外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜
第5話 丁重に断るでふ
「店長さん、このアイテムって……」
「ああ、はいこちらはですね……」
「あの、この装備の短剣だけってあります?」
「そちらは二階の突き当たりに……」
「すみませーん、コーヒーのお代わりをお願いします」
「ミケさんお願いします!」
「エミュールさん、好きだ。結婚してほしい」
「丁重に断るでふ」
「噛んだ!」
「噛んだぞ!」
「動揺してるエミュールたん可愛ええ!」
「わわわっ、忘れてっ、忘れてくださいぃ〜!」
……何をやってるんだ、あいつは。
エミュールの店が本格稼働して五日が過ぎ、なんと毎日毎日とんでもない数の人が出入りしている。
他の店よりもシリーズ装備が安く、意外と借金をしてでも買う客が多いみたいだ。それに安くシリーズ装備が買える店として噂が独り歩きしてるらしく、毎日新規客が増えて売上も好調だ。
店主であるエミュールがアホ可愛いという噂も流れてるから、それ目当ての客も多い。正直、それに関しては気持ちが分からないが……。
まあ、そのせいで俺達も店を手伝う羽目になっている。
俺達の役目は終わったし、もうエミュールに丸投げしてもいいと思ったけど、これだけ忙しい中丸投げしたらまた頓挫しかねないからな。ある程度軌道に乗るまで手伝うことになったのだ。
「むぅ……タナトとイチャイチャ出来ない。ムラムラする……」
「イチャイチャはともかく、確かに働き詰めだもんな……」
まさかこんなに忙しくなるとは思わなかった……。
休ませようとしても、エミュールの奴毎日水を得た魚みたいに楽しんでるんだよなぁ……。流石にどこかで休まないと、あいつぶっ倒れるぞ。
「……お兄ちゃん、あの子大丈夫なの? ふらついてるけど……」
「何?」
エミュールを見る、と……確かに足元が危うい。
これ、ちょっとまずいな……仕方ない。
「おいエミュール、ちょっとこっち来い」
「えっ。た、タナトさん?」
エミュールの手を引いて店の奥に引っ込む。
何やら背後でザワついた声が聞こえたが、今はそれどころじゃない。
「ど、どうしました、一体……?」
「どうしたもこうしたも、店の方は俺達がなんとかするから、お前ちょっと休め」
「ふぇっ!? つ、ついに戦力外通告……!?」
「そうじゃない。お前働きすぎだぞ。ここは武器やアイテムを扱う場所。不注意一つで大事故になりかねない。店長のお前が倒れたら、それこそ店をやっていけないだろ? いいから今日は休め」
「で、でも……皆が頑張ってるのに……」
「アホ」
「端的なディス!?」
いや、こいつは真性のアホだ。
「何で俺達が頑張ってると思う」
「そ、それは……お金のためとか……?」
「違う。お前が頑張ってるからだ」
「……へ?」
エミュールの方に手を置いて床に座らせると、俺もその前に座り込んだ。
「俺達はお前の頑張りを見てきた。初めて会った時変な奴だとは思ったが、どうしても装備を売りたいという熱意も伝わってきた。だから手伝うんだ」
「タナトさん……」
「いいな? 俺達が頑張ってるから、お前が頑張るんじゃない。お前が頑張ってるから、俺達も頑張ってるんだ。このままだと、いずれにせよ仕事に忙殺されるぞ」
互いが互いに頑張ってるって認め合ってるからこそのジレンマだな、これは。
「つまり、お前が頑張りすぎると俺達が休めないんだ。俺達が休むためにお前も休め」
「……は、はは……そう、ですね……確かに、ちょっと急ぎすぎてたかも……ごめん、タナトさん」
体の力が抜けたのか、座ったまま仰向けになり、天井を見上げて深呼吸をする。
「……すうぅぅ〜〜〜……はあぁぁ〜〜〜……あぁ、何だか体に力が入らないわ……」
「そんなもんだ。慌て過ぎなんだよ、お前は」
《虚空の生け簀》に腕を突っ込んで、布団を引っ張り出すとエミュールに掛ける。
「……こんなことされたら、本格的に寝ちゃうわよ」
「いいからさっさと寝ろ」
「……なら、お言葉に甘えて……すぴぃー……」
即落ちしやがった……よく見ると目の下にクマが出来てるし、やっぱ無理してたんだな。
……あ、確かいいアイテムがまだ残ってたな。短時間の睡眠でも全回復する香水で、俺も昔から愛用してるものだ。
自分の部屋から香水を取り出し、眠っているエミュールに数回プッシュする。
これで三時間も経てば、回復するだろ。
「じーーーーー……」
「……エリオラ、何覗き見してんだ?」
「……何か、エミュールに優しい気がする。いつもは雑に扱ってるのに……」
「嫉妬か?」
「バリバリの嫉妬」
リビングに来たエリオラが、エミュールの頬をつつく。それでも幸せそうに寝てるな、こいつ。
「何で今は優しいの? 惚れたの?」
「惚れてない惚れてない。……ただ、分かるんだよ。好きなものの為に必死になって頑張ったり、身を粉にして向き合う気持ちが」
俺も釣りを始めた頃は、釣りをしながら寝落ちしたり、飯も忘れて没頭して飢え死にしかけたからな……。
「俺とエミュールは似てるんだ。……だからこそ放ってはおけない」
好きなことで生きていき、好きなもので飯を食いたい。
そう、俺とこいつは同族なんだ。
「むむ……タナトが言うなら私も手伝う。でも、この子ばかりに構ってると、大変なことになる」
「大変なこと?」
「嫉妬のあまりタナトを拘束して逆レして既成事実を作る」
「怖い怖い怖い怖いっ」
あと、その辺のことは俺の同意が取れたらにしてくれ……!
