外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第4話 踏ん張れ俺の豪脚ぅぅぅぅううう!

「有り得ない……有り得ないわ……何なの釣りって。釣りって何? え、哲学的なことなの?」


 んー……さっきから膝を抱え込んで、何をブツブツ言ってるんだ? 特SSSとか、なんちゃら級とか言ってたけど、何だろうそれ?


 ……ま、いいや。ちゃちゃっと捌いてやろ。


「ふんふふんふふーん♪」


 包丁を取り出しまして、皿を用意して、マンゲツウオを宙に放り投げて〜。


「ワンッ、ツーッ、スリー!」


 スパパパッ!


「ほい、完成。マンゲツウオの刺身でございますっと」


 まずは見た目の美しさ。かなり分厚く切ってるのに、反対側が見えるほどの透明度と、まるで満月のように淡く輝く身。これだけでも感動すら覚える。


 そしてこいつは、淡水魚では珍しく、生で食べられる魚だ。醤油も要らないほどの濃厚さと滑らかさと甘さ。それでいて喉越しがよく、腹の中でも味わえる深い旨みが特徴的。


 だが俺はこれに、あえて醤油を付けて食べるのが好きだ。濃厚な旨みと醤油が合わさり、天にも昇るほどの美味さになる。


「ほれ、ミケ。食ってみろよ」


「……ごくりっ。い、いただきます……」


 ミケが切り身を顔の高さまで持ち上げると、目の輝きがより一層増した。


「ほっっっわぁ……もう目から美味しい……!」


「わかる」


 グッとサムズアップをすると、ミケもサムズアップをした。視覚から美味しさが伝わってくる魚は割といるが、ここまでダイレクトに伝わってくる魚は超珍しい。


 ミケも珍しく緊張してるのか、居住まいを正して……ぱくっ。


「っ」


 …………反応が、ない。


 が、次の瞬間。


「──っは!?」


 良かった、息を吹き返した!


「大丈夫か?」


「え、ええ。……今、死んだ戦友の姿が見えたわ。川の向こう側で手を振ってた」


「だろ?」


「こ、これは危険な食べ物ね。毒以上に、人を殺しかねないわ……」


 ミケは脂汗を袖で拭い、心配そうに俺をチラ見した。


「これ、数食べて大丈夫なの?」


「ああ、問題ない。一回食べれば慣れるからな。俺はもう二〇匹くらい食ってるぞ。持ち帰ろうとしても、五分以内に捌かないと腐っちまうからな」


「ず、ずるい! こんな美味しいのを独り占めなんて……!」


「俺は満月の日ならいつでも食えるし、あと食ってもいいぞ」


「いっただっきまーーーす♪」


 お前に遠慮というのはないのか!? いや全部食っていいって言った手前、やっぱダメなんて言わないけど!


 二口目、三口目も美味そうに食べるのミケ。


 俺が釣って、捌いて、第三者ミケが食う。


 いつもより、ちょっとだけ騒がしい夜。


 こんな夜も、たまにはいいもんだな。


   ◆◆◆


 ミケとレニーの休暇が終わり、王都へ戻ってから三週間が過ぎた。


 今日も今日とて釣りの日々。変わることのない平和な一日を過ごしていた。


「よっ。あー、何だっけこれ。ミケが天龍のうんたらかんたらって言ってたやつか。いらね」


 ここ最近、レベルが九五〇になってから、レベルの上がり方が早い。分からないけど、レベルが上がったことで、釣れるスピードが上がったからかもしれないな。釣れば釣るほどレベルが上がるのは楽でいいかもしれん。あんまレベルに興味ないけど。


「んーんーんー、ふんふふんふふーん。……お? おおっ……!?」


 お、重い……! こんな重い引きは久々だ!


 柄にもなく立ち上がり、脚と腰に力を入れる。


 ぐぬぬぬぬっ……! こ、こいつは大物だぜ……! こんな大物がこの湖にいたなんて……!


 引っ張る強さが強いのか、俺の足が地面に沈む。


 え、えぐっ、い……! どんな奴か見てやろう……!


人竿一体じんかんいったい!」


 釣り竿、釣り糸、釣り針、その先へと俺の意識が伸びる。


 ……でかい。いや、思った程でかくない。俺よりも小さいやつだ。


 形も……これは魚、なのか? 魚と言うには違和感のある形をしている。今まで釣れたことも、引っかかったこともないやつだ。何だ、これ?


 と、とにかく、こんな珍しいやつ逃す手はない!


 集中、集中、とにかく集中し……僅かに力の緩んだ……今!


「おっっっりゃああああああ!!!!」


 踏ん張れ俺の豪脚ぅぅぅぅううう!


 ギリリリリリリッ……!


 竿がしなる! 糸が千切れそうだ!


 だが……負けん!


 そして──。


「せいっっっっやああああああ!」


 どっっっっぱああああああっっっ!!!!


 釣れたァ!


 宙に舞う何か。それが重力に逆らわず俺の真後ろに落下し、鈍い音を立てた。


「ぜぇっ、はぁっ、ぜぇっ……」


 こ、こんな疲れたの、久々だ……。


 どーれ、どんな魚か見せてもらおう……か……?


 …………ん? あれ? ……女の子・・・


 振り返ると、そこには全身濡れ鼠の女の子が、頭にコブを作って気絶していた。


 ……え、誰? 魚は? 俺の魚は??


 キョロキョロと周りを見ても、何もいない。それどころか──。






 ──Skill Level UP! Lv.998→MAX──
 ──レベルがMAXに達しました──
 ──《釣り神様》の称号を獲得しました──
 ──《神器釣り竿》を獲得しました──
 ──《虚空の釣り堀》を獲得しました──






 ……魚はどこにもいないのにレベルが上がってマックスになって、目の前には気絶しているずぶ濡れの女の子……。


「……え、今釣れたの……こいつ?」

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