外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第26話 あるのは事実のみ

 ……っ……これ、マジで不味いんじゃね……?


 俺から騎士団長の姿は見えない。だけど、声からして女のような気もする。


 前方には唖然とするミケと、威嚇しているエリオラとルーシー。


 どうするか悩んでると、ミケが生唾を飲んで口を開いた。


「……騎士団長、何でここに……?」


「私、聞いたはずだよ。私に隠してることはないかな? とね」


 覚えがあるのか、ミケは唇を噛んで黙る。


「実は既に、マドュルに聞いていたんだよ。彼女とミケが一緒にいたという情報をね。まあ、奴は出世欲の塊。誰にも報告せず、自分だけで彼女を捕らえようとしたらしいが……そこは、団長特権で白状してもらった」


 マドュル……くそ、あの豚騎士か……!


「本当は、ミケの口から彼女について聞きたかったんだが……君は話さないし、仕方なく後をつけたんだ。悪く思わないでくれ」


 くっ……まさか、あいつとの接点があったことで、ここがバレるなんて……!


「……タナト、ごめん」


「……気にするな。これはお前のせいじゃない」


 そう、誰のせいでもない。これは、偶発的に起こった不運のせいだ。


「……なあ、騎士団長さん?」


「何かな、ミケの想い人のタナト君?」


「その言い方は止めてほしいが……俺をどうするつもりだ?」


「人質だよ。君を人質に、彼女には同行してもらう」


 だろうと思ったよ。


「騎士がこんなことしていいのか? 騎士って言うのは、正々堂々を信条にしてるんじゃないのか?」


「ああ。正々堂々、彼女を生け捕りに出来たらいいんだけどね。ただ、私と彼女が正々堂々戦うと、どっちかが死にかねないから」


 ……あの魔法の一撃を見ても、自分が負けるではなく、どちらが死ぬか分からないと判断したのか……ということは、この人もエリオラ並の力を持ってるってこと……。


 これは、本格的にまずいな……。


「……イライザ教団は、何のためにエリオラを探してる?」


「分からない。私達はただ、依頼されただけ」


「なら──」


「タナト君。少しうるさいよ」


 騎士団長の剣が、僅かに俺の喉に触れ、それ以上言葉を発することを許さない。


 くそっ……どうする……どうする……!


「さあ、そこの彼女……エリオラ、だったかな? ご同行願おうか」


「ぅ……うぅ……!」


 敵意剥き出しのエリオラの顔。


 だがそれも、徐々に弱々しくなっていき……。


「……分かった。ついてく」


「エリオラ……!」


「エリオラちゃん……!」


 ……く、そ……俺はこんな時、無力だ……。


「なら行こう。ああ、タナト君はこのまま捕らえさせてもらうよ。君が何か不信な動きをした瞬間、この首は跳ぶ。いいね?」


「……ん。抵抗しない」


「……いい子だ」


 騎士団長は俺の腕を鎖で拘束すると、剣を抜いたまま道を歩く。その横をエリオラが付いてきた。


「……そうだ。ミケ」


「は、はいっ」


「君はクビだ」


 ……は?


「……ぇ……」


「騎士の誇りに誓ったというのに、私に知らないと嘘をついた。明日中に除名するから、そのつもりで」


 こいつ……!


「お前ッ! ミケがどんな思いで騎士になったか知らないで……!」


「個人の事情は知らない。興味もない。あるのは事実のみ」


 こ、の……クソ騎士が……!


「……俺は、お前みたいな奴を騎士とは認めない。お前みたいな奴は騎士じゃない」


「……君は騎士というのをまるで理解していないね。騎士が誇りを賭けるというのは、それほど重く、重要な意味がある。──裏を返せば、騎士の誇りを捨ててまで、君達を護りたかったんだよ、ミケは」


 ……ミケ……そうだったのか……。


 ミケを見ると、油断なく構えてるように見えて、耳まで赤くしていた。図星か。


「……羨ましい限りだ。ルールやしがらみに囚われず、愛情や友情を取る……君達が」


 背後の騎士団長から、過去を思い返すような哀愁の滲む声が聞こえる。


「……さあ、行こうか」


 ぁ……ミケ……!


 ミケは俯き、その場から動かない。


 だが、僅かに見えた頬からは……一雫の、涙が零れ落ちた。


 っ……くそっ、くそっ……くそっ……!


 クソォッ……!


   ◆◆◆


「何ですって……彼女を捕まえた……!?」


 大聖堂最奥、祭壇の前で、教主は教団員からの報告を受けていた。


「はい。騎士団団長、レヴァイナス様が捕まえたと、たった今報告がありました」


「……そう、彼女が……」


 教主は何を思っているのか、目を閉じて思案する。


「……分かりました。到着したら、私の元に連れてくるよう伝達を」


「はい」


 ローブ姿の教団員はこうべを垂れると、大聖堂を出ていった。


「……何故、こうも簡単に……?」


 疑問を口にする教主。


 だがその答えを知る者はおらず……呟いた言葉は、大聖堂へ溶けて消えた。

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