外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第19話 何だか面倒な予感

 店の中にいたエリオラとミケを連れ、噴水広場に向かって走る。


「ミケ、お前この街にイライザの生まれ変わりがいるって知ってたか?」


「当然よ、毎月の行事だもの。エリオラちゃんがイライザ様のお姉さんって知ってたら、もっと早く教えてたわよ」


 だよな……くそっ、もっと丁寧に紹介してれば……!


「ルーシー、どう思う?」


『うーむ……見てみないことには、分からんのぅ』


「だよね……」


 エリオラは、どこか浮かない顔でルーシーと話している。そんなに嬉しくなさそうに見えるのは、何でだ……?


「後どのくらいで始まる?」


「もうすぐよ。十二時の鐘が鳴ったら、イライザ様が姿を現すわ」


 十二時……遠くに見える時計塔を見るに、あと十五分くらいだ。


 噴水広場に近付くにつれて、人が多くなっていく。まだ少し離れているのに、これ以上先に進めそうにないな……。


「二人共、こっち来て」


「えっ。お、おいミケ……!」


 どこ行くんだよ……!


 急いでミケの後について、裏道を走る。と……急に、数十人の騎士達がいる広場へと出た。


 その中の一人の中年オヤジが、脂ぎった額に汗を光らせ、俺達に気付いた。


「……ミケ様……? おおっ、ミケ様じゃありませんか!」


「マドュル、お疲れ様。まだイライザ様は来ていないわね?」


「はい。我らも、これから配置に付きます。……そちらの御二方は?」


 マドュル、と呼ばれた男が、俺を不信そうな目で、エリオラを舐め回すような目で見てきた。


(……キモい)


 エリオラ、めっちゃ小声で本当のことを言うんじゃない。


「彼らは私の友人よ。イライザ様を見たことないって言うから、特等席で見学させて貰うわよ」


「ミケ様のご友人でしたか。承知しました。申し訳ありませんが、ミケ様の方でご案内をお願いします。私はこれより、警護がありますゆえ」


「分かってるわ」


 ミケに連れられ、一つの建物の中に入る。


「ミケ、あいつは誰だ?」


「騎士団第七部隊の副部隊長よ。いつも女の子をいやらしい目で見てるクソ変態」


 あぁ、何となくそうだとは思ったが……ミケが下品な言葉を使うくらい、あいつはヤバい奴なんだろうな。


「あれはキモい」


『キモいな』


 ボロくそだな。


 ミケに続いて階段を登っていくと、金属製の扉から屋上に出た。


 眼下には密集した人だらけ。だが中央にある噴水の周りには人はいない。騎士団の人達が、上手く円を作っているみたいだ。


「すげーな、一望だ」


「本当なら、騎士団の人しか入れない特別な場所よ。感謝しなさい」


 ふふん、とドヤるミケ。そんな顔も可愛いな。


「おう、ありがとな。ほら、エリオラも」


「ん。ありがと、ミケ。よく見える。……これで、見逃すことはない」


 ……見逃さない? まあ、確かにここならそうだが……何だか、さっきから含みのある言い方をするな。見てみないと分からない、とか……どういう意味だ?


 聞こうとすると、時計塔から鐘の音が響いてきた。それと同時に、下にいる人達がざわつき出す。


「あ、来たわよ」


 来た? どこだ?


