神器コレクター 〜ダンジョンでドロップする『種』が、神器に育つことを俺だけが知っている。今更返せと言われてももう遅い。勝手に捨てたのはそっちじゃないですか〜

赤金武蔵

第23話:そして悪意は歩み寄る

 猫フランを連れてギルドへやってきた。
 ……どことなくピリピリした空気だな……。
 俺がギルドへ入ってきたことに気付いた冒険者が、サムズアップをして出迎える。いや、なに?


 ……取り敢えずモモナに聞いてみよう。フーナもきてるみたいだし。




「モモナ。フーナ」
「レアルさん!」
「あぁ、レアルさん。ちょうどいいところに」




 ちょうどいいところ?
 モモナが一枚の紙を見せてくる。




「リバイソン王国冒険者パーティー【龍號】のリーダー、ソブロを見つけ、場所の情報を提供した者に賞金として二千万ゴールド……二千万!?」




 えっ、なっ……え!?
 紙とモモナを交互に見ると、モモナは縦に首を振った。




「ここではあれだから、取り敢えず奥で」
「……ああ、頼む」




 二千万……二千万……Sランクのクエストの平均報酬が五十万ゴールド。しかも死ぬ危険が伴う。
 その四十回分に相当する額だぞ、これ……。
 ギルドの応接室に通されると、モモナがことの原因を話し出した。




「昨日レアルさん、情報提供だけでいいって言ってたわね」
「ああ、言った」
「それで国王様が、それなら下位のランカーにも出来るということで……」
「なるほど……それで情報提供者には賞金、か」




 こくり、と頷くモモナ。
 情報提供だけで二千万……どんだけ気合い入れてるんだ、アーノルド様。
 と、ここでフーナが首を傾げる。




「情報の信憑性はどうなってるの? 嘘の情報もあったら……」
「情報は最初、警備兵に報告されるわ。そこで警備兵が確認してギルドへ報告。そこからレアルさんへ報告が行くようになっているの」




 なるほど、金目当ての報告を防ぐようにしてるのか。




「じゃあさ、これ相手にもバレちゃわない? ほら、大々的にやると敵って逃げちゃうでしょ?」
「いや、そこは大丈夫だろう。ソブロは執念深い。奴のことを数年間も側で見てたから分かる。この程度じゃ、奴は動じない」




 むしろ動じて逃げてくれたら、こんなに楽なことはないが……。
 あいつはこんなことで逃げ出すような男じゃないんだ。良くも悪くもな。


 ……だが……。




「…………」
「不安そうな顔ね。大丈夫よ、念の為これはBランク以上の依頼。もし何かあっても、Bランク以上なら……」
「違う、そうじゃない」




 正直、ここまで親身に協力してくれるのは嬉しい。
 まあ、依頼内容からして、俺にびた一文入らないのは納得いかないが……問題はそこじゃないんだ。




「モモナ、この依頼に参加する全冒険者に通達してくれ。ソブロを見つけたら、何がなんでも手を出すなって」
「え? それはどういう……?」
「冒険者はある意味欲の塊だ。情報提供だけで二千万。もし捕まえたらと考えた時……何をしでかすか分からない」




 モモナもそれは考えなかったのか、慌てて頷いた。




「わ、分かったわ。早急に伝達します」
「頼む。奴には絶対に手を出しちゃ駄目。Sランカーでも同様だ」




 フランとフーナはあいつらの強さを身近で感じたから、こくこくと頷く。
 強さという一点で言えば、奴とフォルンはリバイソン王国でも五本の指に入る。


 それに……これは、俺の問題なんだ。




   ◆◆◆




「おい見ろ……」
「あいつじゃねーか?」
「手配書の人相にそっくりだ……」




 フィレントから僅かに数キロ離れた場所にて、三人の冒険者が岩陰に隠れて何やら話し合っていた。
 視線の先にいるのは、数十人を前に指示を出している男。
 手配書に描かれている顔と同じだ。




「奴がソブロ……」
「ついてるぜ、俺達」
「どうする? 報告するか?」
「ばっか野郎ッ。報告で二千万だぞ、俺達で仕留めたら……」




 成功した時の額を想像し、三人の顔が欲望に染まる。




「よし……行くぞ。俺達が奴を仕留めて、賞金もプラスアルファも総取りだ!」
「「おう!」」




 三人が武器を取り、岩陰から飛び出す──!










「何だァ、テメェら?」
「「「──ぇ……?」」」










 背後からかけられる声。
 突如傾く世界。
 真っ直ぐ立っているはずなのに、体が麻痺して傾いていく。
 まるで酒を飲みすぎて酔っているかのように──。




(何だ、何が起こった!?)
(体が動かねぇ!)
(どうしたんだ! どうし──)




 傾く世界の中、三人は見た。
 自分達をゴミを見る目で見てくる、手配書の男。
 その手には、赤く血塗られた剣が握られている。




(え、さっきまで、遠くに……)
(な、んで……)
(ここに、い……る……)




 それが──男達の最後だった。


 胴体と頸が斬り離された三人の男を、ソブロが踏み付ける。




「何だこのカス共は。……ん?」




 男達が持っていた紙が、ソブロの足元に落ちる。
 そこには、ソブロの顔と依頼内容が書かれていた。




「……へぇ……なるほど。こいつぁ使えるな」




 ニヤァ……。
 醜悪を孕んだ笑み。




「待ってろよレアルェ……ぜってぇ追い詰めてやる……!」




 悪意が、レアルへと歩み寄っていた。

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