外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第10話 食べりゅ!

 試してなかったのは、エリオラを釣り上げた時に得た《神器釣り竿》と、《虚空の釣り堀》と呼ばれるものだ。


《神器釣り竿》は、《虚空の釣り堀》を使う時に使うものらしいが……どんなもんなのか、試してやろう。


 喚び方は至ってシンプル。念じながら来るように言葉に出すだけ。


「来い、《神器釣り竿》」


 念じながら、喚ぶ。


 どこからともなく俺の手に光る黄金の球体が現れた。それを強く握り締める。すると、光が細く伸びて俺のいつも使っている釣り竿と同じ長さ、重さの黄金の釣り竿が現れた。


 繊細な細工に、気品溢れるフォルム。あとどことなくエロさを感じる手元のフィット感。釣り糸も釣り針も着いていないが……何これ、神器すげぇ。ぶっちゃけグングなんちゃらとかよりそそられる。


 軽く素振りをしてみる。


 おおっ、見た目の重厚感に反して、思ったより軽やかだ。


 よし、こいつを使って、次だ。


 俺は湖じゃなく、反対方向の森へ向かって釣り竿を構え……振る。


 瞬間、釣り竿の先から黄金の糸と黄金の針が伸び、真っ直ぐ森へ向かっていくと……ぽちゃんと言う音と共に、空間が波打った。


「なるほど……これが《虚空の釣り堀》か」


《神器釣り竿》を使えば、水がなくても空間を釣り堀にすることが出来る力、らしい。


 その先は、エリオラの捕まっていた異界か、全く別の空間かはランダムらしいが……とにかく、水がなくても釣りが出来るのは素晴らしいな!


「……お、おおっ? 引いてるなっ」


《虚空の釣り堀》を使って、早速のヒットだぜ!


 中々の大物だ。これは期待出来るぞっ。


 この感触は生き物だな。武器ガラクタでもアイテムゴミでもない。かと言って、エリオラの時のような違和感のある感覚でもないし、今まで釣り上げてきたどの生物とも違う。


 間違いなく、未知の生物……!


「さあ、異次元の生き物とご対面!」


 そりゃっ!


 力強く、理想のしなり。だが決して折れず、糸が切れる心配もない。最小限の力だけで引けるっ。


 ……むっ、最後に抵抗してるな。無駄なことをっ。


「ほっ」


 ほんの少しだけ力を入れると、空間の波が大きくなり、そして……出て来た!


 空間から出て来たのは、赤い魚だ。だがヒレがまるで天女の衣のように薄く、柔らかに波打っている。釣りに人生を捧げて来た俺でも見たことのない魚だな……。


 うーん……どんな名前の魚なんだろうか……?


 と、首を捻っていると、頭の中に言葉が響いた。


『《釣り神様》の効果を発動しますか?』


「んえ?」


 つ、《釣り神様》? そう言えば、レベルマックスになった時にそんな称号を貰ったような……。


 とにかく、この状況でこんな言葉が聞こえたってことは、何か意味があるんだろう。


(イエスだ)


『了。《釣り神様》の効果を発動。《虚空の釣り堀》から釣り上げた獲物を鑑定可能』


 おお! まさしく今一番欲しい情報じゃないか! 早く教えてくれ!


『当該獲物、レッドドレスフィッシュ。第一異界に生息する一般的な魚類。生食可。食べるとスキルレベルが一つ上がる』


 ……第一異界? その辺はよく分からないが……スキルレベルが上がる生き物、だと!? そんなやつ、聞いたこともないぞ……!?


 試してみたいけど……俺、スキルレベルマックスだしなぁ……あ、そうだ。


「ミケ。おいミケ、起きろ」


「……んっ、へぁ……もう食べられない……」


 ベタか。


「今まで食ったことない魚が釣れたんだ。お前に一番に食べさせてやるよ」


「食べりゅ!」


 ……相変わらず食い意地が張ってるようで。


《釣り神様》も生食可って言ってるし、生で食わせても問題ないだろ。


 レッドドレスフィッシュを簡単に捌き、刺身にしてミケの前に差し出す。念の為醤油もかけて。


「ほれ」


「いっただっきまーす」


 ぱくっ。


「んんーっ、甘みとコクがあって美味ぁ♪ ……んぇ?」


 ミケが驚いたように目を見張る。


「どうだ? スキルレベル、上がったか?」


「……ぇ、ぁ……え? あ、上がった、けど……」


「おー、やっぱ上がったか。すげーなこの魚」


 俺は上がらないけど、食べてみようか。どれどれ?


 ……おおっ! 甘み、コク、まろやかさ! 全てのバランスが取れてる! 美味し美味し。


「……は、はあぁっ!? やっぱって……この魚、スキルレベル上げるの!?」


「みたいだ」


「み、みたいだって……何つーもん発見してんのよ!? スキルレベルを上げる食べ物なんて……!」


「まあ、楽して上がる分にはいいだろ」


「いや良くないわよ!? こんな楽にスキルレベルが上がるなんて世間に知れたら……!」


「なら、知られなきゃいい。俺達、二人の秘密だ」


 確かにこれが知られたら一大事だろうけど、これを捕れるのは俺だけだ。世界のバランスが崩れることはない。


「……秘密? 二人の? 私とタナトの?」


「おう。幸い、エリオラはこっちに気付いてないみたいだしな。俺とミケの秘密だ」


「……ふひっ……んっ、こほん。わ、分かったわ。秘密にしといてあげる。……ふひっ」


 ……何気持ち悪い笑い声出してんだ、こいつ?


 ミケの笑い声に若干引いてると、エリオラがレニーを連れてこっちに戻って来た。


「? タナト、どうしたの?」


「いや、何でもないぞ」


「そうよ。わ、た、し、と、タナトの二人だけの秘密だもの。教えないわ」


「むっ。ずるい、ミケのくせに」


「私のくせにって何!?」


 ……ねぇ、何でこんなちっぽけな事で張り合ってるの、この子達……。

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