外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第30話 スローライフのスパイスとして

 新しくイライザを伴い、俺達は魔水晶の部屋から大聖堂へと戻って来た。


「おお……千年経っても変わってないのね。ちょっと美術品が私好みじゃないけど」


「そう? 私はイライザっぽいって思った」


「やっぱりいいセンスね! 流石私の信者!」


 おい、この高速手の平返し女どうにかしろ。


「……まさか、私達の信仰していたイライザ様本人が現世に現れて、大聖堂の品評をされるなんて……」


「おいハレイ。魔法と言うのはあんなめちゃくちゃなものなのか……?」


「そんな訳ないじゃないですか。エリオラ様が特殊過ぎるんです……」


「だよな……」


 ハレイとレヴァイナスがげっそりした顔で何やら話している。まあ、そんな顔になるのも分かるよ……。


 あぁ……何だか、どっと疲れたなぁ……帰って釣りしたい。


 体の底から溢れ出る疲労感に抗い、大聖堂を出ようとする。と……一つの影が、勢いよく大聖堂の中へ入って来た。


 あれは……。


「ミケ、レニー……?」


 え、何で大聖堂に……と言うか、そのフルアーマー装備はどういう……?


「騎士団長レヴァイナス! タナトとエリオラちゃんの身柄を賭けて、決闘しなさい!」


「ブルルルルッ……!」


 …………あ、なるほど。


「ミケ、ミケ」


「あ、タナト! 大丈夫? 今助けてあげるからね!」


「いや、そうじゃなくてね。全部終わった」


「……へ?」


 うーむ……どう説明したものか。


 ……とりあえず説明だけしておこ。


 イライザ教団が何故エリオラを指名手配したのかから始まり、今までの経緯を掻い摘んで説明する。


「……意味が分からないわ……」


「安心しろ、俺もだ」


 この流れを現場も見ないで理解出来るわけないからな……。


「まあ、このエリオラの色違いが、イライザだ。間違いなく本物だぞ」


「色違い言うな!」


 パッと見マジで色の違い以外見分けつかないんだが……。


「え、えぇ……うん、分からないことが分かったわ!」


 ……うん、ミケはそれでいいよ。いつまでもそのままのミケでいてくれ。


「ミケ、いいかな?」


「え……あっ、き、騎士団長……! こ、これはそのぉ……」


 ミケは槍を後ろに隠し、目を逸らす。


 そんなミケの前に立ったレヴァイナスは、腰を折って頭を下げた。


「……すまなかった、ミケ」


「……え……な、何が、ですか?」


「……君は、騎士の誇りを賭けたのに私に嘘をついた。それは、私達仲間を欺くためと思っていたが……どうやら違っていたらしい。今なら分かるよ。全てを投げうち、プライドを捨ててでも、友として彼女を護りたいという思いが」


 レヴァイナスは肩口にエリオラを見て、そっと微笑んだ。


「……ミケ。許してくれとは言わない。だが、謝罪だけはさせてくれ。本当にすまなかった」


「……いえ、騎士団長。分かってくださったのなら、大丈夫です」


「……ありがとう……」


 ……ふぅ。やれやれ、二人のいざこざも丸く収まったな。


「ミケ……!」


「わっ……! え、エリオラちゃん……!」


 エリオラがミケに向かって走り、鎧の上からでも関係なく抱き締めた。


「ミケ。ありがとう……ほんと、嬉しかったよ」


「あ、あの時は、私も必死だったから……その……き、気にしないでいいわよっ」


 顔を真っ赤にして照れるミケ。こんなミケを見るのも、久々だな。


「ぐぬぬぬぬ……何よあの女ァ……!」


 ……こっちはこっちで、別の意味で顔を真っ赤にしてるな。


「……それにしても、もうエリオラとはお別れなんだなぁ……早いようで、長かったようで……元気で暮らせよ、エリオラ」


「……何言ってるの、タナト?」


「え? だって旅に出るんだろ?」


「え? 付いてこないの?」


「え?」


「え?」


 …………え、俺も行くの?


「ふふん、お兄ちゃんなんか付いてこなくてもいいわよ。私とお姉ちゃんだけで十分だもん」


「ああ、俺元々、この世界に思い入れもないしな。釣りだけして生きてたい」


「なんですってェ!? 私の作った世界に興味ないとか、あんたそれでも今を生きる現代人なのッ!? 決めた、やっぱりお兄ちゃんも付いてきなさい! 私の世界の素晴らしさを、その脳裏に焼き付けさせてやるんだからぁ!」


 えぇ……付いてくるなって言ったり、付いてこいって言ったり、なんなのこの子……。


「タナト、お兄ちゃんって何!? 何でタナトがイライザ様のお兄ちゃんなの!?」


「お兄ちゃんはお兄ちゃんよ! お姉ちゃんの旦那さんだもん!」


「だだだだだ旦那!? いつの間に結婚したのよあんた達!?」


「えっ!? 結婚してないの!?」


 ギャーギャーワーワー……お前ら、喧しいぞ。


 と、頭を押さえて項垂れてると、エリオラが俺の服の袖を引っ張ってきた。


「タナト……行こ?」


『タナト、行くのじゃ!』


「ぅ…………」


 ……その上目遣い、ずるい……。


「……はぁ、分かったよ。最悪、《虚空の釣り堀》もあるからな。釣りはどこでも出来る」


「やった♪」


 ……正直、世界をまたに掛けた旅行なんて、興味がない。


 俺は、ゆっくりのんびりまったりと、釣りだけが出来ればそれでいい。


 武器を釣っても、アイテムを釣っても、エリオラのような美少女を釣っても。


 俺はスローライフだけはやめる気はない。


 だけど……。


「これからもよろしく、タナト♪」


「よろしくしてあげるわ、お兄ちゃん!」


「……はぁ。よろしくな、二人共」


 ……まあ、ちょっとの大冒険くらい、スローライフのスパイスとしてはちょうどいい、のか?






   ──第一章 完──

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