外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第1話 お姉ちゃんこいつにベタ惚れだった!

「……平和だぁ〜……」


「のびのびー」


『眠くなるのじゃぁ〜……』


 湖の縁で釣り竿を垂らし、俺の隣でエリオラも溶けた顔で釣りを楽しんでいる。


「……ねえ、お姉ちゃん」


「イライザ、どうしたの?」


 見ると、イライザはムスッとした顔で湖を眺めていた。


「どうした、便所か? 小便ならあっちの木陰で……」


「ちっがうわよ馬鹿お兄!」


 おいおい、そんなに怒るな。魚が逃げるだろ。


 イライザは眉間に皺を寄せ、子供みたいに地団駄を踏んだ。


「世界を見に行くんじゃなかったの!? 旅に出るんじゃなかったの!? もう三日もこうしてるじゃない!」


 ……こいつ、もう少しで寿命の来る年齢じゃなかったの? すげー子供っぽいんだけど。


「イライザ、ここ座って。一緒に釣りしよ?」


「お姉ちゃんまで……もうっ」


 エリオラの言うことには逆らわないのか、隣に座ってエリオラの肩に頭を乗せる。


「よしよし」


「……むふっ……」


 おい、こいつエリオラから見えないように、がっつり鼻の下伸ばして胸をガン見してるぞ。こいつぁヤベぇぜ……。


 お、引いてる。


「よっと。レインボーフィッシュか。食べる?」


「「食べる!」」


 目をキラキラさせ、ヨダレを垂らす二人。ホント、そっくりだな。


 今釣った魚を串に刺して、焚き火に当てる。


 香ばしい匂いが鼻腔をくすぐると、二人は余計ヨダレを垂らした。


「くんくん。タナトの焼き魚はいつも格別。じゅるり」


「すんすん。悔しいけれど、完全に同意ね。じゅるり」


「焼き魚なんて、誰が焼いても同じだろ?」


「「違うっ」」


 うわっ、いきなり身を乗り出してくるな、危ねぇ。


「お兄ちゃんの焼いた魚は、外はカリカリで中はフワフワっ」


「塩加減も抜群。それに加えて愛情たっぷり……♡」


「「ねーっ」」


 いや、ねーって。別に愛情は入れてないんだが……まあいいや。


 両面をじっくり焼いていくと……あ、一つしか焼いてねーじゃん。いつもの癖で、エリオラの分しか焼いてなかった。


「悪い、あと一匹釣るから、これどっち食べるか決めてくれ」


「あ、お姉ちゃん先いいよ。あとで一口ちょうだい」


「ん。ありがと」


 丁度いい焼き加減で、エリオラに手渡す。


「いただきます♪ はむ。……んーっ」


 頬を押さえて、顔を蕩けさせるエリオラ。ホント、美味そうに食うな。


「イライザ、どうぞ」


「ありがと!」


 イライザはエリオラから焼き魚を受け取ると……ん? エリオラの噛んだところじーっと見つめて、どうしたんだ?


「……お姉ちゃんと間接キス……ハァハァ……」


 ダメだこいつ、早く何とかしないと……。


「……イライザ、どうしたの?」


「! な、何でもないよ、お姉ちゃんっ。い、いただきまーす」


 はむっ。


「……〜〜〜〜っ! はあぁん……おいし♡」


 ……この三日で思ったが、イライザのリアクションはエリオラと違い、何と言うか……ちょっとエロい。


 まあ、エリオラの食べかけだからかもしれないけど。


「あ、おいエリオラ。引いてるぞ」


「え? わ、わっ……!」


 エリオラは急いで釣り竿を引く。かなりの大物だな。多分レインボーフィッシュの主くらいだろう。


「落ち着けエリオラ。引き続けるんじゃなくて、たまに緩めるんだ」


 エリオラの背後に立って、釣り竿に手を添える。


「こ、こう?」


「そうそう、上手いぞ」


「えへへ……褒められた」


 中々エリオラも釣り人として様になって来たな。ホント、教えがいのある子だ。


「行くぞ。せーのっ」


「えいっ!」


 気合と共に釣り竿を思い切り引くと、デカいレインボーフィッシュが釣れた。思った通り主級だな。


「釣れたっ。むふーっ」


「ナイス、エリオラ」


「どやっ」


 エリオラの頭を撫でると、得意げに胸を張った。たゆんと揺れる胸がなんとも……。


「ぐぬぬ……! あ、あーっ、お兄ちゃん、お姉ちゃんの胸見てる!」


「みみみ見とらんわ!」


 揺れる胸に目が行くのは男の性というものであって、決してやましい気持ちはない!


「! タナト、ヤる? 子作りする? 子作りする!?」


「しない! しないから!」


 あと直球過ぎるぞお前! 妹が見てるんだからもうちょっと自重しろ!


「むー! そこはビンタされる流れでしょーっ!」


「タナトになら見られても構わない。もっと見て。むしろ見て」


「そうだった、お姉ちゃんこいつにベタ惚れだった!」


 ……男としては悪い気はしないけど、頼むから今は釣りに集中してくれ……。


『……お。タナト、ミケの気配じゃ』


「お、やっと来たな」


 振り返ると、ミケがレニーに乗って走って来るのが見えた。


「タナト、お待たせー!」


「おー、ミケ。お疲れさん」


 ミケは鎧姿ではなく暖色系の服を着ていて、レニーにはかなりの量の荷物が積まれている。準備はバッチリみたいだ。


「あれ? ミケ、どうしたの?」


「三人の旅に、護衛として行くことになったのよ。タナトから聞いてない?」


「聞いてない」


 まあ、半分サプライズのつもりだったし。


「実は、ミケは騎士団に戻ったんだが、上司に嘘をついた事には変わりないってことでな。罰として、無期限で俺達の警護をしてくれることになったんだ」


 話しをレヴァイナスから受けた時は、罰ってよりも依頼に近かったけどな。




『騎士としてではなく、私も一人の女として彼女の恋路を応援している。彼女の恋の相手である君にお願いするのは間違ってるとは思うが……どうか彼女を連れて行ってあげて欲しい』




 こんなこと、ミケには言えないけど。俺が恥ずか死ぬ。


「と言うことよ。よろしくね、エリオラちゃん、イライザ様」


「んっ、よろしく、ミケ。嬉しい」


「よろしくミケちゃん! でも私のことは呼び捨てでいいわ。お姉ちゃんの友達だもの!」


「そ、それはぁ……」


 ……ま、なんにせよ、これで全員揃ったな。


 じゃあ、気は乗らないが……出発しますかぁ。

「外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く