外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第21話 タナトのなでなで、気持ちいい

 下を見ると、これを目撃した人達は全員、腰を抜かしていた。


 それもそうだ。もしミレイの《天穿つ雷光イライザ》でも、この世界で最強クラスなら……エリオラの放った《天堕とす雷光イライザ》は、まさに常軌を逸している。


 ゆっくり、俺達の前に降り立つエリオラ。


 凛々しく、美しい横顔。


 その姿は、破滅をもたらす天使か、死を嘆く悪魔のように見えた。


「……ふいぃ〜。ちかれた〜……」


『お疲れ様なのじゃ、エリィ』


 あ、いつものエリオラだ。


「お、おい、エリオラ」


「あ、タナト。終わったよ。行こ?」


「えっ、あ、ああ……」


 俺はいいんだが……ミケどうしよ?


「何? もう何なの? 何これ意味わかんかい。どゆこと? 今の何? 何が起こったの? 何がどうしてどうなって……」


 まだ空を見上げたまま固まってるミケ。その気持ち、よく分かるぞ……。


 エリオラが俺の腕に抱きついてくると、下からふらふらとミレイが飛んで来た。


「ま、待ちなさい……! 待って……!」


「待たない。じゃ」


「ぁ……!」


 エリオラが人差し指をくいっと動かすと、俺とエリオラ以外の周囲が歪み、次の瞬間には俺達が寝泊まりしている宿の部屋にいた。


「……これは……?」


「転移魔法」


『一度行ったことある場所には無制限に瞬間移動出来る魔法じゃ』


「……エリオラって、実は凄い奴?」


「ドヤッ」


 エリオラは腰に手を当てて胸を張った。


 いやぁ……普段が普段だけに、ギャップが凄いな……。


「……タナト、私のこと、怖い?」


「え?」


 エリオラはベッドの縁に座ると、モジモジと俺を上目遣いで見上げてくる。


 さっきまでの強さというか、威厳は消え失せ……今は、嫌われることに怯える、ただの女の子だ。


「んー……もしあれが第一印象だったら、ビビってたかも」


「っ……そう……」


「でも、お前と出会ってからの今まで時間を、全部お前と一緒に過ごしたから言える。俺が、エリオラを怖がることなんてないよ」


「……ほんと?」


「おう。あれもエリオラの一面だと思うが……俺は、お前が可愛い女の子だって知ってる。安心しろ」


 エリオラの横に座って頭を撫でると、エリオラの体がビクッと跳ね上がった。


「あ、悪い。痛かったか?」


「ち、違う。……タナトのなでなで、気持ちいい。もっとして」


「……ああ」


 エリオラの頭を撫で続けると、俺に体を預けて、完全に力を抜いた。


「ぁ……ふっ……んっ……たなとぉ……」


 ……何か、目がトロッとして来たぞこいつ。何か熱っぽいというか……。


「たなと……たなと……たなと……」


 エリオラは俺の服にしがみつき、ゆっくりと首に腕を回して来た。


「あ、あの、エリオラさん?」


「たなと……たな、と……しゅぴぃ〜……」


 …………え、寝た?


『ふむ。どうやら久々の超規模魔法を使って、疲れたんじゃろうな』


「これ、どうしたら?」


『暫く肉布団になってやれ。ウチも久々の結界魔法で疲れた。少し眠るぞ』


 いや、こんな状態で俺を一人にしないでくれます!?


「くぅ……くぅ……」


 俺の首に腕を回し、俺の顔のすぐ横にエリオラの可愛い寝顔。


 耳をくすぐる心地のいい寝息。


 鼻腔から脳に直接入ってくる、甘く、感覚を痺れさせる匂い。


 女の子特有の柔らかくて、壊れてしまいそうな体付き。


 それなのに胸だけは異様に柔らかく、まるでスライムのように形を変えて……。


 …………。


 まあ、あれだ……。


 ムラムラします。


   ◆◆◆


 同日某所。


 そこは、一言で言えば大聖堂のような場所だった。


 広大な部屋の中に、等間隔で並ぶ柱。


 柱と柱の間には、壺や絵画、石像などの美術品が並べられている。


 その最奥には、一際大きな絵画と祭壇があった。


 絵画に描かれた女性は柔和に微笑み、そこに訪れた信者を優しく出迎えてくれる。


「──何? それは本当なの?」


「はい、教主様」


 その中で、祭壇に立つ一人の女性と、その手前に跪く、エリオラに喧嘩を売ったミレイがいた。


「まさか……《天堕とす雷光イライザ》を使う魔族が、本当に現れるなんて……」


 教主様と呼ばれた女性は、腕を組んで思案する。


「教主様、如何致しましょう。あの者は、間違いなくイライザ様の関係者かと……」


「……探りなさい。悟られぬよう」


「承知しました」


 ミレイはこうべを垂れると、転移魔法で大聖堂を後にした。


「……これも、あの方のお導きなのかしら」


 教主は絵画の前に跪くと、手を組んで祈りを捧げる。


「どうか、我らをお守りください……」


 その祈りはいつまでも……いつまでも、続いた。

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