外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第17話 勝手に決め付けないでほしいのだわ

   ◆◆◆


 ──私はこの時代に来て、ずっと違和感を覚えていた。


 混沌と破壊を撒き散らしていた日々とは違う。


 人間との融和に駆け回っていた日々とも違う。


 融和を達成し、平和な世界を作ろうと奔走していた日々とも違う。








 ただ、何もせず、何も無く、平和になった世界をのんびりと過ごすだけの空虚な生活。








 これこそが私の求めていた世界。
 これこそが私の求めていた生活。


 それなのに……どこか張りのないこの世界が、本当に私の目指していたものなのか……たまに分からなくなる。


 当然、お姉ちゃんが目指していた世界を作れて嬉しいし、お姉ちゃんとも再会出来た。


 それでも、胸にぽっかりと空いた何かは埋まらなかった。


 …………。


 いや、違う。この穴はずっと前からあった。ずっとずっと……それこそ、三〇〇〇年も昔から。


 それから目を背けていただけだ。


 自分には何かが足りないんじゃないか。
 自分には他の人にはあるものがないんじゃないか。


 それが、私の恐怖心を駆り立てた。


 そしてそれを忘れるように、考えなくて済むように、無理に目的を作ってはそれに向かって突っ走ってきた。


 でもここ最近は、そればかり考えるようになっていた。


 生まれてから今まで感じてきた、この穴の正体がなんなのか……。


 でもつい最近、その心の穴が僅かに埋まる感覚を覚えた。


 それは……。お兄ちゃんの存在だ。






『タナト、私の番ね♪』


 ジェットウォーターコースターにお兄ちゃんとお姉ちゃんが一緒に乗った時、お姉ちゃんに嫉妬した。






『……お、お兄ちゃんっ、一緒に乗って欲しいのだわ!』


 お兄ちゃんと私が一緒に乗った時、私の心臓は高鳴った。






『俺が死んでもっ、お前だけは守ってやるからなあああああああああああ!』


 お兄ちゃんに抱き締められた温もりと言葉を聞いた時、私の心は踊った。






『イライザ、俺達はもう家族だ。だからお前のことは──何があっても守ってやる』


 お兄ちゃんの手の大きさと家族という言葉を知った時、私の気持ちは高まった。






 そしてたった今気付いた、心の穴の正体。


 私は、私と一緒にいてくれる誰かを欲していたのだ。


 私は、私の心の拠り所になる何かを欲していたのだ。


 お姉ちゃんでもない。


 ミケちゃんでもない。


 妹として? 友達として?


 違う、そうじゃない。


 私が女であり、お兄ちゃんが男である、生物学上越えられない壁。


 そう、私は。










 私は──家族が欲しかったのだ。


   ◆◆◆


「──ロゥリエ、あなたを始末する」


 エリオラから明確に発せられた敵意。


 その言葉にロゥリエはたじろいだが、直ぐに笑みを作った。


「ふふふ。強がってはいますが、あなた……私の力を覚えていまして?」


「分かってる。あなたの魔法は風。しかもトラップが得意」


「ええ、その通りです。……私は数年の時間をかけ、アクアキア全域に魔法トラップを張り巡らせました。私が合図を出した瞬間、アクアキア全域は暴風に包まれ、全て滅びますわ」


 なっ!? ま、じかよ……!


「で、す、が♡ タナト様とイライザさんを私に渡すのであればぁ〜……考えてあげてもいいですわよ?」


「…………」


 エリオラが無表情でロゥリエを見上げる。


「エリオラ……」


「エリオラちゃん……」


「……安心して、渡すつもりはない。それに──」






「《第十三紫電・天堕とす雷光イライザ》!」






 ズゴォォォォォォォォオオオオアアアアアアアッッッッッ──!!!!!!


 えっ、な、何だぁ!?


 突如白銀に染まる世界と、世界が崩壊したとしか思えないほどの轟音……!


 これっ、まさかあの魔法か……!?


 時間にして数秒か、数十秒か……ようやく世界が元の色を取り戻し、ゆっくり目を開く……と……。


「……ぇ……ぁ……は……?」


 ロゥリエの座っていた瓦礫の山が……いや、地平線までが跡形もなく消し飛んでる……?


「…………」


 ……ロゥリエはギリギリで今のを避けたのか、みっともなく尻もちをついて口をパクパクさせていた。


 そんなロゥリエを見て、イライザは腕を組む。


「ロゥリエ。あなた、私に目的や未来がない寂しい女だと思ってた? ……勝手に決め付けないでほしいのだわ」


 イライザは俺の隣に立つと、晴れやかな笑顔で腕に抱き着いてきた。


「私の目的、私の未来はお兄ちゃんと共にあるのだわ」


 ……イライザ? 一体何を……?










「私、お兄ちゃんの子供を孕むのだわ♡」










 ……………………………………………………。


「「「は?」」」

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