外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第24話 タナトと二人っきりの世界♪

 目の前に現れた、黒い楕円状の穴。これが生け簀への入り口か。


 念の為、まずは手から入れる。……特に何もないな。どれ。


 慎重に足を踏み入れると、なんの抵抗もなく中に入れた。


「……ん? これが《虚空の生け簀》、か?」


 何だこれ……四角い部屋?


 俺達の住んでる村がすっぽり入っても余りありそうな、巨大で四角い白い部屋。光源もないのに明るいが、全然眩しくない。


 だけど……これ、生け簀か? 全然そんな感じしないが……。


「お〜……広い……!」


『とても大きいな。ここなら、装備やアイテムもずっと置いておけそうじゃ』


「ああ。だが魚を保存するのはどうすりゃ……ん?」


 何だこれ……扉?


 俺達の立ってる場所の隣に、木製の扉があった。


「開ける?」


「まあ、気になるし……」


 エリオラと頷き合い、扉を開く。と……。


「……な、何じゃこりゃ……!?」


 え……いや、え……?


 扉の先にある、木で造られた巨大な桟橋。


 そして……。


「そ、空……と、海……?」


 無限に広がる空。そして地平線まで続く青い海。


 永遠に続くんじゃないかと思うくらい、とんでもない広さだ……。


「……すごぉ……」


『なんてことじゃ……これが《虚空の生け簀》の正体か……』


 これだけの広さがあれば、今まで釣った魚を保存しておけるが……これ、海水なのか? 淡水魚はどうすりゃ……。


 首を傾げてると、頭の中に《釣り神様》の声が響いた。


『解。当空間は特殊な空間となり、水──以降水域とする──も、海水魚並びに淡水魚が共存可能』


 マジか。便利過ぎだろ……。


 水に指をつけて舐めてみる。……特に何も無い。無味無臭だ。


『水域には特殊な魔力が溶け込んでいるため、当水域で保存しておけば寿命が来るまで餌等は不要。肉食魚も魔力で栄養を補えるため、別の個体を食べることはない』


 寿命が来た魚はどうなるんだ?


『魔力に分解され、水域に溶ける』


 無駄にならないってことか。


 扉を隔てて自由に使える巨大な部屋と、さらに巨大な水域。これを俺の自由に使えるって……とんでもないな……。


「んーしょ、んーしょ」


「……おいエリオラ」


「なに?」


「……何で脱いでる?」


「泳ぐ」


 いや泳ぐって……。


 ガシッ。


「……エリオラさん? 何で俺の腕を掴んで──」


「とうっ」


 とうっ、じゃねーーーーー!


  浮遊感を覚え、目の前に迫る水面。


 次の瞬間、全身をヒヤッとした感覚に覆われ、視界が曇った。


「ぶはっ!」


「あはっ、きもちー!」


「てめっ、エリオラ! おぶっ!」


 み、水掛けてくんな!


「ふふふっ。タナトと二人っきりの世界♪」


『ウチもいるぞ』


「ルーシー、無機物」


『エリィ、怒るぞ!』


「キャッ、怖いっ。逃げるー」


『待てエリィ!』


 楽しそうにはしゃぐエリオラとルーシー。いや、はしゃぐのはいいんだが、せめて水着着てくれ……。


 あと底に足がつかないんだが……ここ、底ってあんの?


『解。当水域に底は存在しない』


 ゾッ──。こ、怖っ……!


 急いで桟橋に備え付けられている梯子から上がる。と……あれ、濡れてない……?


『解。当水域の水は外に持ち出せない』


 なるほど、だからか……。


 桟橋に登って、縁に腰掛けて足を水に漬ける。俺にはこれくらいが丁度いいな。


 はしゃぐ二人を見ながら、神器を召喚して《虚空の釣り堀》で釣りをする。


 釣れた魚はそのまま生け簀にリリース。装備やアイテムは、背後の開いてる扉から白部屋へイン。


「あっ、お魚!」


『綺麗な魚がな空から降ってくるのじゃ!』


 魚が増えていき、エリオラとルーシーは目をキラキラさせて一緒に泳ぐ。何これ楽しい。


 外のいざこざも忘れられて、めちゃめちゃいい場所だなぁ、ここ……。


 少し、ここでのんびりするかぁ。


   ◆◆◆


「あーもう、タナトの馬鹿……!」


 せっかくタナトのために、エリオラちゃんが指名手配されてること教えてあげたのに……!


 レニーを厩舎に繋ぎ、自室への道を歩く。


「見ろよ、ミケ様だ……!」
「相変わらずお美しい……」
「踏まれたい……」


 むぅ……興味ない男子には好かれるのに、タナトはエリオラちゃんばっっっかり……!


 はぁ……私だって、タナトと一緒にいたいのに……。


「ミケ」


「……え、あっ。き、騎士団長……!」


 いけないっ、騎士団長が話しかけて来たのに、ボーッとしちゃって……!


 女性だと言うのに、この方は数千人に及ぶ騎士団のトップだ。


 実力も、容姿も、身に付けている装備も、全てが私の上で……私の、目標でもある。


 騎士団長は長い金髪を揺らし、近付いてきた。


「どうしたのだ? 今日は休みだったはずだろう?」


「あ、と……わ、忘れ物を取りに……」


「……そう。いけないね、せっかく故郷に帰るのに、忘れ物なんて。早くしなきゃ、休みの日も無くなってしまうよ」


「は、はい。お心遣い、ありがとうございます……!」


 そうだ、私休みを取ってたんだ……。タナトの呑気さに呆れて、頭来て帰ってきちゃったけど……。


「さあ、行きなさい」


「はい、失礼します」


 ……もう一度、タナトと話そう。これがどれだけ重要なことなのか、分かってもらわないと。


「ああ、そうだミケ」


「は、はい。何でしょう?」






「ミケ、私に隠してることはないかな?」






 ズキッ──。


「……いえ、ありません。騎士の誇りにかけて。……失礼します」


 騎士団長に敬礼して、厩舎に向かって走っていく。


「……ふーん……」


 ──騎士団長が、不敵な笑みを浮かべてるとも知らずに。

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