外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第17話 じゃ、じゃじゃーんっ

 一息付いた俺達は、エミュールの店から離れるように別の通りへ向かった。


 ここは、観光客が多くいる中央通りではなく、主に王都の人達が行き交う西メラプレス通りだ。ミケからの情報では、ここには隠れた名店が数多くあるらしい。


 確かに中央通りに比べて、人通りは少ない。俺としては、こっちの方が落ち着いて見て回れるからいいけど。


「変な奴のせいで無駄な時間を食っちまった。早速、服屋に行こうぜ」


「おーっ」


 ……つってもエリオラに似合いそうか服のある店なんて、知らないしな……取り敢えず、片っ端から入ってみるか。


 一店目に入店。


「何だこの店……」


「とげとげの付いた服、動きづらそう」


『ファンキーじゃな』


 絶対エリオラには違う。次。


「これは……木の枝?」


「木の枝だけで作られてる、前衛的」


『こっちには葉っぱだけシリーズがあるぞ』


 前衛的過ぎ。次。


「……水着ショップ?」


「違う、ランジェリー」


『見ろ! 大事なところに穴が空いておるぞ!』


 見せんくていい! 次!


「お? この店はフランクでまともじゃないか?」


「……水に濡れると透ける魔法が掛けられてる」


『夜用の服じゃな』


 魔法技術の無駄遣い!? 次!


   ◆◆◆


「何だこの通り、変なのしかないじゃん!?」


 ミケの奴、こんな所ばっかで服買ってんの!? ちょっと付き合い方を改めるレベルだぞ!


「王都の人達は変な人ばかり」


「だな……」


 これじゃあ、エリオラに似合いそうな服なんて……。


『あ。エリィ、タナト。あの店はどうじゃ?』


「あの店?」


 ルーシーの見ている方を見ると……確かに、服屋っぽいものがあった。他の店より特筆した特徴もなく、二つ、三つくらい店先に木人マネキンが置いてあるだけ。


「……普通だな」


「……普通」


『なのじゃ』


 何でこんな普通の店に気付かなかったんだ……?


 ……あ、違う。気付かなかったんじゃない。この店に特徴がなくて、他の店が特徴的過ぎるから、目立ってないだけだ……。


 店の中に入るが……普通だ。周りの店のようにインパクトもない。かといって野暮ったいような感じにも見えない。


 主に女性ターゲットがメインなのか、カジュアル系、ロリ系、清楚系……なんでも取り揃えてある。


「……隠れた名店?」


「いや、影の薄い名店って言った方がいいだろ……」


 見た感じ、店の中にも二、三人しか客がいない。


 視覚的と言うか、認識的に隠れた名店ってどういうことだよ……。


「ま、ここならエリオラの気に入りそうな服もあるか……試着も出来そうだから、着てみるといいぞ」


「試着、したいっ」


 服を買うことに余り乗り気じゃなかったエリオラも、これだけの数の服を見たら、ちょっとは興味を持ったみたいだ。頬を紅潮させて、ふんすふんすと息巻いている。


『エリィ、ウチが見立ててやるぞ。可愛いエリィでタナトを悩殺じゃ』


「悩殺っ、悩殺っ」


 二人してとてとてと店の奥に走っていく。いや、こんな所で一人にされてもな……。


 ……こうして見ると、女性物の服って色んな形があるんだな。男性物なんて、殆ど形変わらないのに。


 ぼーっと服を見てると、遠くから二人の女性の声が聞こえてきた。


「見て見て、この服だとこっちの色の靴の方が似合ってるかな?」
「それだとアンクレットとか付けても良さそうね」
「えぇ、ちょっと派手じゃない?」
「オシャレは足元からって言うじゃない」


 えっ、服って靴と合わせなきゃいけないの? 俺、ヨレヨレの靴しか持ってないんだけど……しまった、俺、もしかして場違い?


 てことは、この店に入るための服を買いに……いや、その店に入るための服を買わなければ……待て、その前の前の店に入るために……おい、これいつ服買えるようになるんだ?


「タナトー、こっち来てー」


 頭の中でこの世の矛盾に気付いた時、遠くからエリオラの声が聞こえた。


 店の棚の間を縫って縫って……ん? どこだ?


