神器コレクター 〜ダンジョンでドロップする『種』が、神器に育つことを俺だけが知っている。今更返せと言われてももう遅い。勝手に捨てたのはそっちじゃないですか〜

赤金武蔵

第20話:そして気持ち悪かった

   ◆◆◆


 五分後。荒野を覆うほどの大津波がようやく消え、まるで最初から水なんて出てなかったかのように乾いた大地だけが残った。


「げほっ! げほっ……! がはっ……!」


 ソブロは苦しそうに咳き込んでいるが……まだ生きてたか。中々しぶとい。
 デュランダルを手に、息も絶え絶えになっているソブロへと近づく。
 五分間も荒波に晒されたからか、もう俺を睨み付ける力も残ってないみたいだ。


「ちく、しょ……あんな……げほっ! 卑怯だぞ……!」
「は? 卑怯? 何言ってんだ? 俺は俺の持つ神器を使っただけだ」


 そもそも卑怯ってんなら、こいつの方が数段卑怯だろ。
 呆れつつ、周囲に転がってる皆を見渡す。
 息はある……気絶してるみたいだ。
 まだ催眠が解けてるか分からないが……催眠の媒体になっているブツを探すか。
 オーディンの目、発動。


「……指輪? 催眠の指輪……そいつか」
「ッ!」


 ソブロは右手を隠し、亀のように蹲る。
 どうやら間違いなさそうだな。


「今までも付けていたから、何らかの力はあるもんだと思っていたが……まさか、こんな非人道的な力を持つ指輪だったとはな」


 つまりこいつは、そんな昔から皆を洗脳していたのか……。


「ここまで外道だったのか、お前」
「……だったら……だったら何だ!」


 ソブロは激昂し、血走った目で俺を睨む。


「俺は強さを求めた! 強くなるためなら何でもした! そして【龍號】を育て、王国抱えのパーティーにまで育て上げた! 甘い考えを持つこいつらの本当の力を引き出し、先導したのは俺だ! 俺の力だ! 俺の功績だ!」


 うわ、何こいつ逆ギレ? 最近の若者はキレやすいと言うけど、まさかの逆ギレって……こわ。


「そしてお前を拾ったのも俺だ! お前が弱く、道端で野垂れ死にそうなのを拾って育てた! 強くしてやった! その仕打ちがこれか!? ふざけんじゃねぇ!」
「……確かに、まだEランクの時にお前に拾われた。戦い方も教えてもらったし、そこは感謝している」


 でもな。


「俺の成長が頭打ちになり、それを切り捨て、見放したのもお前だ。心優しい皆を洗脳し、俺を追放に追いやった……忘れたわけないよな?」
「それはテメェが弱かったのが悪いんだろうが! 神器以外大した力もない雑魚が粋がってんじゃねーよ!」


 こいつ……ホント救えねぇな……。
 強くなるためには手段を選ばず、弱者は切り捨て、失敗してもミスを認めない。
 こんなのを信じてついて行ってたと思うと、自分の見る目のなさに絶望すら覚える。
 あ、何だか妙な頭痛が……。
 こいつの馬鹿さ加減に頭を抑えていると、今度は優しい笑みを浮かべて……とんでもないことを口走った。






「だけど……俺は嬉しいよ、お前がここまで強くなってくれたなんて。これも、全部俺達のために頑張ってくれたんだろ?」






 ………………………………………………は?
 唖然とする俺を他所に、ソブロは立ち上がって俺に手を差し伸べた。


「あの時言ってたじゃないか。強くなったってさ。それも俺達と肩を並べて戦うためなんだろ? 今なら分かる。そして今のお前なら、俺達の誰よりも強く前線で戦える。さあ、もう一度やり直そう。もう一度、同じパーティーで高みを目指そう、レアル」


 ぞわぞわぞわぞわぁ……!
 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……!
 何だこいつ、何でこんなこと平気で言えるんだ……!?


 余りのおぞましさに、数歩ほど下がる。
 だがソブロは、そんな俺に近付くように歩みを進めた。


「さあ、レアル。俺の手を取るんだ。な?」
「ッッッ!?!?」


 だ、ダメだ、こいつ話にならなすぎる……!
 俺は反転して脱兎の如く走ると、ソロモン王の絨毯に飛び乗って全速力でその場を飛び去る。


「れ、レアルさんっ、あの人達放っておいていいの?」
「ニャア?」
「……放ってはおけない、けど……余りに気持ち悪すぎて逃げちまった……」


 あいつ、まともじゃない。普通じゃない。
 パーティーを強くするために洗脳なんて手段を取るような人間だ。期待はしていなかったが……あれは余りにも酷すぎる。


 あの場で使った神器も一応全部回収出来たし、とにかく今は逃げの一択だ。


「レアーーーーーーーールッッッ! 逃がさねぇ! お前の物を全て手に入れるまで、ぜってー逃がさねぇからなあああああぁぁぁぁぁぁ──……」


 背後から聞こえるソブロの声が徐々に小さくなる。
 それから逃げるように、振り向かず、真っ直ぐにフィレントへ飛んで行くのだった。

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