外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第6話 見せてやるよ

   ◆◆◆


 タナトがいなくなって三日。


 流石にエミュールちゃんは店があるから、昨日と今日はここにはいない。代わりにシャウナ様が、部下を使って世界中を探してくれている。


 そして今日も私は、タナトを探して世界中を飛び回り、エリオラちゃんとイライザちゃんは協力して異界へ通じる魔法を開発している。


 でも、成果は芳しくないみたいだ。


 浮遊馬車のエリオラちゃんの部屋に入ると、薄暗い中ぶつぶつと何かを呟き、紙に私には理解出来ない魔法陣や数式を書き連ねている。


「エリオラちゃん、イライザちゃん。そろそろ休んだ方が……」


「……お姉ちゃん、休まないと体が持たないのだわ」


「いい。続ける」


 目の下のクマ。乱れた髪。


 っ……痛々しい。見てられない……。


「私はタナトに助けられた。今度は私が助ける。絶対に」


「お姉ちゃん……」


 爪を噛み、髪を掻き毟り、鬼気迫る顔で目の前の紙を眺める。


 ルーシーも手伝っているのか、妖しい光りを放っているだけだ。


 ……こんなの、もう放っておけないわ……!


 私は部屋を出てから、直ぐにタナトの部屋に入る。


 あぁ……タナトの匂い。好きな人の、好きな匂い。


 ……っ、ダメよミケ。こんな所で悦に浸ってる場合じゃないわっ。


 タナトの使っている枕と布団を掴むと、それを持ってエリオラちゃんの部屋に戻った。


「エリオラちゃん!」


「え? わぷっ」


 タナトの枕をエリオラちゃんに抱かせて、布団を被せる。


「ん〜〜〜……ぷはっ。……タナトの匂い……」


 エリオラちゃんは枕に顔を埋めて、肺を満たすように深呼吸をする。


「エリオラちゃん、寝なさい」


「……でも……」


「でもじゃないわ。寝て起きたら、頭の中が整理されていいアイディアが浮かぶかもしれないわよ」


「…………」


 ぽすっ。枕を抱き締めたまま寝転がるエリオラちゃん。


「……タナトの匂い……タナトに囲まれてる……タナト……タナトに抱かれてる……しあわせ……しゅぴぃ〜……」


 ……寝た、みたいね……。


 全く、手のかかる子だわ。


 気持ち良さそうに眠るエリオラちゃんを見ていると、イライザちゃんも布団に潜り込んで、エリオラちゃんの横に並ぶ。


「ふおぉ……お兄ちゃんの匂いに囲まれて、横にお姉ちゃんがいるのだわっ。これは濡れる」


「……あえて何とは聞かないけど、あんまり汚さないでよ」


「そ、そんなはしたないことしないのだわっ。ミケちゃんのエッチ」


「……ヨダレを付けるなって意味よ」


「……私はエッチな子なのだわ……」


 相当恥ずかしいのか、イライザちゃんは顔を真っ赤にして布団を頭から被った。


 全く、可愛い姉妹ね……こんな子達に好かれるなんて、タナトも幸せ者だわ。


 ……私も負けないくらい好きだけど……今は、この子達の天才性に頼るしかない。


 タナト……早く、帰ってきなさいよ……。


   ◆◆◆


「……む……んんっ……」


「お。起きたか?」


「……タナトっ」


 むおっ!? い、いきなり起き上がるな、ビックリするだろ。


「……よかった。余が助け出されたのは、夢ではなかったのだな」


「おう、この通りリアルだぞ」


「……ではエリオラが助け出されたのも……」


「勿論夢じゃない」


「何てことをしてくれたのだ貴様ああああああああああああああああぁぁぁ!!!!」


 え、何でいきなりキレてんの、こいつ?


「奴の魔法は、いや奴の存在はこの世界においてのバグ! 奴が一人いるだけでこの世の全ての理が崩壊するのだぞ! 混沌も破壊も融和も平和もない! 奴の気まぐれで世界は滅び、世界は創られる! それ程の力を持っているのだ!」


「知ってるよ」


「なら何故封印せぬ!」


「あいつがそんなことしない奴だって知ってるから」


 この数ヶ月、ずっとエリオラと一緒にいたから分かる。


 どんなことにも一生懸命で、何でも出来るのに鼻にかけず、やると決めたことを必ずやり通す。


 それが、エリオラという女の子だ。


「あいつは昔から人間との融和を……平和を目指してきたんだろ? だったら大丈夫。あいつは、世界を破壊しようとはしないよ」


「……何故だ。何故そう言いきれる……」


 問。エリオラが、この世界を壊さない理由。






 答。『俺が幸せに生きてる世界だから』






 ……なんて言うのは、世界に対して厚かましいにも程があるか?


「…………」


「……貴様は、奴を信じているのだな……」


 俺の無言を肯定と受け取ったのか、イヴァロンは苦笑いを浮かべると、力が抜けたのかその場にへたり込んだ。


「……余は、奴が怖い。余を上回る絶対的な力を持ち、真の意味で世界を破壊出来る可能性を持つ、奴が」


「お前ら混沌と破壊勢は、それを望んでたんじゃなかったのか?」


「違う。我らの真の目的はそんな小さいところではない」


 ……小さい? ロゥリエがアクアキアを破壊したあれも、小さいことだってのか?


「余が目指すもの。それは種の進化、種の未来、種の存続だ」


「……は? 種の……何?」


 イヴァロンは立ち上がると、遠い目をして空を見上げた。


「種の進化というのは闘争から生み出される。平和からは何も生まれない。生への渇望、魔法技術は、闘争という絶対要素があるからこそ発展する。……貴様も、心当たりがあるのではないか?」


 ……そういや、エリオラとルーシーが昔はスキルレベルマックスの人間は、山ほどいるって言ってたっけ。


 それが今や、十極天と呼ばれる十人と俺を入れた十一人のみ。


 衰退と言えばそれまでだが……イヴァロンの言ってることは分からんでもない。


「つまりお前は、全ての種族を強くし、全ての種族を発展させるために混沌と破壊を振り撒いていたと?」


「うむ」


「……何で、そんなことを……」


「停滞とは衰退だ。競争力を無くし、闘争力を失い、才能を手放し……やがて衰退は、真の破滅を迎える。──余は、それが我慢ならん」


 遠い場所を見つめ、別の時間を見つめるような悲しげな目。


 ……破壊の魔王と呼ばれているけど、こいつにもこいつの考えがあったんだな。


「……なら、尚更直ぐに戻るぞ」


「うむっ。衰退しきった世界をまた元通りに……否、当時以上の発展を……!」


「違う違う。そんなことしなくても大丈夫だ」


「……どういうことだ?」


 立ち上がり、イヴァロンの頭を撫でながら《神器釣り竿》を担ぐ。


「俺達人間や、お前達魔族……そしてその他全ての種族が、その程度で滅ぶようなヤワなもんじゃないってことを、見せてやるよ」

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