神器コレクター 〜ダンジョンでドロップする『種』が、神器に育つことを俺だけが知っている。今更返せと言われてももう遅い。勝手に捨てたのはそっちじゃないですか〜
第10話:そして煽る
◆◆◆
某日。
リバイソン王国国賓室にて、二人の男が向かい合っていた。
「ほっほっほ。ご健勝で何よりですな、アルゴール殿」
「かっかっか! そちらこそ変わっていないようだな、アーノルド殿」
一人は立派な白髭を蓄えている老人。
第三十六代クロムス国国王、アーノルド・リュージュ。
そしてもう一人は、アーノルドを前にしても不遜な態度でふんぞり返っている初老の男。
第四十二代リバイソン王国国王、アルゴール・ペリストリィ。
今ここでは、公にはされていないお茶会が行われていた。
「アーノルド殿。貴国では冒険者の育成、移住に力を入れているとか。上手くいっているのか?」
「お心遣い痛み入ります。今のところ順調に進んでおりますじゃ。ですが、まだまだ貴国のようには行きませんな」
「かっかっか! 何せ貴国と我が国では年季が違うからな! 無理もない!」
自国が持ち上げられて気分が高揚するアルゴール。
それを見たアーノルドは、紅茶に口を付けながら口を開いた。
「しかし、流石はリバイソン王国。まさかあのような強者を手放すとは……貴国の冒険者の層の厚さは、目を見張るものがありますね」
「……あのような者、とは?」
「レアル・リシュド君です」
「……レアル……?」
聞いたことがない。誰だそれは。
確かに、最近はリバイソン王国からクロムス国に移住する冒険者も増えている。
しかし、強い力を持つ冒険者は移住させないようにしてある。
レアルなんて名前の冒険者、聞いたこともない。
聞いたことがないということは、自分の耳に届くほどの強い力を持っていないということだ。
だが……何だ。何かが引っかかる。
アーノルドの言葉に、アルゴールは根拠の無い不安を覚えた。
「おや、知らないので?」
「っ! し、知っておるわ! レアルだろう。奴は元気にしているか?」
「ええ、ええ。それは勿論。今ではSランク冒険者として、孤軍奮闘の活躍を見せております」
「Sランク冒険者……!?」
驚愕と戦慄が、アルゴールの胸に去来する。
(そんな馬鹿な! なら、何故俺がそいつを知らない……!?)
Sランク冒険者は国家級戦力。
リバイソン王国でもクロムス国でも、冒険者の力は平等に審査される。
つまり、クロムス国でSランク認定されたとあうことは、リバイソン王国でもSランク認定することの出来る力を持つ。
(そんな者が移住だと!? 馬鹿な! そんなこと許せるはずがない!)
許す、許せないの前に既に移住の手続きは終わっている。
それにプライドもある。今更返せなんて口が裂けても言えない。
「ほっほっほ。まさかあんなに強力な神器を多数持っているなんて、貴国の冒険者は化け物揃い……おっと失礼。ご無礼を」
「……は……? 神器……?」
神器を多数持っている、だと?
何だそれは。どういうことだ?
アーノルドが嘘をついているようには見えない。
つまり、全部本当。
神器を多数持った冒険者が、リバイソン王国からクロムス国へ移住した。
その動かし難い事実に、アルゴールの心は激昂していた。
(何だそれは……何なんだそれは!? 何でそんな奴が小国に移住を!? ギルドマスターは何をしていた! そもそもそんな奴がいたなんて報告は一切受けていないぞ! どうなっている!?)
怒り狂う心を必死に押さえつけ、アルゴールは口を開いた。
「そ、の……レアル君は、この国ではどこかのパーティーに属していたのかな? いや、忘れている訳ではないが、数が多くてね」
「ほっほっほ。無理もないことです。確か、【龍號】というパーティーに属していたとか」
【龍號】。
つい最近、王国抱えのパーティーになったリバイソン王国でも強力なパーティー。
何故【龍號】のリーダーは、レアルが抜けることを許したのか。
何故誰も止めなかったのか。
何故だ。
何故。
何故だ……!?
「……申し訳ない、アーノルド殿。用事を思い出した」
「ふむ。リバイソン王国の王ともなれば、仕事は山のようにありますじゃろ。儂のことはお気になさらず」
「すまない。またいずれ、別の機会に茶会を開こう」
「ですな。では、これにて」
アーノルドが腰を折り、従者を連れて国賓室を後にする。
「……ガアアアアアァァァァッッッ!!」
直後、アルゴールは怒りに任せてテーブルを叩き割った。
異変を感じ取った兵士が、国賓室になだれ込んでくる。
「こ、国王様! 如何なされました!?」
「ふーっ、ふーっ……! ……呼べ……」
「……へ? あ、あの……?」
「……【龍號】のリーダーをここに呼べァ!」
「は、はいぃ!?」
アルゴールの剣幕に圧倒された兵士は、転がるようにして走り去っていった。
◆ソブロ◆
「何? 国王様が?」
チッ。今日は休みだってのに、面倒なことだ。
国王の使者に連れられて馬車に乗り、王城へと向かう。
ま、最近イケイケの俺らのパーティーだ。リーダーである俺に、褒美か何かくれるんだろう。
そうだな……金もいいが、女もいいな。
それか領地……いや、爵位ってのも捨てがたい。
くっくっく、楽しみだぜ。
「こんの大馬鹿者がああああああ!!!!」
「ぶげっ!?」
な……え……殴……?