「タナト、こっちこっち」


「ん? 何だ、そんな所にいたのか。……何で頭だけ出してんの?」


 試着室のカーテンの向こうに、体だけ隠して頭だけ出している。


「着替えた」


「お、どんなんだ?」


「気になる?」


「そりゃあ、エリオラの新しい姿だからな」


「……笑わないでね」


 眉間に皺を寄せて、口をもにゅもにゅするエリオラ。え、そんな変な服着てるのか?


「……見せたくないなら、無理に見せなくてもいいぞ」


「い、いい。見せる」


 深呼吸を一回、二回。


 そして意を決した顔をし──カーテンを開いた。


「じゃ、じゃじゃーんっ」


 ────っ。


 ……ぁ……ぉ……。


「…………」


「……へ、変じゃ、ないかな……?」


 …………。


 まるで天の川のような白銀の髪と、深海を思わせる深い青い瞳。


 その全てを引き立たせ、調和している清楚で清らかな印象の白いワンピースに、生地の薄い水色の羽織もの(カーディガンと言うらしい)を着て……靴も、それに合わせた涼し気なサンダルだ。


 こ、これは……。


 …………。


「……タナト?」


「……ぇ、あ。な、何だ?」


「……似合って、なかった……?」


 エリオラの瞳に涙が浮かぶ。ま、まずいっ。


「ち、違うっ。あ、余りにも似合ってて……綺麗で、可愛くて……」


 や、やべぇ。上手く言葉にしたいけど、言葉が出てこない。出てこい俺のボキャブラリー、今この気まずい雰囲気を打破する語彙を、俺に授けたまえ……!


「……似合ってる? ホント?」


「お、おう! 本当だ。その服をそこまで着こなせる女の子は、この王都……いや、世界中を見てもお前しかいない。間違いないぞ」


『何じゃ、その下手な褒め方は』


 黙ってろルーシー。今俺は、脳をフル回転させるのに必死なんだよっ。


「……そっか……似合ってる……ふふ、似合ってる……♪」


「……エリオラ?」


「……ん、これにする。これがいい」


「え……いいのか? 他にも沢山あるけど……」


「んっ。ルーシーが選んで、タナトが似合ってるって言ってくれた。これ以上のものは、ない」


 な、何か……そこまで言われると……。


「照れる、な……」


『照れるのじゃっ……!』


 ルーシーもクネクネとしている。俺も、気持ち的にはそんな感じだ。


「じゃ、じゃあそれはそれとして、他にも買ってやるぞ。まだ金に余裕はあるし」


「いい。タナトの服、買いに行く」


「……俺の?」


「ん。タナト、いい服持ってない」


 ぐさっ。た、確かに全部ほぼ同じような服だが……そう言われると、心に来るな……。


「わ、分かった。なら俺の服を買いに行こうか……」


「新しいタナト、楽しみ♪」


 店員さんに声を掛け、合計で三万ゴールドを支払う。どうやらそのまま着て行っていいらしく、エリオラの元着ていた服は袋に入れてくれた。


「るんるんるーん……♪」


「ご機嫌だな」


「ご機嫌です♪」


 それは何よりだ。


 エリオラと二人で店を出る。と……反対側の店からも、同じタイミングで客が出て来た。確かあの店は、ランジェリーショップだったな。


 その手には紙袋。あんなの買う奴がいるのか。変わった奴もいるもんだな……。


「ふんふんふーん♪ ……ん?」


「え」


「あ」


『お?』


 鼻歌を歌いながら店から出て来た客と、ばっちり目が合う。


 赤く、猫耳のようなツインテに、緋色の瞳。暖色系のカジュアルな服を着たそいつは……。


「……ミケ?」


「え、タナト……? ……あ」


 ミケの視線が、紙袋に落ち……一瞬で顔が真っ赤になった。見ると、耳や首まで真っ赤だ。


「ち、ちちちちち違っ……! こ、れ、ちがっ……!」


「……人の趣味はそれぞれだもんな。じゃ、またな」


「……いやらしい」


『のじゃ』


「だから違うんだってばーーーー!!!!」

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