外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第9話 えっ、悪阻!?

「あばばばばばばばばばば……!?」


「……おいエミュール、もうそろそろ王族が来るぞ。シャキッとしろ」


「むむむむむむりりりりりりりぃ〜……!」


「気持ちは分かるが、ここまで来たんだ。覚悟決めろよ」


「ガガガガガガガガガガガ……!」


 エミュールの奴、この三日間ずっとこの調子だ。客も気を使ってか、昨日と一昨日は全く人が来なかった。そのお陰で準備もスムーズに済んだけど。


 にしても、王族がここに興味を持つなんて、とんでもないことになったな……。


「うぅっ、吐き気が……!」


「えっ、悪阻!?」


「お兄ちゃんまさか……!?」


「違う。ただ緊張してるだけだ」


 あともう少しで来るのに大丈夫なのか……不安だ。


 頭を抱えて唸ってると、バケツを抱えたエミュールが青白い顔で無理に笑った。


「あ、安心して皆……これでも皆と仕事をして来て、緊張耐性は付いてるのよ。大丈夫、今更王族相手にレロロロロロロロロロ」


「あーもう、エミュールさん落ち着いて」


 ミケがレロレロしているエミュールの背中を擦る。いや全然大丈夫じゃねーじゃん……。


「……タナト、今回はエミュールさんは奥で休んでた方が……」


「王族が来るのに、店主が不在とか流石にまずいだろ……」


 今更だが、何でここに王族が来るのかは分からない。けど俗世に疎い俺でも王族は知っている。


 レゼンブルク王国を統治し、イライザと共に人間と魔族の融和を成し遂げた王族の一つ、ミネルヴァ家。


 その第十八代国王と王妃、三人の御子息、二人の御息女が今代の王族だ。


 流石に国王様が来ることはないだろうが、確か第一王女がレア物好きで知られていたはずだ。多分来るとしたら第一王女か、参謀長を務めてる第二王子辺りだろうな……。


 エミュールの緊張がうつったのか胃がキリキリしてきたぞ……。


 若干腹の違和感を覚えていると、レヴァイナスが置いていった通信魔導器がベルを鳴らした。


『あー、あー。タナト君、聞こえているか?』


「あ、ああ。聞こえてるぞ」


『あと五分で到着する。頼んだぞ』


「……了解」


 通信魔導器が切れると、皆の方を振り向いた。


「てことで……気張らず楽に行こうか」


「あーい」


「楽勝なのだわ」


「何かあったらフォローするから、大丈夫よ」


 流石、エリオラとイライザは肝が据わってる。いつも通りだ。


 ミケも王族には慣れているのか、顔は固いが緊張していない。頼りになるな、こいつら……。


「それとルーシーは喋らないように。喋るペンダントなんて、珍品中の珍品だからな」


『ウチを珍品扱いするな! 全く、なんて奴じゃ……』


 どう考えても珍品だろ。アクセサリーが喋るなんて王族に知れたら、どんなことになるやら……。


「ひっ、ひっ、ふー……ひっ、ひっ、ふー……」


「……エミュール、何やってんだ?」


「き、緊張の取れる呼吸法ですっ」


「ラマーズ呼吸法じゃねーか」


 どんだけテンパってんだこいつ。


「うぅ……タナトしゃぁん……はやっぱむりぃ……」


 おいしがみついてくんなっ、鼻水付けんな汚い!


「全く……おいエミュール、周りを見てみろ」


「ふぇ……?」


 俺に言われた通り、周囲を見渡すエミュール。


「お前は一人じゃない。俺達がいる。だから大丈夫だ」


「……ぁ……そっか……そう、だよね……今までは一人だったけど、今は皆が……タナトさんがいるんだもんね……」


 ようやく周りが見えるようになったのか、体の震えが止まって表情が和らいだ。


「ああ。俺達が全力でサポートする。だからエミュールもいつも通りにしていればいい」


「……あ、ありがとう、タナトさん。……うん、私やってみるっ」


 エミュールが自分の頬をペチペチしていると、また通信魔導器が鳴った。


『そろそろだ。出迎えの方を頼む』


「了解。外に出る」


 来た、ついに……!


 俺とエミュールが代表して外に出て、エリオラ、イライザ、ミケが店の中に残る。


 店の外には既に人集りが出来ていた。ただ、誰もこっちを見ていない。通りの先に見える豪華絢爛な浮遊馬車に釘付けだ。


 店の前には既に騎士団がいて、誰も近付かせないように囲いを作っていた。


 先頭に立つのは、巨大な黒馬に乗るレヴァイナス。先日と違い、騎士団長として鎧を身にまとっている。


 その後ろに馬車、更に後ろにも警備の騎士が並んで歩いている。


 ゆっくりと、ゆっくりと近付き……馬車が、店の前に止まった。


 俺が頭を下げると、エミュールも慌てて頭を下げる。


 浮遊馬車の扉が上部から開き、扇のように開いていくとそのまま階段になった。


 階段を降りてくる甲高い靴の音が聞こえる。


「面を上げてくださいまし」


 この声、女……と言うことは……。


 生唾を飲んで顔を上げる。


「っ…………!」


「…………」


 ぅ……ぉ……なんつー美しさだ……。


 目尻が下がり、常に笑みを絶やさない女神のような美しさと、周囲の空気を浄化するようなオーラ。


 太陽の光を反射して煌びやかに光る空色の髪。


 王族の証であるオッドアイは、金と銀に輝いている。


 今まで見て来た美人とは系統の違う、人外の美しさ。こんな感情、エリオラを初めて見た時以来だ……。


 なるほど、王国随一の美しさを誇ると呼ばれる由縁も分かる。


 この人が……。


「初めましてご両人。レゼンブルク王国第一王女、シャウナ・S・ミネルヴァと申します。本日はよろしくお願い致します」


 魔族ではなく人間でありながら、魔女・・の異名を持つ大天才。


 水銀の魔女、シャウナ様か。

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