外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第2話 あいあい、凄い凄い

「で、最初はどこに行く?」


「あ、私いい所知ってるわよ。この辺で一番近くて、一番見所のある都市」


 おお、流石ミケ。騎士として色んなところに行ってるわけだ。


 ミケはカバンから一枚の地図を取り出すと、俺達のいる場所に印を付けた。


「ここが今いる湖ね。これを東へ行くと、水の都アクアキアがあるの。全ての動力源を水力で補ってる都市で、世界一美しい国として知られてるわ」


 ああ、確かそんな都市があったような……村のみんなも、人生で一度は行った方がいいって推してきてたけど、興味なくてスルーしてたな。


「アクアキア! 私の傑作じゃない! お姉ちゃん、そこ行こ!」


「ん、ミケとイライザのおすすめ。気になる」


 じゃ、多数決で決定だな。


「アクアキアってのは、ここからどのくらいだ?」


「馬で一週間くらいかしら。歩きならもっと掛かるわよ」


 いや遠いな!?


 はぁ……本当は、もっと後で出すつもりだったんだが……仕方ないか。


「《虚空の生け簀》」


 生け簀への入り口を作ると、中に手を突っ込んで一つの秘密兵器を取り出した。


「あ、これ……浮遊馬車じゃない。どうしたの?」


「ハレイが、旅に出るなら持ってけって渡してきた。イライザ様様だな」


「ふふんっ。もっと褒めていいのよ、お兄ちゃん!」


「あいあい、凄い凄い」


「むふふ、褒められたわ!」


 今のでいいのか……こいつ、本当に褒められるの好きだなぁ。


 浮いてる馬車を、ミケと協力してレニーに取り付ける。レニーもあまり不快に思ってないのか、大人しいままだ。


「ほれ、準備出来たぞ」


 エリオラとイライザを抱っこして馬車に乗せる。二人共楽しそうに馬車の中を見渡して、駆け回っていた。


「広いっ」


「空間魔法で広くしてるのね! とっても快適、気に入ったわ!」


 馬車の中は俺達の人数分の部屋が用意されていて、それに加え共用のリビングとキッチンまで備え付けられている。


 値段は……知らない方がいいこともある。こんなものをホイホイ出せるイライザ教団、マジパネェっす。


 俺とミケも馬車に乗り込むと、ミケは御者席に座り、俺はその後ろのソファーに座った。


「じゃあミケ。頼むな」


「オッケー。さあレニー、行くわよ」


「ヒヒーンッ」


 ミケが手網を操り、レニーが軽快に歩みを進める。


 流石、教団の用意した浮遊馬車。そんじょそこらの浮遊馬車とは比べ物にならないくらい快適だ。


「イライザ、アクアキアってのは何が有名なんだ?」


「千年も経ってるから分からないけど、残っているのなら天空アクアリウムが私の自慢よ!」


 天空アクアリウム? 知らないな……。


「ミケ、知ってる?」


「あー……それ、百年前に廃止されたって聞いたわ……」


「ガーーーンッ……! しょんな……」


 四つん這いになって項垂れるイライザ。ちょっと可哀想だな……。


「で、でも、天空アクアリウムをオマージュして作られた、星天アクアリウムって言う場所があるわ。アクアキア最大の観光スポットよ」


「! それなら許すのだわ! 現代人の粋を結集した観光スポット、楽しみだわ!」


 落ち込んだりニコニコしたり、忙しいなこいつ。


 さて、到着するまで時間もあるし、俺は釣りして待ってようかね。


《神器釣り竿》を召喚し、空間に向かって釣り糸を投げる。


 水場がなくても釣りが出来るって、なんて素晴らしい力なのだろうか。


「タナト、私もやる」


「お? じゃあ俺と同じ場所に投げてみろ」


「ん」


 エリオラに釣り竿を渡すと、俺の膝の上に座って釣り糸を垂らす。


 最近分かったが、俺が釣り糸を垂らしていれば、他の奴もそこを釣り堀として使うことが出来るみたいだ。


 そのお陰で、エリオラも楽しそうに釣りをしている。


「むっ。お姉ちゃんを抱っこするのは私よ! ちょっとお兄ちゃんそこどいて!」


「私、タナトに抱っこされたい。もっと言うなら抱かれたい」


「むきー! ならこうよ!」


 イライザはエリオラを抱っこすると、俺とエリオラの間に挟まるように座った。


「どう? こうすれば私も抱っこ出来るし、お姉ちゃんもお兄ちゃんに抱っこされてるわ! やっぱり私って天才ね!」


 ……これ、イライザも俺に抱っこされてる形なんだが……エリオラは慣れてるが、別の奴が俺の腕の中にいるって、変な気分だ。


「イライザも、タナトに甘えたかった?」


「ふぇ? 何言ってるの? 私が甘えたい訳ないじゃない」


「でもこの格好、イライザもタナトに抱っこされてる」


「…………あ」


 ボシュッ! 瞬間湯沸かしみたいに、首まで真っ赤になってるが……気付いてなかったのか?


「恥ずかしかったらどいていいんだぞ」


「あうあうあう……! ど、ど、どかない、わっ……!」


 強情な子だな……。


「……ねえ、ちょっと。私が操作してる後ろでイチャつくのやめてくれない? 私への嫌がらせ? 私だってタナトとイチャイチャしたいんだけど!」


「直球だな、ミケ」


「もうタナトに私の想いは知られちゃったからね! こうなりゃヤケよ!」


 うっ……あの時の唇の生々しい感触を思い出してしまい、鏡をみなくても顔が真っ赤なのが分かる。


「あ……うぅ〜……」


 こっちを見ていたミケも思い出したのか、顔が真っ赤になっていた。


「……み、ミケっ、前向け前……!」


「そ、そうね。安全運転で行くわ……!」


 あー、くそっ……俺、こんなキャラじゃないんだけどなぁ……。

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