外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第6話 ここは俺に任せて早く行け!

「……何、この人達?」


「豚が二足歩行で人の言葉を話してるのだわ」


「ハァ……どこにでもいるのね、こういうの……」


 エリオラ、イライザ、ミケが面倒くさそうに呟く。


 まあ、ここは観光都市だからな。こういうのが一人や二人いてもおかしくないとは思ったが……。


「……あんたら、何か用か」


「ギャハハッ! 用か、だってよ!」
「スカしてんじゃねーよタコスケ」
「女おいて失せろ陰キャが!」


 オラオラしてんなこいつら……さてどうしたもんか……金出して土下座したら許してくれるかな?


「おいテメェ、痛い目みたくなかったら、マジ失せろ。寒ィぞ」


 五人の中のリーダー格っぽい奴が、俺の胸倉を掴みあげる。ひえっ、怖いっ。


 取り敢えずやり合う意思がないことを示すように、両手を挙げる。


「……この手を離した方が、お互いのためだぞ」


 俺、痛い思いしたくないし、あんたらも無駄な体力を消耗しなくていいだろ? 頼むから面倒ごとにしないうちに消えてくれ。


「アァ? 舐めてんのかテメェ!」
「ぶち殺すぞクソボケ!」
「決めた、ぶち殺す。ぶっ殺す!」


 ゲッ、やる気満々⁉︎


 ポーカーフェイスを維持しながら、内心びびり散らしてると……。


「……ねぇ」


 ……エリオラ?


 ゆらり、ゆらりと歩みを進めるエリオラ。え、何怖い……。


「あ? 何だよ。ついてくる気になったか? こっちの陰キャより物分りが──」










「誰の、胸倉を、掴んでるの?」










 ゴオオォッッッ──!!!!


 あっ、この魔力ヤバいやつだ。


「ぇ……ぁ……っ!?」


「……今すぐ、離して。……折るよ?」


 エリオラの腕が幽鬼のように伸びる。


 魔力に当てられたのか、男達は一歩も動けず放心状態になっていた。


「え、エリオラっ。ストップストップ。どうどう」


 これはまずい。マジで、ダメだ。折れるどころじゃない……消される……!


「タナトを掴む悪い腕は……これかしら?」


 ミケ、武装を展開するな! それはガチすぎる!


「お姉ちゃんの大切な人の胸倉を掴むなんて……万死、万死、万死なのだわ」


 って、イライザもかよ!?


 俺は緩んだ手を振り払って、三人を足止めするように立ち塞がる。


「お前らっ、ここは俺に任せて早く行け!」


「……ぇ、え……?」


「安心しろ、死んでもお前らに危害は加えない!」


 むしろこいつらが本気を出したら、危害どころか二度とこの世で生きていられなくなるぞ、物理的に!


「で、でも……」


「デモもストもない! いいから行けェ!」


「「「「「は、はいいぃぃ!」」」」」


 顔面蒼白にして、脇目も振らず逃げ出す五人組。


 それを見た三人は、ようやく怒気を納めてくれた。


「全く、失礼な人達」


「タナト、大丈夫? あぁ、服がシワになっちゃって……」


「だ、大丈夫、大丈夫……」


 むしろ、君達のせいで心臓が縮み上がったよ……。さっきの魔力で、周りからも無駄に注目されてるし……。


「と、取り敢えず移動しようか……!」


「あ、その前にお花を摘みに行くのだわっ。待っててね〜」


 相当我慢してたのか、イライザは物凄いスピードで走っていった。


「……じゃ、イライザが帰ってくるまで座って待ってるか?」


「大丈夫、直ぐ戻ってくる」


 ……なんで分かるんだ?


   ◆◆◆


「クソがッ、何だったんだあの女達は……!」


 アクアキアの裏路地。そこに、全身が脂汗で冷えきっている五人の男達がいた。


「あんな魔力、感じたことねーよ……!」
「まさか、高名な魔法使いとか……?」
「いや、もしかしたら魔族かも」
「バケモンかよ……!」


 あの三人から感じた途方もない力に、五人の体はまだ震えている。


「あんな化け物達を従えてるなんて……何なんだよ、あの陰キャ野郎……!」


 とにかく、あの四人にはもう近付かない。


 そう固く心に誓った、その時──。










「こんにちは」










 ゾワッ──。


「な……ぁ……っ」


 心臓を鷲掴みにされたかのような感覚。


 死を直感させる、たった一言の挨拶。


 その言葉を発した張本人は、柔和な笑みを浮かべて五人の前に立っていた。


「……逃げられると思った?」


 少女の背後に広がる、底なしの闇。


 悪魔のような、天使の笑顔。


 彼ら五人は、今までの人生を走馬灯のように振り返っていた。


 それと同時に、今までの悪事に対して、後悔と懺悔を無限に繰り返していく。


「安心して欲しいのだわ。私は人間との融和を望む魔族。命までは取らないのだわ。……でも、少しだけ、トラウマになってもらうわよ」


 少女から噴き出した闇は、五人に声を上げる暇を与えず、闇へと引きずり込み……次の瞬間には、そこには誰もいなくなった。


「二日もあれば戻って来れるのだわ。その頃には、立派な聖人君子になってるはずよ」


 大切な姉と、姉の大切な人を傷付けるものは許さない。


 誰もいない裏路地で、少女は嗤う。


 少女は闇に溶け込むように消え……裏路地には、誰もいなくなった。

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