外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第5話 違います、事実の隠蔽です

 取り敢えず釣り竿を置いて、気絶してる女の子の元に行く。


 ……知らない子だ。少なくともうちの村にはいないな。


 服もずぶ濡れだが、かなり高そうな生地を使ってるように見える。スカートやワンピースというより、黒いドレスみたいな感じだ。


 髪の毛は、ドレスとは正反対の白銀だ。糸のように細く、美しく、陽の光を反射してまるで天の川のように魅せている。


 ドレスのせいで体型までは分からないが……ミケに引けを取らないほどの容姿と、それにミケにはないたわわに実った胸がある。釣り以外興味のない俺が生唾を飲むレベルだ。


 と、とにかく……この子、どうしよ?


 近くに落ちていた木の枝で頬をつついてみる。


「お、おーい、生きてるかー?」


 頭のコブからして、頭から落ちたみたいだが……生きてる、よな……?


「…………」


 ……返事がない、屍のようだ。


 うーん、どうしよう。このままここに置いとくのは流石に……お、そうだ。


 女の子を引きづり、湖の縁まで持っていく。


 この湖には通常の魚の他に、死体を食うことで有名なハイエナウオも存在している。そしてハイエナウオは、様々な栄養を取ってるからか物凄く濃厚な味わいな魚だ。せめてその子達の養分となってくれ。


 え? 証拠隠滅? 違います、事実の隠蔽です。


「恨んでくれるな。さらば」


『さらばじゃなーーーーい!』


「がんめんっ!?」


 お、おぐぅ……!? な、何だ!? 何かが顔面に……!


 顔を抱えてうずくまっていると、倒れている女の子の胸に付けられているペンダントが独りでに浮かび上がり、そこから怒りの籠った声が聞こえてきた。


『貴様! 誰かが倒れていたら、まずは意識と息の確認! 意識が無かったら心臓マッサージ三〇回、人口呼吸二回じゃろ! そんな基礎中の基礎の応急処置も知らんのか!』


「…………」


『おいっ、何とか言えー!』


 …………。


「なあペンダント。ちょっといいか」


『ウチをそんじょそこらのペンダントと一緒にするでない! ウチは……!』


「待て待て。お前が浮いてるから現在進行形で女の子の首が締まってる件について」


『はぅっ!? そそそそうじゃった! おいエリィ、しっかりするのじゃ!』


 浮かんでいたペンダントが女の子の顔の前まで浮かぶ。だが女の子は起きる気配はない。


『き、貴様! はよ応急処置じゃ!』


「え、俺?」


『他に誰がおる! まだエリィは死んではおらんが、水を大量に飲んでいる上に気絶しておる! このままでは死んでしまうぞ!』


 え、ええ……俺、応急処置とかやったことないんだけど……。


「ど、どうすりゃいい? 指示をくれ」


『まず、胸の真ん中あたりに手を置け。で、ウチのリズムと一緒に心臓マッサージじゃっ! いいか、三〇回じゃぞ!』


「わ、分かった」


 急いで言われた通りに女の子の胸の中心辺りに手を置く。くそっ、何でいきなり俺の手に人の命がかかってるんだよ……! こんな状況じゃなきゃ嬉しい展開なんだろうけど、嬉しさの欠片も感じねーよ!


『行くぞ!』


 ペンダントから一定のリズムで音が鳴る。それに合わせて、近強く心臓マッサージを行っていく。


『そうそう、上手いぞ!』


「ぐっ、はっ、うっ……!」


 こ、これ思ったより大変だ……!


『……二八、二九、三〇! 次は人工呼吸じゃ! 鼻を摘み、顎を上げて気道を確保! 二回じゃ!』


「お、おう!」


 鼻を摘み、顎を上げて、人工呼吸を二か……。


「……これキスじゃね?」


『人の命が掛かってるのにそんなこと気にするでない!』


 ……ええいクソ! こうなりゃヤケだよ! やりゃいいんだろ!


 人工呼吸を一回……二回……!


『もう一度心臓マッサージ!』


 また!?


 ああもう! 目ぇ覚ませやお前ぇ!


「……っ! がほっ! げほっ!」


 っ、水を吐き出した!


『エリィ!』


「けほっ、けほっ……る、ルーシー……ここは……」


『もう大丈夫じゃっ。あの空間から逃げてこられたのじゃ!』


 ……あの空間? って、何のことだ……?


 エリィと呼ばれた女の子は、深海のように濃い青色の瞳で、俺を見つめてきた。


「……あなたは……?」


 小さく動く唇から、まるで鈴を鳴らしたような、綺麗な声が発せられる。人工呼吸とは言え、さっきまでこの子にキスしてたのかと思うと……ちょっと、緊張する。


「ぅ……お、俺はタナトだ。よろしく」


『こやつが、エリィを助けてくれたのじゃ。タナトとやら、エリィを助けてくれて、感謝するぞ』


「……たな、と……ありがとう、タナト」


 ぺこりと頭を下げる女の子とペンダント。なんか、シュールな光景だ……。


「お、俺はそのペンダントに言われた通りにやっただけだ。ペンダントが喋らなきゃ、お前を助けられなか……った……」


 …………。


「……ペンダントが喋ってる!?」


『今更か!?』


 いや俺も色々テンパってたけど、よく考えるとおかしいよな!?


「な、何なんだよ、お前ら……」


『む、そう言えば自己紹介がまだだったな。これは失敬』


 エリィと呼ばれた女の子がすくっと立ち上がり、俺の顔をじっと見上げてくる。


『これ、エリィ。自己紹介せんか』


 女の子は、こくっと首を縦に振る。


「……エリィ。エリオラ・シエル」


『ウチはそのお目付け役兼護衛のルーシーじゃ』


 …………。


 いや、名前以外の情報が全く増えてないんだが……どうしよ、これ。

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