「ああ、はいこちらはですね……」
「あの、この装備の短剣だけってあります?」
「そちらは二階の突き当たりに……」
「すみませーん、コーヒーのお代わりをお願いします」
「ミケさんお願いします!」
「エミュールさん、好きだ。結婚してほしい」
「丁重に断るでふ」
「噛んだ!」
「噛んだぞ!」
「動揺してるエミュールたん可愛ええ!」
「わわわっ、忘れてっ、忘れてくださいぃ〜!」
……何をやってるんだ、あいつは。
エミュールの店が本格稼働して五日が過ぎ、なんと毎日毎日とんでもない数の人が出入りしている。
他の店よりもシリーズ装備が安く、意外と借金をしてでも買う客が多いみたいだ。それに安くシリーズ装備が買える店として噂が独り歩きしてるらしく、毎日新規客が増えて売上も好調だ。
店主であるエミュールがアホ可愛いという噂も流れてるから、それ目当ての客も多い。正直、それに関しては気持ちが分からないが……。
まあ、そのせいで俺達も店を手伝う羽目になっている。
俺達の役目は終わったし、もうエミュールに丸投げしてもいいと思ったけど、これだけ忙しい中丸投げしたらまた頓挫しかねないからな。ある程度軌道に乗るまで手伝うことになったのだ。
「むぅ……タナトとイチャイチャ出来ない。ムラムラする……」
「イチャイチャはともかく、確かに働き詰めだもんな……」
まさかこんなに忙しくなるとは思わなかった……。
休ませようとしても、エミュールの奴毎日水を得た魚みたいに楽しんでるんだよなぁ……。流石にどこかで休まないと、あいつぶっ倒れるぞ。
「……お兄ちゃん、あの子大丈夫なの? ふらついてるけど……」
「何?」
エミュールを見る、と……確かに足元が危うい。
これ、ちょっとまずいな……仕方ない。
「おいエミュール、ちょっとこっち来い」
「えっ。た、タナトさん?」
エミュールの手を引いて店の奥に引っ込む。
何やら背後でザワついた声が聞こえたが、今はそれどころじゃない。
「ど、どうしました、一体……?」
「どうしたもこうしたも、店の方は俺達がなんとかするから、お前ちょっと休め」
「ふぇっ!? つ、ついに戦力外通告……!?」
「そうじゃない。お前働きすぎだぞ。ここは武器やアイテムを扱う場所。不注意一つで大事故になりかねない。店長のお前が倒れたら、それこそ店をやっていけないだろ? いいから今日は休め」
「で、でも……皆が頑張ってるのに……」
「アホ」
「端的なディス!?」
いや、こいつは真性のアホだ。
「何で俺達が頑張ってると思う」
「そ、それは……お金のためとか……?」
「違う。お前が頑張ってるからだ」
「……へ?」
エミュールの方に手を置いて床に座らせると、俺もその前に座り込んだ。
「俺達はお前の頑張りを見てきた。初めて会った時変な奴だとは思ったが、どうしても装備を売りたいという熱意も伝わってきた。だから手伝うんだ」
「タナトさん……」
「いいな? 俺達が頑張ってるから、お前が頑張るんじゃない。お前が頑張ってるから、俺達も頑張ってるんだ。このままだと、いずれにせよ仕事に忙殺されるぞ」
互いが互いに頑張ってるって認め合ってるからこそのジレンマだな、これは。
「つまり、お前が頑張りすぎると俺達が休めないんだ。俺達が休むためにお前も休め」
「……は、はは……そう、ですね……確かに、ちょっと急ぎすぎてたかも……ごめん、タナトさん」
体の力が抜けたのか、座ったまま仰向けになり、天井を見上げて深呼吸をする。
「……すうぅぅ〜〜〜……はあぁぁ〜〜〜……あぁ、何だか体に力が入らないわ……」
「そんなもんだ。慌て過ぎなんだよ、お前は」
《虚空の生け簀》に腕を突っ込んで、布団を引っ張り出すとエミュールに掛ける。
「……こんなことされたら、本格的に寝ちゃうわよ」
「いいからさっさと寝ろ」
「……なら、お言葉に甘えて……すぴぃー……」
即落ちしやがった……よく見ると目の下にクマが出来てるし、やっぱ無理してたんだな。
……あ、確かいいアイテムがまだ残ってたな。短時間の睡眠でも全回復する香水で、俺も昔から愛用してるものだ。
自分の部屋から香水を取り出し、眠っているエミュールに数回プッシュする。
これで三時間も経てば、回復するだろ。
「じーーーーー……」
「……エリオラ、何覗き見してんだ?」
「……何か、エミュールに優しい気がする。いつもは雑に扱ってるのに……」
「嫉妬か?」
「バリバリの嫉妬」
リビングに来たエリオラが、エミュールの頬をつつく。それでも幸せそうに寝てるな、こいつ。
「何で今は優しいの? 惚れたの?」
「惚れてない惚れてない。……ただ、分かるんだよ。好きなものの為に必死になって頑張ったり、身を粉にして向き合う気持ちが」
俺も釣りを始めた頃は、釣りをしながら寝落ちしたり、飯も忘れて没頭して飢え死にしかけたからな……。
「俺とエミュールは似てるんだ。……だからこそ放ってはおけない」
好きなことで生きていき、好きなもので飯を食いたい。
そう、俺とこいつは同族なんだ。
「むむ……タナトが言うなら私も手伝う。でも、この子ばかりに構ってると、大変なことになる」
「大変なこと?」
「嫉妬のあまりタナトを拘束して逆レして既成事実を作る」
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