 柵に手をついて下を覗き込むと、俺らのいる建物に隣接している大通りに、一台の馬車がいた。周囲をローブを着た人達で囲い、スローペースで噴水広場に進んでいく。


「……ルーシー、どうかな?」


『焦るでない。あの馬車、魔力を妨害する結界が貼られていて中まで見えん。出てくるまで待つのじゃ』


「うー……ノロい……!」


 待ちくたびれたのか、まるで溶けたスライムみたいになってるぞ、エリオラ。


 ゆっくり、ゆっくり進み……十二回目の鐘が鳴り響いたと同時に、馬車は噴水広場に着いた。


 周りにいたローブ姿の従者が、馬車の扉を開ける。


「出てくるわよ」


「お、どれどれ」


 馬車から、紫色のハイヒールを履いた白く眩しい脚が出てくる。


 膝上何センチと言うより、股下何センチと言っていいほど短いミニのワンピース。


 自分の足首まである、薄手のロングカーディガン。


 頭には、よれたとんがり帽子みたいなものを被っている。


 髪はアメジストのように美しいロングヘアーで、瞳は深く、濃い紫紺色をしている。


「あれが、イライザ様の生まれ変わり。今生ではミレイと名乗っているわ」


「ミレイ……」


 あれが、イライザの生まれ変わり、なのか……。


「エリオラ、どうだ? あれがイライザの生まれ変わりらしいぞ」


「…………」


 ……反応が、無い。ミレイに釘付けになってるみたいだ。


 ミレイが馬車の上に飛び上がって、周囲に向けて手を振る。その笑顔は、確かに人々を引きつけるには美し過ぎる笑顔だ。


「えー、こほんこほん。みんな、お元気かしら? 毎度のことだけど、観光客の皆さん、初めまして。私が奇跡の魔女、イライザの生まれ変わり、ミレイです」


 魔法で音を上げてるのか、俺達の所までよく声が聞こえる。


 その声を聞いたエリオラは……。






「……はああぁ〜〜〜……」






 盛大に、ため息をついた。


「ど、どうしたんだよ、エリオラ」


「……もういいや」


「もういいって……あいつ、イライザの生まれ変わりなんだろ?」


 聞くと、エリオラは首を横に振った。


「違う」


 ……へ? 違う……?


「ち、違うってどういうことよ!?」


 ミケが声を荒らげてエリオラに詰め寄る。


 だけどエリオラは、表情を変えずにミレイからミケに顔を向けた。


「あの子、イライザの生まれ変わりじゃない。人違い」


「ひ、人違い、て……何でそんなこと分かるのよ……!」


『それは、ウチが説明しよう』


 ルーシーがふよふよと、エリオラの顔の位置まで浮かび上がった。


『この世界には、確かに輪廻転生という概念が存在する。死んだ者が生まれ変わる、というものじゃな。魂が輪廻を彷徨い、再び現世の肉体に宿って生まれる。それが輪廻転生じゃ』


「それは分かってるわよ。イライザ様の生まれ変わり……転生体が、ミレイ様じゃないの?」


 ミケが聞くと、ルーシーはペンダントを横に振って否定した。


『……この先は余り知られておらんのじゃが……魂には、それぞれ色や波長が存在する。人の顔や指紋と同じように、各々違うのじゃ。それは転生しても変わらない、不変のものじゃ』


「……え、じゃあまさか……?」


『タナト、察したか。その通り。ミレイという者の魂は、イライザと遠く掛け離れておる。全くの偽物じゃ』


 ……ナンテコッタイ。


 エリオラはもう興味を無くしたのか、俺の腕に抱き着いてきた。


「行こ、タナト」


「え……あ、えっと……」


 俺はいいんだが……。


「え、えぇ……そんな……そんな事って……え、だって今まで、ずっとイライザ様の生まれ変わりだって信じて来たのに……いや、そもそもミレイ様が自称してるだけで、確かにミレイ様がイライザ様の転生体って証拠は無かったような……嘘、これどうしよう。上に報告した方が……」


 ぶつぶつぶつぶつ……。ミケ、絶賛ぶっ壊れ中。どうするよ、これ。


 と──。


「ちゅおおおおおおおおおおおおっっっと、待ちなさああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいいいいいいッッッ!!!!」


 うわっ、ビックリした。何だよ。


 エリオラと一緒に下を見ると、ミレイが敵意丸出しの表情で俺達を……いや、エリオラを睨みつけていた。


「あんた……今、なんて言ったのかしら? ここに降りて来て、ハッキリと言ってちょうだい」


 ……ああ……何だか面倒な予感。

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