外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第18話 お前ら分かってないな?

 幻想樹ファントム……! 遂に行けるのか、そいつの所まで……!


「ついてくるですー」


「ま、待ってくれ。俺だけなのか? 他の皆は行けないのか?」


「いけぬです」


 ピシャリと即答。振り返った大統領の顔には、有無を言わせない謎の圧があった。


「たりないにんげんさん、いけないです。ちょーがんばったにんげんさん、いけるです」


「……つまり、スキルレベルを最大まで上げた人間族だけが行けるってことか……?」


「いぐざくとりー」


 そんな……ここに来たのは、今まで追い求めてきたエミュールだってのに……。


 エミュールの方を見ると、悲しげな顔をしていた。


「エミュール……」


「……気にしないでタナトさん。私は大丈夫。もうファントムに案内してくれる条件も分かったし、次は自分の力でどうにかするわ」


「……悪い、ありがとう」


 あんな悲しそうな顔、初めて見た。


 エミュールでも、あんな顔をするんだな……。


「おはなしおわったです?」


「……ああ」


「それならついてくるですー」


 大統領が神輿に乗ったまま森の奥へと進む。


「……ミケ、皆を頼む」


「ええ。行ってらしゃい」


「タナト、気を付けて」


「お兄ちゃん、行ってらしゃいなのだわ」


 皆に手を振り、大統領の後に続いて森の中に入る。


 暗く、深い森の中。今ここには俺と精霊族しかいない。ここで魔物が出て来たら……俺、間違いなく死ぬなぁ……。


「「「「んーしょ、んーしょ、んーしょ、んーしょ」」」」


 どんどん進んでいく精霊族。思いの外脚が速く、俺も自然と小走りになる。


 ……っ。な、何だ? いきなり霧がかってきたぞ。


「「「「んーしょ、んーしょ、んーしょ、んーしょ」」」」


 は、速い……今にも見失いそうだ……!


 霧が濃くなる。足元も見えづらい。精霊族もどんどんスピードが上がる……!


「ま、待って……待ってくれ……!」


「もすこしですゆえー」


 も、もう少し……!? このスピードで……!?


 くっ……精霊族の姿も霞んで来た……!


「「「「んーしょ、んーしょ、んーしょ、んーしょ」」」」


 気の抜けた掛け声なのに、もう俺の全力疾走より速いぞっ。


 濃くなった霧が、俺の体に纏わり付く。


 無造作に生える木々が邪魔をして、上手く走れない……!


 そうしてる内に精霊族の姿はぼやけ……遂に見えなくなった。


 どこだっ、どこに行った……!


「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」


 ……ん? 甘く独特な香り……? 藤の花の香りに似てる……。


 ……ぁ……あれは……木……?


「ハァ……ハァ……ハァ……これ、は……」


 俺の身長より少し高いくらいの、小さい木……。


「とーちゃーく」


 到、着……。


 呆然と木を見ていると、周囲の霧が晴れてきた。


 木の周りには水色の花が咲き乱れ、それが視界一面に広がっている。


 他の木は何もない。これ以外に木はなく、夜空には星が散りばめられている。


 これが……。


「幻想樹……ファントム……」


 確かに……幻想的な美しさだ……。


「ちょーがんばったにんげんさんにごほーびです」


 神輿から降りた大統領が、幻想樹ファントムに触れる。と──淡く、儚い光りが木を包んだ。


 その光りが風に揺れ、まるで綿のように宙を舞う。


「……す、げ……」


「て、だすです」


 手?


 手を前に出すと、綿の光りが俺の手に集まって来た。


 光りが俺の手の中で歪み、纏まり、形作る。


 これは……。


「きのぼうですな」
「ぶきじゃないですな」
「きのぼうはじめてみたです」
「やっぱりにんげんさんはおもしろいひとです」


 違う、ただの木の棒じゃない。


 これは……釣竿だ。


 軽い、手にしっくり来る。これは……。


 試しに虚空に向けて釣り竿を振るう。


 このしなやかさ。そしてたわみ加減。


「……親父の釣り竿……」


 どうして……。


「ふぁんとむ、ひとのこころ、うつすです」
「けんにもたてにもなります」
「きのぼうはおはつですが」
「とてもよいまっすぐさです」


 ……そうか、これがファントムの力なのか……。


 手に入れた人間の心を写す木。


 こいつは、俺の心なんだ。


 エミュールはそれを知ってて、俺に教えてくれた……。


 ……どう感謝すればいいんだろうな、エミュールには。


 ……あ、そうだ。


「なあ、これは一つしか持ち帰れないのか?」


「できぬです」
「るーる」
「きりつ」
「ふぶんりつ」
「あるです」


 ……ほーん……。


「お前ら分かってないな?」


「「「「です?」」」」






「ルールはな、破るためにあるんだよ」






 …………。


「なんとー」
「そーだったかー」
「もーてんだ、もーてんだ」
「とてもべんきょーなりもーした」


 勝った。


「ならとくべつですー」


 来た、もう一つ……!


 再び手をかざすと、もう一本の釣り竿が現れた。


 一人が二つ手に入れても、特に変わった様子はない。本当に何ともないみたいだ。


「ありがとう、大統領。皆も」


「いえいえー」
「ちょーがんばったにんげんさんへのごほーびですゆえ」
「たのしいひとへのおくりものです」
「ふぁいてぃんですー」


 精霊の皆が俺の脚によじ登ったり、頭の上や肩の上に乗っかる。


「じゃ……帰るか」


「「「「はっしんですー」」」」


 幻想樹ファントムに背を向けて、精霊達と一緒に元来た道を戻って行った。

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