外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第22話 私、有名人!

   ◆◆◆


「ずーーーーん……」


「……おい、まだ落ち込んでるのか?」


 ミレイといざこざがあった翌日。


 俺とエリオラは、転移魔法で既に村に戻っていた。


 その間、エリオラはずーーーっと落ち込みっぱなし。その理由としては……。


「……無駄に、目立ってしまった……タナトとのデート、打ち切り……だうーん……」


 そう、エリオラが目立ってしまったから、王都の奴らに顔を覚えられて街を歩くことも出来なくなってしまったのだ。


「まあ、気にするなよ。釣りでもして落ち着こうぜ」


 湖に着き、早速釣り糸を垂らす。


 だがエリオラはまだ引きずってるらしく、俺の隣で寝そべって空を見上げていた。


「……空はどうして青いの……?」


『それはの、エリィ。レイリー散乱という光りの……』


「そういうことを聞いてるんじゃない」


『えぇ……何この子めんどくさ……』


 激しく同意。


 俺は釣り竿を地面に突き刺すと、エリオラの頭を撫でた。


「過ぎたことを悔やんでも仕方ないだろ? 俺は、エリオラの新しい一面を色々と見れて、楽しかったぞ」


「……ホント?」


「ああ。それに、あの時のエリオラ、カッコよかったし」


「……可愛いって言ってほしい……」


 いや、誰がどう言おうと、あの時のエリオラはカッコよかったんだが……。


 女の子って、複雑だな……。


「……いつも可愛いよ」


「ふっっっっっかつ……!」


 早っ!


 エリオラは起き上がると、俺の背中に抱き着いてきた。


「むふー……!」


「……ま、いっか」


 こういう単純な面も、エリオラの可愛さの一つだもんな。


 背中にある柔らかな感触を楽しみながら、釣り竿を揺らす。


「……それにしても、ミレイって一体何だったんだろうな。最後、エリオラに何か言いたげだったように見えたけど」


「偽物。それ以上も以下もない」


 ミレイの話しはしたくないのか、ムスッとした顔で俺の首に回した腕に力を入れた。


 ……まあ、自分の妹を騙った奴だもんだ。この話しを掘り下げるのはやめておこう。


『じゃがエリィよ。不完全とはいえ、あの魔法が広まっているのは事実じゃ。あの子が自分の魔法を世に広めるとは考えずらい。何か、裏があるぞ』


「むぅ……確かに。イライザが自分の魔法を、私以外に教えるなんて……」


『うむ、何やらきな臭い。用心するのじゃぞ』


「私なら問題ない」


『油断するなという意味じゃ! こらっ、聞いとるのかエリィ!』


 ……あの、口喧嘩はいいけど、俺の背中でわちゃわちゃするのはやめてもらえません?


   ◆◆◆


 王都から帰って来て二週間が経った。


 その間は特に大きな問題もなく、のんびりとした時間が過ぎていた。


 ミレイとの一件もあやふやになり、忘れかけていたある日の午後。


 気持ちのいい陽射しに、船を漕いでいたその時だった。


「タナト! タナトーーーーー!!」


「うおっ!?」


 な、何? 何だ?


「うぅ……うるしゃい……」


『気持ち良く眠っていたというのに、何じゃ一体……?』


 声のした方を振り向くと、ミケとレニーがもうもうと土煙を上げて走って来た。


「タナト、大変よ!」


「何だよミケ。小便ならそっちの木の影で……」


「ちっがうわよ! あれ、このやり取り前も……? ってそうじゃなくて! これを見て!」


 ミケが鞄から、一枚の紙を取り出した。どれどれ?


「……これ、エリオラじゃないか?」


「私?」


 上手く特徴の捉えられたエリオラのイラストが、でかでかと描かれている。


「おお〜……上手じょうずい」


『中々の腕前じゃな』


「そっちは置いといて、その上!」


 上?


「えっと……この者を見付けた者に五〇〇〇万ゴールド。捕らえた者に一億ゴールド……は?」


 な、何でエリオラを捕まえただけで、こんな金が……?


「これ、指名手配書よ。今や王都だけじゃなくて、国中にばら撒かれているわ」


「……オゥ……」


 これまさか、ミレイの仕業か。それか、ミレイを含めたあの怪しいローブ集団の仕業か……分からんが、面倒なことになったな。


「タナト、どういうこと?」


「あー……エリオラが、高額賞金を掛けられて国中の有名人になった、ってとこだ」


「有名人! 私、有名人!」


 いや、喜んでるん場合じゃないぞ……。


「これ、騎士団はどうするつもりだ?」


「……騎士団は、捕獲するよう命令を受けてるわ。ミレイがイライザ様の偽物でも、お金を払って捕獲依頼を出てきたからには、動かざるを得ない」


 ……やっぱり、な……。


「タナト、エリオラちゃんを連れて逃げて。どこか遠く、国外へ」


「何で?」


「な、何でって……私達に捕まえられるかもしれないのよ!? それに、村のみんなも……!」


「あいつらは大丈夫。誰も俺達のことを言う奴なんていない」


「どうしてそんなこと言えるの!」


「家族だからだ」


「…………っ」


 村のみんなは、エリオラを家族として迎えてくれた。


 うちの村に、家族を裏切る奴はいない。


 今までもそうだったように、これからも。


「それに、エリオラがここにいることをミケは誰にも言わないだろ?」


「言うわけないじゃない。エリオラちゃんは、私の大切な友達だもの」


「なら問題ない」


「…………あーもう! 分かったわよ! ただ、危なくなったら逃げなさいよ、マジで!」


「ああ。最悪、俺には秘策がある」


「頼んだわよ!」


 ミケはレニーの腹を蹴ると、Uターンして元来た道を戻って行った。


「エリオラ、不安か?」


「んーん。タナトと一緒だから」


 ……そっか。ここまで頼られると、男冥利に尽きるな。


「……なら、いつも通り釣りでもしようかね」


「釣りするっ。今日はいっぱい釣る」


『お主ら、呑気じゃの……』

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