第3話　ぷーくすくすくす

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「──何よそれ……？」


　まあ、そういう反応になるよなぁ……。


　俺からの説明を受けたエミュールは、怪しむように首を傾げた。


「あなたの【釣り】スキルで装備もアイテムも釣れて、それが全部超絶レアなもの？　そんなの信じられるはずないじゃない。馬鹿も休み休み言いなさいよ、ぷーくすくすくす」


　ゴスッ。


「殴るぞ」


「殴ったぁ！　殴ってから言ったぁ！」


　おっと失敬。つい言葉より手が。


　エミュールは脳天を擦りながら、涙目で俺を見る。


「で、でもそれが本当なら、何のリスクもなく激レア装備やアイテムを手に入れられるってことですよね？　そんなのってあり？」


「と言われても事実だしな……何なら見に来るか？」


《虚空の生け簀》への穴を開ける。


　突然現れた不気味な穴に、エミュールはドン引きしていた。


「な、何よこれっ。気持ち悪っ」


「エミュール、さっさと入るべし」


「ちょっ、エリオラさん押さないでくだ……へぶっ！」


　エリオラに背中を押されたエミュールは、上半身を《虚空の生け簀》に、下半身を外に出してコケた。


　……こう見ると、そういう感じの如何わしい店みたいで……なんかエロい。


「いつつつ……」


「おーい、大丈夫か？」


「…………」


　……返事がない、屍のようだ。


　再び声を掛けようとすると、いきなり四つん這いのような態勢になった。


「なっ……何ですかこれはぁ〜!?　す、凄い！　超絶激レア装備やアイテムがこんなに沢山ありますよぉ!?　ふおおおおおっ！」


　やめろっ、その態勢でケツを振るな！


　自分でも分かるくらい顔を赤くしていると、エリオラがエミュールのケツを思いっ切り引っぱたいた。


「ひぎぃっ!?　だ、誰ですかスパンキングしてるの！　ひぐっ！　ちょっ、やめっ……♡」


「エミュール、タナトを誘惑するなんて百年早いっ。めっ」


「そ、そんなちゅもりじゃ……うぅっ、痛いです痛いです！　……ぁっ、これはこれでちょっと快感……♡」


「とうっ」


「へぶっ！」


　最後に飛び蹴りを食らったエミュールは、その勢いで《虚空の生け簀》の中に飛び込んで行った。


　何がしたいんだ、あいつは……。


　……まあいい。俺達も中に入ろう。


　俺、エリオラ、イライザ、ミケの順に中に入ると、エミュールが目を輝かせて白部屋を見渡していた。


「ふおおぉぉ……！　すっごぉい……！」


「どうだ？　これでも信じられないか？」


「……こんなもの見せられたら、信じない訳にはいかないですよ……幻の可能性もあるけど、私の【審美眼】は本物だって言ってるし……」


「……審美眼？」


「私のスキルです。物の価値と、本物かどうか見抜くスキル。……ここにあるものは全部、間違いなく本物みたいですね……」


　エミュールは真剣な顔付きになって、振り返った。


「ここにあるものが本物だって言うのは分かりました。それで、お互いに利益があるってどういうことですか？」


「簡単だ。ここにある装備とアイテムをお前の店で売るんだ。取り分は、お前が六割で俺が四割。悪くないだろ？」


「私が六!?　そ、そんなに貰えないですよ！」


「ぶっちゃけ、俺はここにある装備やアイテムはいらないんだ。価値も使い方も分からないし、それなら売り捌いて金にした方がいいだろ？　俺的には粗大ゴミを引き取ってくれるだけでも十分だが、旅費として四割貰えるくらいで御の字だ」


「そ、粗大ゴミって……」


　……何でドン引きしてるんだこいつ？


「……エリオラさん、この人もしかして頭おかしい？」


「タナトはずっとこんな感じ。受け入れて」


「……やっぱりおかしいのね、この人」


　解せぬ。


「……まあいい。それでだ、この装備とアイテムを渡すにあたって条件がある」


「条件？」


「俺達の存在や仕入先を誰にもばらさないこと。もし俺のスキルが世間に知れ渡ったら、俺だけでなくお前も知り合いってことで危険な目に遭う。簡単だろ？」


「なるほど……確かにタナトさんのスキルは、軍が喉から手が出るほど欲しいものですね……私も危ない橋は渡りたくないですし……分かりました、誰にも言いません！」


　お、言ったな？


「よし、じゃあこの契約書にサインしろ」


「契約書!?　く、口約束でもいいじゃん!?」


「お前の性格上信用しきれない」


「酷くない!?　ねぇそれ酷くない!?」


「この契約書にサインしない限りお前は二度と装備屋を開けない呪いを掛けてもらう。エリオラに」


「そんな馬鹿な!?　うぅ、分かったわよぉ……」


　さめざめと泣きながらサインを書くエミュール。


　勿論ただの契約書じゃない。エリオラに頼んで作ってもらった特注品で、サインをした本人を厄災から護ってくれる魔法を掛けてある。


　せっかくの廃品回収先を見付けたんだ。思う存分活用させてもらうぜ。






　三日後。


「ふえぇん……たにゃとしゃぁん……お客さん来ないよぉ……」


「お前あれだ、商売の才能ないわ」


「ひどっ!?」