外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第2話 ばかぁ、あほぉ……!

「ここ? 何もないのだわ?」


「あー、確かにここに店があったような気がするわ。全部高過ぎて買う気になれなかったけど……あの店潰れちゃったのね。……まさかあの店だったの?」


「あ、ああ。そうだが……」


 まさか、あれから一ヶ月で潰れるとは……。


 エミュールの奴、まさかあれから少しも値段を下げなかったのか……? それで閉店とかアホかあいつは……。


「……あ、タナト。中に人の気配がする」


「何?」


 この空き家で中に人の気配ってことは……エミュールか?


 ドアノブを回してみると、鍵が掛かってないのか簡単に開いた。


 ゴスッ。


「おごふっ!?」


 ん? 何か当たったような感触が……。


 今度はゆっくり扉を開いてみると……女の子が顔面を抑えて床に蹲っていた。


「いっつぅ〜〜〜……! も、もう誰よっ、いきなり扉を開ける馬鹿は……!」


「……あ、エミュール……?」


 な、何だかやつれたか、こいつ……?


「え? ……ぁ……お……おぎゃぐざぁぁぁああああんっ!」


「うぼぁ!?」


 いきなり飛び付いてくんな……!?


「お、おぎゃぐざんっ! おっ、おぞっ、おぞがっだじゃびゃびべぶじゃあああああああああああ!」


「近い近い近い近い! 服に涙と鼻水をら付けるな、汚ぇから!」


「びえええええーーーーんっ!」


 腰周りにしがみついて来て離れないエミュール。無理やり剥がそうするが……そういやこいつ、力強かったなっ。ぜんっぜん剥がせない……!


「エミュール、タナトから離れて……!」


「うおおおおおーーーーんっ!」


「くっ、力強い……!」


 エリオラでも引き剥がせないとかなんだコイツ……!?


「……何なのだわ、この子……?」


「さあ……?」


 お前ら二人も呆気にとられてないで助けてくれません!?


   ◆◆◆


「ずずず〜……ふぅ。すみません、取り乱しました」


 鼻水を啜るな、汚ぇから。


 ようやく大人しくなったエミュールと一緒に、建物の奥にあるリビングに入る。


 まだ完全に引越しは終わってないのか、座卓が中央に置かれて物もチラホラと残っていた。


 その座卓を中心に、円になる俺達。その前には水の入ったコップが置かれていた。


「まあ、色々と言いたいことはあるが……お前閉店したの?」


「そうなのよおおおおおおお!!!!」


 うおっ、また泣き出した……!


「二人が帰ってから、私なりにも頑張ったの! 装備だけじゃなくてアイテムも売り出した! 落ち着けるようにってカフェも作ったり、軽食が食べられるようにフードコートを作ったりもしたの! それでもお客さん増えないのよぉぉおおお!」


 ぎゃ、ギャン泣き……見てて痛々しくなってきたぞ……。


 そんなエミュールを見ていると、エリオラが首を傾げる。


「? エミュール、メインは装備屋?」


「え、ええ。勿論……装備命の装備屋だから……」


「……装備、安くした?」


「いいえ?」


 馬鹿だ! こいつはとんだ大馬鹿野郎じゃないか!?


「おまっ、メインの装備を安くしないで出費ばかり増やしたら、そりゃこんな早く潰れるわ! 馬鹿か!?」


「ば、馬鹿じゃないもん! 私なりに頑張ったんだもん!」


「いいやお前は大馬鹿者だ! もしくは真性のあんぽんたんだ!」


 何で利益も出てないうちから店の改装やら別の市場に手を出してんだ!?


「そ、そんなに言うことないしゃないのよぉ……! ばかぁ、あほぉ……!」


「言いたくもなるわ!」


 全く、このドアホは……。


「ど、どうしたのよタナト。あんた、そんなこと言う奴じゃなかったでしょ? ちょっと落ち着きなさいよ」


「え? ……あ、ああ。そうだな、悪いエミュール。言い過ぎた」


 何でか分からんが、こいつの前だと自分をコントロール出来ないんだよな……第一印象が最悪だったからかもしれないけど。


「ぐすっ。……い、いいえ、私を思って言ってくれたんでしょ……? 私こそごめんなさい、考えなさすぎてたわ……」


 互いに謝り、コップに入った水を飲み干す。


「まあ、過ぎたことは仕方がない。問題はこれからどうするかだ。エミュール、お前まだ店は諦めてないんだろ?」


「も、勿論! 私は装備屋として大成するっていう夢があるんだから、こんな所で落ち込んでなんていられないわ!」


「なら今からでも遅くない。それ、俺達にも手伝わせてくれ」


 せっかくエミュールのために装備やらアイテムやらを集めたんだ。ここで無駄にすることはない。


「あ、ありがたいけど……何が目的なの?」


 エミュールが訝しげな目で睨み付けてくる。


 まあ、いきなり俺達みたいな奴が手を貸すなんて、怪しむに決まってるか……。


「目的も何も、前に言った通り俺とお前に利益があるからだ。詳しいことはこれから話す。その内容を吟味して、判断してくれ」


「…………」


 エミュールは腕を組んで目を閉じると、直ぐに頷いた。


「……話し、聞かせてちょうだい」

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