外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第12話 わっしょいわっしょい!

「──タナトさん!」


 あ、起きた。


 ソファーに横になっていたエミュールが、飛び起きるや直ぐに俺を見て、再度固まった。


「おうエミュール、おはよう。そんなに慌てなくても、俺はここにいるぞ」


「…………」


 ……エミュール?


「……ふぇ……ふえぇ〜ん……たっ、たなっ……だなどじゃあぁん……!」


 大号泣!?


「よっ……よがっ……よがっだぁ……! よがっだよぅ……!」


「お、おいおいエミュール、泣きすぎだろ。どうしたんだ?」


「だっでぇ……だっでぇ……!」


 ……ダメだ、話が進まん。


「ミケ、説明プリーズ」


「エミュールちゃん、凄く後悔してたのよ。自分が幻想樹ファントムの場所を教えたから、こんなことになっちゃったんじゃないかって」


 ……そういう事か。確かに、自分が教えたもののせいでそいつが行方不明になったら、不安や後悔は計り知れないな。


「あー……エミュール。こう言うのもなんだが、俺はこうしてここにいる。生きて、戻って来た。なら泣くだけじゃなくて、笑ってくれ。お前は笑顔が一番似合うんだから」


「で、でもぉ……」


「……そうだ、いいものをやろう。お前なら、絶対喜ぶものだ」


 ズボンの後ろに隠していたファントムの枝釣り竿を取り出して、エミュールの前に差し出した。


「……こ、これ、は……?」


「持ってみれば分かる」


「…………」


 エミュールが緊張した面持ちで釣り竿を手にする。と……釣り竿が虹色に光り、まるでブロックパズルのように形を組み替えて、メガネの形に変わった。


「幻想樹ファントムの枝だ。精霊曰く、持ち主の魂に反応して形を変えるらしい。俺は釣り竿だったが……こいつは多分、エミュールの【審美眼】のスキルに反応してメガネに変わったんだろうな。付けてみろよ」


「…………」


 ……あれ、エミュール?


「…………ふひっ……」


 ……ふひ?


「……ふひ……ふひひ……ふひひひひっ。うへっ、どゅふふふふふ……うっっっひょおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 うおっ、壊れた!?


 メガネを掛け、ヨダレを撒き散らしながら周囲を見渡すエミュール。ちょっ、ヨダレ飛ばすなっ!


「……しゅ、しゅごい……! アイテムや装備だけじゃなくて、家具も、家も……人まで鑑定出来る! うへっ、うへへへへへっ」


 へぇ……ファントムの枝のお陰で【審美眼】の能力が上がったのか。アイテムと装備以外も鑑定出来るって、この先使えそうだな。


「──え……タナトさんのアソコ……こわ……」


「おい待てこの野郎。どこ見て言いやがった? どこ見て言ってんだ?」


「…………」


 頬染めて顔を背けるなこの野郎。


 俺から顔を背けたエミュールが、楽しそうに皆のことを鑑定していく。が、イヴァロンを見て完全に固まった。


「……え、いや……え? ……マジ?」


「む? 何だ貴様。余のぷりちーな顔に何か付いているか?」


 顔をぺたぺたむにむにと触るイヴァロン。いや、多分お前が魔王ってのに驚いてるんだと思うぞ。


「……ま、ま、ま……まおっ、いゔぁ……きゅ〜……」


 ばたり。あ、また倒れた。


「何だこやつは。忙しない奴め」


「全体的にお前のせいだと思う」


   ◆◆◆


「ほへぇ。魔王イヴァロン……まあタナトさんに懐いてるなら、大丈夫よね」


 再度起きたエミュールにイヴァロンの説明をした所で、やれやれと言った顔になった。


「ヤケにあっさりと受け入れたな」


「まあ、タナトさんのやることだから……」


 これは信用されてるのだろうか。それとも呆れられてるのだろうか。


 エミュールの言葉に、エリオラ達もうんうんと頷く。解せぬ……。


「……あ、そうだ。分かってると思うけど、こいつのことは他言無用で頼むな。魔王復活なんて世間に知れ渡ったら面倒だし」


「分かってるわよ。私だって面倒なことに巻き込まれたくないわ」


 エミュールはそう言うと、リビングの端に置いてあった水晶玉を持ってきた。


「何だそれ?」


「シャウちゃんに連絡を取るときに使う、連絡用の水晶よ。シャウちゃんも心配してたし、タナトさんが戻って来たことを伝えないと」


 そう言えば、ミケがそんなこと言ってたな。あいつにも礼をしないと……。


 なんて思っていると、水晶からベルのような音が鳴り響き、次の瞬間には水晶の中にシャウナの顔が浮かび上がった。何これ凄い便利。


「あ、シャウちゃん。今ちょっといい?」


『あっ、エミュちゃん! ごめんなさい、今ちょっと立て込んでて……少しなら大丈夫です』


 おぉ……遠くにいる人とこうして会話が出来るのか。


 少し離れた場所でそれを見てると、俺の後ろに隠れていたイヴァロンが俺の服を引っ張った。


「タナト、タナト。奴は誰だ? 魔族か?」


「いや。この国の第一王女、シャウナだ。エリオラやイライザ曰く、魔族の魂が転生した人間らしい」


「ほほう。だから奇妙な気配がするのだな」


 流石魔王……水晶越しでも、シャウナが只者じゃないって分かるんだな。


「実はタナトさんが戻って来て、その報告なんだけど……」


『えっ!? タナト様が戻って来たんですか!? そ、それはおめでたいです! 宴会です! 宴です! わっしょいわっしょい!』


 こいつ、こんなキャラだったか? ……まあいいや。


「おーい、シャウナ。見えてるか?」


『あ、タナト様! ご無事そうでよかったです!』


「ああ、お陰様でな。お前にも心配掛けたみたいで悪かった」


『いえいえそんな……あ!』


 えっ、何、どうした?


『そ、そうだタナト様! 是非タナト様に王城へとお越しいただきたいのです!』


 ……え、王城……?


 俺が王城に出向く理由なんてないはずだが……まさか俺のスキルやエリオラ達のことか? ……いや、こいつは俺との繋がりを断ちたくないはず。その線は薄い……。


「……何でだ? お茶会に誘ってるって訳じゃなさそうだが……」


『はい。実はここだけのお話なのですが……十極天が一人、予知夢天様から得た情報です』


 シャウナは生唾を飲むと、周囲を見渡して内緒話でもするかのように顔を水晶に近付け……。














『破壊の魔王イヴァロンが復活したそうです』


 …………。


 あー、これはまずいか?






   ──第四章 完──

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