【連載版】唯一無二の最強テイマー 〜最強の種族をテイム出来るのは俺だけです。俺の力を認めず【門前払い】したのはそっちでしょう。俺を認めてくれる人の所で過ごすつもりなので、戻るつもりはありません〜

赤金武蔵

ブロンズプレート──①

「はい、どうぞぉ〜」
「あ、ありがとうございますっ」




 場所は変わってギルドマスター室。
 トワさんが紅茶を入れ、俺の前に差し出した。
 声が上擦ったが、そこは察して欲しい。俺の気持ちを。
 こんな綺麗な人が笑顔で紅茶を入れてくれる。
 女っ気のない俺の人生で初めてなんだよ。
 うん、めちゃめちゃ嬉しい。ニヤける。




「緊張しないでも取って食ったりしませんよぉ〜。クルシュちゃんなら一口かもしれませんが〜」
「あはは。ご冗談が過ぎますよ」
「冗談だと思いますかぁ〜?」
「…………」
「じょ〜だんで〜す♪」




 この人、表情が変わらないから冗談か本気か分からないんだが。
 トワさんの言葉に引き気味になる。


 だけど皆は、こっちよりも目の前のお菓子が気になるようで。




『見てコハク! チョコチップクッキー!』
『クッキーうまうま!』
『こら2人とも、はしたないですよ』




 クレアとフェンリルが美味そうにクッキーを頬張っている。


 ……あれ、狼ってチョコレート食べていいんだっけ?
 ……ま、正確には幻獣種ファンタズマだし大丈夫でしょ。


 紅茶で唇を潤す。
 ぶっちゃけ茶葉の違いなんてわからないけど、美味い。多分、美味いと思う。


 そんな様子を見ていたトワさんは、不思議そうに首を傾げた。




「クッキーが1人でに無くなっていってますねぇ〜。幻獣種ファンタズマの皆さんですかぁ〜?」
「あ、はい。皆美味しそうに食べてますが……すみません、うちの子が勝手に……」
「ふふふ、喜んで食べてくれているなら私も嬉しいです〜。これ、手作りなんですよぉ〜」




 なんと手作りクッキー!
 美女の手作りクッキー、それは是非とも食べなければ!




『げふっ。食べたー』
『食べた! 食べた!』
「んなっ!?」




 こ、こいつら……全部食いやがった……。




『ご安心を、ご主人様。ご主人様の分は確保済みでございます』
「流石スフィア、ありがとう……!」
『身に余る光栄でございます。……ッシ』




 いつも通り隠れてガッツポーズ。
 でもバレバレだよ、スフィア。
 少しだけ苦笑いを浮かべ、スフィアに貰ったクッキーをぱくり。




「うっま。え、うっま!」
「ふふ。喜んでいただいてよかったです〜」


 想像の10倍美味い。
 これは確かに、クレアとフェンリルの気持ちも分かる。


 クッキーを堪能し、紅茶で流す。


 ……それにしても、ファンシーな内装の部屋だ。


 ピンク色のカーペット。
 パステルブルーのソファー。
 クリアガラスのテーブル。
 デフォルメされたドラゴンの人形。
 豪勢なシャンデリア。
 ドライフラワーの飾り物。
 それに、ふわっと香る甘く脳が痺れる匂い。


 これが、テイマーギルドのギルドマスター室……。
 正直、女の子らしすぎてちょっと落ち着かない。


 ターコライズ王国のギルドマスター室はもっとボロボロだった。
 タバコの煙で変色した壁。
 食いかけで腐りかけた料理。
 転がる酒瓶。
 ナイフの刺さった扉。


 これがむさ苦しいオッサンと可憐な女性の差か。




「えっと〜、お話してもいいですかぁ〜?」
「あっ。はい、お願いします」
「それでは本題です〜」




 トワさんが、シルクの布に包まれた何かを机の上に置いた。




「……これは?」
「開けてみてくださ〜い」




 なんだろうか。
 丁寧に折りたたまれている布を開く。


 現れたのは、銅で作られたブローチだ。
 円形の中が十字で区切られ、それぞれに太陽、三日月、星、獣の紋章が刻まれている。




「これって……」
「テイマーギルドのギルド員であることを証明するブローチです〜」
「お……おおおっ! こここっ、これがっ……!」




 傷1つないブローチを手に取る。


 重い……すごく重い。
 これは、質量的な重みじゃない。
 これを手に入れるために、この7年間駆けずり回ってきた。
 その7年分の重みが、ここに詰まっている。


 長かった……本当に長かった。
 蔑まれた。
 嘘つきと言われた。
 無能のレッテルを貼られた。


 それでも頑張ってきた。頑張ってこれた。
 父さんのあの言葉、、、、があったから、今の俺がある。


 それが、たまらなく嬉しい。




「……あれ? でもこれって……ブロンズプレートですよね?」




 ギルド員にはランクがある。
 それはプレートの色で決められていて、下からアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリルと上がっていく。


 本来ギルドに入る場合、例外なくアイアンからスタートとなる。


 でもこれは……どう見てもブロンズプレートだ。


 俺の問いに、トワさんは鈴を鳴らしたような声で笑う。




「コハクさんは幻獣種ファンタズマテイマーで、私のクルシュちゃんと互角以上に戦えました〜。なので特例として、1個うえのブロンズプレートからスタートで〜す」
「そ、そんな……いいんですか?」
「はい〜。誰にも文句は言わせませ〜ん」




 トワさんは、ブロンズプレートごと俺の手を優しく包んだ。




「頑張って、コハクさん。トワ・エイリヒムはコハクさんのことを応援しますよぉ〜」
「────」




 ぁ……これ、あれだ。ダメだ。
 止まらない。
 止められない。


 溢れ出る感情を抑えられない。


 この7年間。期待されたことなんてなかった。
 ただの1度も。


 でもトワさんは……俺の欲しかった言葉をくれた。


 頑張って。
 応援してる。


 この言葉が、俺の乾いた心に突き刺さった。


 頬を伝う、熱を持った涙。
 それを自覚すると、更に目頭が熱くなる。




『こっ、ここここコハク!? ど、どうしたらいいの!? これどうしたらいいの!?』
『コゥ、見て見て! ほら、おすわり! ふせ! ちんちん!』
『おおおと落ち着きなさい2人とも。まずは私お得意の腹踊りをお見せして……』
『あんたが落ち着きなさい!』




 ああ、ダメだ。皆を心配させてる。
 でも止まらない。どうしたら……。


 すると──トワさんが、身を乗り出して俺の頭の上に手を乗せた。
 見ると、トワさんは今まで見せた中でも一際優しく微笑みかけてくれていた。




「私には、あなたの涙が何を意味しているのか分かりません。ですが……その涙が、決して軽くないものだとは分かっているつもりです。……今は泣きなさい。それであなたの心が、軽くなるのなら」
「……ぅっ……ぅぁ……!」




 泣いた。
 泣いた。
 泣いた。
 脇目も振らず、トワさんや皆からの目も気にせず。


 ただ、ひたすら涙した。

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