外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第3話 姉妹丼オーケー

 村を出発した日の夜。俺達は深い森の中でキャンプをしていた。


 まあ正確にはキャンプではなく、浮遊馬車の中で快適に過ごしているだけなんだが……まさか俺達の旅が、こんな快適なものになるとは思わなかったな。


 調味料も全て揃ってるし、冷蔵室の中には食材も一通り保存されている。これのお陰で、バランスのいい飯が作れそうだ。


 まあ、俺の作れるもんと言ったら、刺身と焼き魚くらいなんだが……。


「あんた……まさか、エリオラちゃんとイライザちゃんに、それだけしか食べさせてこなかったの?」


「まあ、気に入ってくれてたし」


 チラッと二人を見ると、満足そうに頷いている。


「タナトの焼き魚、絶品」


「お兄ちゃんの刺身は新鮮なのだわ!」


「……気持ちは分かるけど、流石に栄養を考えてバランスよく食べなきゃダメよ。……今日は私が夕飯作るわ。三人は待っててちょうだい」


 えっ、ミケって料理出来るの?


 ミケはエプロンを身に付けると、冷蔵室の中へ入っていった。


「いつも魚だし、今日はお肉でいいかしら?」


「ステーキ!」


「ローストビーフ!」


「唐揚げ!」


「はいはい」


 おおっ、久々にまともな肉が食える!


 ……俺、絶望的に肉料理作れないんだよな。何でか分からんけど、絶対焦がすんだよ。


 ミケが鼻歌を歌いながら料理を作っていく。


 その心地いい音を聞きながら、俺は釣りを、エリオラとイライザはソファーに座って、魔法に関して何やら小難しい話をしていた。


 ……何だか、本当の家族みたいだな、俺達……。


 釣りをしながら色々と考えていると……。


「ミケがお母さんで、エリオラとイライザは娘か……」


 つい、そんなイメージが沸いた。


 だけど、何となくそんな配役がイメージ通りな気がする。


「え……!? ……た、た、た……たな……!?」


「ん? ミケ、どうした?」


「え、いや、しょのっ……!?」


 ……何をそんなに慌ててるんだ、こいつ?


「ミケ、落ち着いて」


「おおおおお落ち着いてるわよっ。エリオラちゃんこそ、落ち着きすぎじゃない……!?」


「問題ない。タナトの正妻は私。そのお母さんであるミケ、姑」


「姑!?」


 ……あ、そういう事か。


「ごめん、何も考えずに口走ってた」


「……まあ、タナトはいつもそうよね……!」


 だからごめんって。そんな怒んなよ。


 ミケはムスッとしながらも、手際よく下ごしらえを進めていく。ミケって、料理得意だったんだ……。


「……何だか、蚊帳の外なのだわ」


「イライザは私と大切な妹。特別。姉妹丼オーケー」


 オーケーじゃないよ!? イライザの意思は!?


「……お姉ちゃんの痴態……ハァハァ……」


 あ、ダメだこいつ、もう手遅れだ。


   ◆◆◆


「さあ出来たわ! たんと召し上がれ!」


「「「お、おぉ〜……!」」」


 す、すげぇ……彩り豊かな料理が、テーブルの上に並べられてる……!


 俺の要望した通り、ステーキはかなり肉厚だ。目の錯覚か分からんけど、輝いて見える……!


「さ、温かいうちに食べましょ。いただきます」


「「「いただきまーす!」」」


 食べやすく切ってあるステーキを口の中に入れる、と……。


「と、とろける〜……!」


 肉ってこんなに柔らかくなるんだ……て言うか、こんなに溶けるようになくなるものなんだ……!


「ミケちゃん、やるわね! とっても美味しいわ!」


「唐揚げ、最高」


「ふふ。喜んでくれたみたいで嬉しいわ。おかわりもあるから、いっぱい食べてね」


 そういうことなら、有難く食べさせてもらおう。


 はむっ。んーっ、この野菜炒めも絶品……!


「……っ……これは……」


「ん? どうした、ミケ?」


 ミケが急に険しい顔付きになり、リビングから外を見る。


 エリオラとイライザも、同じように外を見た。


「お姉ちゃん」


「ん。人の気配」


『ふむ……十五人と言ったところか。野盗の類いじゃな』


 え? 人の気配? 野盗?


「だ、大丈夫か?」


「安心して。この為に私がいるんですもの」


 胸元のペンダントに指を触れると、赤い光がミケを包み込み、次の瞬間にはフル装備のミケが姿を現した。


『ほう、メタモルフォーゼの石か。良いものを持ってるな』


「騎士団長が持たせてくれたのよ。じゃ、ちょちょいと行ってくるわ」


 天龍の破槍を構えたミケが、浮遊馬車から飛び降りてレニーに跨り、夜の闇に消える。


 直後、夜の闇の中から聞こえてくる断末魔と金属音。それも数秒で、直ぐに静かになった。


「ふー、ただいまっと」


 特に疲れた様子もなく、槍を振るって付いていた血を落とすミケ。


 この一瞬で、十五人の野盗を……伊達に《騎乗戦姫》とは呼ばれてないな……。


「ミケ、お疲れ様」


「気配だけで分かるわ。見事な手際ね!」


『戦で武勇を上げた人間の動きじゃったぞ』


「ふふ、ありがとう。ごめん、ちょっとお風呂に入ってくるわ」


 そう言うと、ミケは鎧姿から私服に戻り、風呂場へと向かっていった。


 ……うーん……。


「すまん、トイレ」


 リビングに二人を残して、トイレに隣接してる洗面所に向かうと、ミケが驚いたような目で俺を見た。


「ど、どうしたの?」


「強がってる幼馴染みを慰めに来た」


「……強がってる? 私が?」


 強気な口調だが、目の奥に動揺が見える。本当、昔から分かりやすい奴だよ。


「私はいつも通りよ。人を殺したのだって、今回が初めてじゃないわ」


「強がらなくていい。俺とお前の仲だろ?」


 ミケの頭に手を置いて、ゆっくりと撫でる。


 そのせいか、目の奥の動揺や緊張が和らいで来て……少し、悲しそうに笑った。


「……私、レニーに乗るのが好きなの」


「ああ」


「レニーに乗って、【騎乗】のスキルで、好きに走り回りたい」


「知ってる」


「でも……このスキルがあるから、私は騎士にならなきゃならない。……【騎乗】って言うのは、そういうスキルだから」


「…………」


 この世界に生きている限り、スキルと人生は切っても切り離せない。


 本当は心の優しいミケも、そう言った世界に身を投じなきゃならない。それが、この世界の原則だ。


 ミケは俺の胸に額を当て、服を弱々しく握る。


「ごめん……二人の時は、甘えてもいいかな……?」


「……ああ」


 この世界の原則には逆らえない。


 だけど……甘えるくらいは、許してくれてもいいだろ、神様……。

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