外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第25話 ──友達だから

「んっ……んーーーっ……! 疲れたぁ……」


 流石に休憩なしでやり過ぎたな……。


 気が付くと、空も夕焼け色に染まってる。この世界は、ちゃんと昼と夜もあるみたいだ。


「おいエリオラ、そろそろ帰るぞ」


「えー、もうちょっと……」


「いつでも来れるんしだしいいだろ? それに、白部屋の中に休憩スペースとか作っておけば、いつでも遊べるぞ」


「なるほど。じゃあ帰る」


 今までずっと泳いでたエリオラは、魔法で桟橋の上に浮かび上がると直ぐに服を着た。濡れない水って便利だな。


 白部屋に戻って、再び穴を作って外に出る、と……外も生け簀と同じで、夕暮れ時だった。


「何だか、もっと長い時間いた気がするけどなぁ」


『あれだけの大自然じゃ。ゆっくりした時間に感じられたのじゃろう』


 そういうもんかね。


 エリオラは疲れたのか、今にも落ちそうなほど眠そうだ。


「眠いか?」


「んっ……んーん。眠く、ない……」


 いや眠いだろお前。


「二人はちょっと休んでろ。俺はあそこの装備を白部屋の中に放り込むから」


「手伝……すやぁ……」


 こ、こいつ、立ったまま寝たぞ……しょうがねぇ奴だな。


 起こさないようにエリオラを木陰に移動させて寝かせる。指名手配されてるのに、全く動じてない幸せそうな寝顔だ。


「ルーシー、手伝ってくれないか?」


『うむ』


 ルーシーは魔法で装備を浮かばせ、ひょいひょいと白部屋の中に入れていく。俺も微力ながら運んでいき、少しずつ装備の山がなくなっていった。


「ふぅ……こうして見ると、アイテムも相当あるな……」


『うむ。アイテムだけで数千種類もあるからの。流石にウチも、全部は把握出来ておらん』


 ルーシーも把握出来てないほどの数ってすげーな。これ全部俺が釣ったって考えると、感慨深いものがある。


 装備とアイテムを入れて、入れて……完全に日が暮れて辺りが真っ暗になった所で、装備を入れ終えた。


「おー、スッキリしたな!」


 今まであった装備の山が無くなった! いやー、片付けって気持ちのいいものだなぁー。


『……ん? ……タナト、ミケの気配じゃ』


「んえ?」


 ミケ? 何で?


 振り向くと、遠くからミケがレニーに乗って走ってくるのが見えた。


「ミケ、どうしたんだよ?」


「タナト……やっぱり、直ぐに国外に逃げて。お願い」


「……え?」


 み、ミケ……?


 ミケはレニーから降りると、辛そうな顔で俺の手を握って来た。


「騎士団の動きが活発になってる。つまり、ミレイのいる教団……イライザ教団はそれだけ本気でエリオラちゃんを探してるの。数日後には、この村にも騎士団の人が探索に来るわ」


「た、探索に来ても、みんなが黙ってくれれば……」


「人の口に戸は立てられない。よく考えて、エリオラちゃんを捕らえた時の賞金額を。私達騎士団ならともかく、村の人達が一生かけて稼げる額だと思う?」


 …………思わない。エリオラの身柄には、最低でも五〇〇〇万ゴールドの金が掛けられている。


 確かに俺の考えてることは、性善説だ。


 村のみんなを信用し、それに胡座をかいてるだけ。


 だけど……。


「ふざけんな……ふざけんなよ、ミケ」


「……え。タナ、ト……?」


「お前、どうしちまったんだよ……! 村のみんなを信用しないなんて……!」


 ああそうだ。俺が考えてることは甘い。甘すぎる。


 この甘さで、いつか裏切られても、いつか寝首を掛かれるかもしれない。


 だけど、村のみんなは家族だ。家族を信用しないなんて、有り得ないんだよ……!


「お、落ち着いてタナト。別にみんなを信用するなって言ってるわけじゃないの……!」


「そう言ってるようなもんだろうが!」


 思わず出た、自分でも驚くような声量。


 そのせいで、木陰で寝ていたエリオラが起きた。


「んん……? たなと……?」


 ……ぁ……っ……。


「……ミケ、帰ってくれ」


 今は、ミケの顔は……。


「…………タナト、最初に謝っておくわ。ごめんなさい」


「……え? ガッ……!?」


 不意に顔面への衝撃と、口の中に広がる鉄の味。え、殴ら……え……?


「タナト……!」


『こりゃミケ! 流石のお主でも──』


「エリオラ、ルーシー!!!!」


 ミケの鬼気迫る怒声に、エリオラとルーシーはその場に硬直した。


 ミケは悲しそうな、辛そうな目で俺を見つめる。


「……タナト。私ね、あなたのことが好きよ。本当に、世界一大好き」


「……ぇ……ぁ……」


 ミケが俺の前にしゃがみ……俺の頭を、ギュッと抱き締めた。


「いつも、あなたのことを想ってる。いつも、あなたが幸せでいて欲しいと願ってる。……でも、それと同じくらい、エリオラちゃんとルーシーにも幸せでいて欲しいの。──友達だから」


 ……ミケ……。


「そんな友達が今、国中から狙われてる。そんなの私、耐えられないの。辛いのよ。……だから全ての可能性を考えて、動かなきゃならない。それが喩え、村のみんなを信用してないって思われてもいい。……私は騎士として、友達として、女として……世界一大切な三人を護りたい」


 …………。


「……ミケ……ありがとう」


「……んっ。私も、強く殴りすぎたわ」


 ミケは俺の口元から垂れる血を指で拭うと……。


 チュッ──。


「…………っ」


「……私の、ファーストキスよ」


 ……悲しく揺れる、瞳。


 ミケのこんな表情、初めて見た……。


「……それは貴重なものを貰ったな」


「うん。世界でたった一つ。大切にしてよ?」


「……勿論だ……」


 ……よし、覚悟は決まった。


 俺は、エリオラと国を──。






「美しい恋愛劇を見せてくれてありがとう。だが、お邪魔させてもらうよ」






 え……。


「うおっ!?」


 いきなり覚えた浮遊感。な、何だ、何が起こってんだ……!?


「タナト!」


『……誰じゃ? ウチの探知に引っ掛からなかった……!?』


 え、誰? 誰かいるの?


「……き、騎士団長……!?」


 ……え、騎士団長って……え!?


「悪いねミケ。後をつけさせてもらった」


 俺の背後から聞こえる声。俺、騎士団長に捕まってるのか……!?


 逃げようと暴れる、が……なんつー力だっ。逃げられねぇ……!


 と、首にヒヤリとする感覚……こ、これ、剣か……!?


「全員、その場を動かないこと。──彼が死んでもいいなら、別だがな」

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