外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第8話 誘惑じゃい阿呆!

 空に燦々と輝く太陽。空を泳ぐ白い雲。無限に広がる青空。


 地平線が青空と同化するほど青い海。寄せては返す波。


 そして──。


「ほれタナト! 早く来るのだ!」


 ──水着装備を着込むイヴァロン。同じく水着装備を着る俺。


 偶然、セットの水着装備を釣り、どうせ海にいるならと水着を着て遊ぶことになった。


 イヴァロンは紺色で両腕両脚以外を隠しているような水着。曰く、こういうのをスク水タイプと言うらしい。


 対して俺のはオレンジで、膝丈まであるズボンタイプの水着だ。


「まさか伝説の水着装備まで釣るとは、やるなタナト!」


「その水着装備、伝説級なのか?」


「うむ! 製作者不明、用途不明。だが防御力だけで言えば最上級装備にも引けを取らない、謎だらけの装備だ。昔からこの形の水着は、スク水と呼ばれている」


 へぇ……昔の人の考えることは分からんな。


 イヴァロンは特徴的なギザ歯を覗かせながら、幼女然とした笑顔で水に脚を入れる。


「あはっ、冷たいのだっ」


「おい、あんまはしゃぐなよ」


「よいではないかっ。ここには余と貴様しかおらん。それに貴様は昔の余を知らぬからな。可愛いところを見せてもよかろ?」


 いや……まあ、可愛いは可愛いが……。


「昔のお前って、そんな怖かったのか?」


「うむ。破壊の魔王の異名の通り、気に入らぬものは全て破壊し尽くしていた」


 それ幼女の癇癪じゃ……。


「貴様、今失礼なこと考えなかったか?」


「気のせいだろ」


 あとナチュラルに心読んでくるの止めろ。


「むぅ。前にも言ったが、今の余は本当の姿ではないのだ。今でもぷりちーだが、本当はぐらまーでえろえろなのだぞ。誘惑したら、タナトなんてイチコロなのだ」


 イヴァロンは、ウインクしながら腰に手を当て、体を謎にくねらせる。


「……何やってんだ?」


「誘惑じゃい阿呆!」


「……ハッ」


「笑ったなぁ! 今鼻で笑ったなぁ!」


 はっはっは。何のことやら。


「くぅ……今に見とれよ! 余が本当の姿になったら、貴様は絶対に余を追いかけ回すであろう……!」


「はいはい、凄い凄い」


「余を馬鹿にするなー!」


 ばぼっ!? しょっぺ!


「おまっ、海水をかけるな!」


「あはははは! ほれ、悔しかったらタナトも反撃してくるのだ!」


 こんにゃろめ……。


 俺も浅瀬に脚を入れると、蹴り上げるようにしてイヴァロンに水をぶっ掛けた。


「おぼっ!? き、貴様っ、脚は卑怯ぞ……!」


「はーんっ? こちとら魔王相手にしてるんだ、卑怯もへったくれもあるかい!」


「……くくくく。よろしい、ならば戦争なのだ! 来るがいい勇者よ!」


 何だかんだこいつも乗り気じゃんか。


「おりゃ!」


 水掛け追撃!


「なんのっ、バリア!」


「えっ、魔法は卑怯じゃん!?」


「余は勇者の敵対者。貴様を倒すためなら何でもするのだ!」


 ちょっ、バリア使って水掛けてくんな!?


「ほべべべべっ!」


「あはははは!」


   ◆◆◆


「ふはーっ。疲れたのだー」


「ぜぇっ、はぁっ、ぜぇっ……!」


 け、結局最初の一回以外全部バリアで止められた……。


「流石魔王、せこい……」


「余はある力を存分に使っただけなのだ」


 くぅっ。これが魔法を使える奴と使えない奴の違いか……!


 砂浜の上で横になり、空を見上げる。


 ……相変わらず、なーんも変わらない空だ。この空も、いい加減飽きてきたな……。


「タナト、いつまでもその格好では風邪を引くぞ。早う服を着るのだ」


「いや、全身濡れてるんだけど」


「全く……仕方ない。余が乾かしてやるのだ」


 イヴァロンが俺に手をかざすと、暖かな光りが俺を包み込み、全身の水分が一気に乾いた。


「ついでに体の垢や汚れも綺麗にしたぞい。感謝せよ」


「おおっ……ありがとうイヴァロン。やっぱお前いい奴だな」


「べべべべ別にいい奴じゃないわい! 余は魔王ぞ! 単なる気まぐれに過ぎぬわ!」


 頬を染めて顔を背けるイヴァロン。照れ隠しか? 可愛い奴め。


 乾いてるうちに上着を着て、《神器釣り竿》を取り出す。


「礼って程でもないが、飯にしようぜ」


「おおっ! ならプリズムフィッシュがいいのだ! あれ気に入ったのだ!」


「了解了解」


 神器を《虚空の釣り堀》に向けて振るう。


 プリズムフィッシュは割とどこの異界にもいるから、割と簡単に釣れるんだよな。


「さっかなーさっかなー♪ おっさかっなさーん♪」


 上機嫌ですね、あなた。


 えーっと……あ、いたっ。


「よっ」


「おーっ! 流石タナト、よい腕だな!」


「はっはっは、もっと褒めたまえ」


 さあ、この調子でじゃんじゃん釣って──。










 ──タナト……どこ、タナト……!──










 ……ぇ……?


 ……今の、声……気配……。


 ……エリオラ……?

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