラっ、助けてエリオラー!


「…………」


 しれっとした顔すんな!?


 お、俺喋り方が雑だから、シャウナから喋るなって言われてんだよ……!


「その方、何者ナリか?」
「キヒッ。臭う……臭うねィ」
「面白い気配かも。ボクらに似てるかも?」
「うむっ! 極まっている気配だ!!」
「あらあら、若いのに凄いわね、おじいさん」
「そうじゃのぅ、ばあさん」
「うんこダリィ会合だと思ったが、おもしれー奴がいるな」
「…………」
「おかしたべる?」
「とりあえず勝負しましょうか」


 うっ……ば、バレてるっ。一目見ただけで、俺の力が見透かされてる……!


 シャオン王子も大概な洞察力だったけど、こいつらもとんでもないぞ……!


 てか俺にそんな価値なんてないよ!? だから俺に構わないで!


 き、ききき緊張で口から心臓が出る……!


 あばっ、あばばばばばばばばばッ……!






「貴様ら、何をしている」






 っ! しゃ、シャオン王子……!


 大広間に入って来たシャオン王子が、十極天を前にしてもいつも通りの口調で口を開く。


「貴様らはここに遊びに来たのか? もう直ぐ王がいらっしゃる。従者程度に構っている暇があるならさっさと座れ」


「キヒッ。すみませんねィ、王子様」
「申し訳ない、シャオン王子!!」
「はぁ、ダリィ」


 ぉ……おぉっ、全員シャオン王子の言うこと聞いたぞ……! 流石、腐っても王子!


「貴様、今無礼なこと考えなかったか?」


「いや? でも助かったっす。あざっす」


「……俺が出来るのはここまでだ。会合が始まれば、俺は何も出来ん。精々生き延びることだな」


 シャオン王子はそう言い残すと、俺達に背を向けて大広間を出ていった。


 ……助けてくれた、んだよな……? これはあれか、シャウナの言うところの「デレた」ってことでいいのか……?


「てかエリオラ。助けてくれてもよかったろ……」


「安心して。あいつらが本気でタナトに害を及ぼすようなら──瞬殺」


 ……つまり、あれは俺を試してただけだ、と? なんつーはた迷惑な……始まる前から疲れる……。


 妙な疲れでげっそりとしていると、『要塞』の席に座ったおじいちゃんが楽しそうに笑った。


「ほっほっほ。会合が行われるのは何年ぶりじゃ? 皆、息災だったかの?」


 その問いに、『聖王』の席に座る男が答える。


「ダリィこと聞くなジジイ。元気満々に決まってんだろコラッ。テメェこそ風邪引いてねーな。風邪引いたら生姜湯だ、蜂蜜たっぷり入れろコラ」


「ほっほっほ。相変わらず聖王天は優しいのぅ。なあばあさんや」


「そうですね、おじいさん」


 おじいちゃんの言葉に、『確率』の席に座るおばあちゃんが答えた。


「キヒッ。誰か一人でも死んでたら面白かったのに。キヒヒッ」


「呪殺天、滅多なことを言うもんではないナリ」


『呪殺』の席に座る根暗そうな女の言葉を、『重力』に座る巌のような男が窘めた。


「魔王復活……予知夢天さんの【予知夢】が外れるとは思いませんが、本当なのでしょうか?」


「知らなーい。あ、おかしたべる?」


 セクシーな服を着ている『魔弾』の女性が不安そうにし、『創造』の子供が面倒くさそうにお菓子を頬張る。


「そうだな! 魔王復活とは甚だ唐突すぎる気もする! 予知夢天よ、真か!?」


「えっ!? あっ、は、はひっ! 多分あってるかもですっ、すみません!」


『剣聖』の美丈夫な男が問うと、『予知夢』のひ弱そうな女の子がビクビクと答えた。


「…………」


 ……『炎極』のヒョロっちい男は、暇そうだな。


 なるほど、これが十極天……それぞれのスキルを極めた十人、か。


 シャウナは慣れたようにそれぞれの話しの相手をしていたり、従者の人に細かい指示を出している。


 俺とエリオラ、おいてけぼり。どうすりゃいいの、これ?

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