何だ、それ……何で殴られた、俺は……?
国王は俺の髪を掴みあげると唾を撒き散らして怒鳴った。
「貴様ァ! レアルとかいう男を知っているだろう! 吐け! 知っているな!?」
「は、はいっ。し、ししし知っていますが……」
「何故奴が貴様のパーティーを抜ける時止めなかった! 貴様ふざけているのか!? それとも舐めているのか!」
え……な、何で……意味が……え……?
「奴は! レアルは神器を多数所持しているらしいじゃないか! クロムス国国王、アーノルド殿から聞いたぞ! 奴は今クロムス国でSランク冒険者となっていると!」
「……ぇ……は……?」
……何が何だか分からない……。
レアルが、神器を持っている……?
多数ということは……いくつも……?
「し、しかし国王様っ」
「しかしだと!? 言い訳するか貴様! アーノルド殿が嘘をついているとでも言うのか!?」
「め、滅相もないです……!」
国王の前に跪いて忠誠を示す。
だが……どういうことだこれは。本当に意味が分からない。
レアルが神器を多数所持している? 何の冗談だ。何の──。
『ま、待ってくれよソブロ。俺、強くなったんだぜ……?』
──あ。
まさ……か……。
あの時かアァッ……!
あの時、強くなったって言ったのは神器を手に入れたからだ……!
クソが……クソがクソがクソが!
舐めやがって、ふざけやがって……!
神器を手に入れたならあの時言えよクソゲボがァ……!
国王様は少しは怒りも収まったのか、冷たく冷徹な口振りで口を開いた。
「【龍號】に司令を出す。レアルを捕獲、リバイソン王国へ連れ戻せ。いや……最悪神器だけでも奪えればいい。その際レアルの生死は問わないものとする」
「はっ!」
「失敗すれば【龍號】の王国抱えの地位を剥奪。及び貴様はリーダーとして責任を取り、処刑とする」
「はっ! ……は?」
処刑……え、俺が、処刑……?
待て、何の冗談だ? 俺が死ぬ? 殺される? ミスを許されない……?
「分かったな? 下がれ」
「……はい……」
……クソ……クソクソクソ!
全部……全部あいつのせいだ!
あいつがいたからこんなことになった!
……殺してやる……あいつを、完膚なきまでに殺してやる……!
某日。
リバイソン王国国賓室にて、二人の男が向かい合っていた。
「ほっほっほ。ご健勝で何よりですな、アルゴール殿」
「かっかっか! そちらこそ変わっていないようだな、アーノルド殿」
一人は立派な白髭を蓄えている老人。
第三十六代クロムス国国王、アーノルド・リュージュ。
そしてもう一人は、アーノルドを前にしても不遜な態度でふんぞり返っている初老の男。
第四十二代リバイソン王国国王、アルゴール・ペリストリィ。
今ここでは、公にはされていないお茶会が行われていた。
「アーノルド殿。貴国では冒険者の育成、移住に力を入れているとか。上手くいっているのか?」
「お心遣い痛み入ります。今のところ順調に進んでおりますじゃ。ですが、まだまだ貴国のようには行きませんな」
「かっかっか! 何せ貴国と我が国では年季が違うからな! 無理もない!」
自国が持ち上げられて気分が高揚するアルゴール。
それを見たアーノルドは、紅茶に口を付けながら口を開いた。
「しかし、流石はリバイソン王国。まさかあのような強者を手放すとは……貴国の冒険者の層の厚さは、目を見張るものがありますね」
「……あのような者、とは?」
「レアル・リシュド君です」
「……レアル……?」
聞いたことがない。誰だそれは。
確かに、最近はリバイソン王国からクロムス国に移住する冒険者も増えている。
しかし、強い力を持つ冒険者は移住させないようにしてある。
レアルなんて名前の冒険者、聞いたこともない。
聞いたことがないということは、自分の耳に届くほどの強い力を持っていないということだ。
だが……何だ。何かが引っかかる。
アーノルドの言葉に、アルゴールは根拠の無い不安を覚えた。
「おや、知らないので?」
「っ! し、知っておるわ! レアルだろう。奴は元気にしているか?」
「ええ、ええ。それは勿論。今ではSランク冒険者として、孤軍奮闘の活躍を見せております」
「Sランク冒険者……!?」
驚愕と戦慄が、アルゴールの胸に去来する。
(そんな馬鹿な! なら、何故俺がそいつを知らない……!?)
Sランク冒険者は国家級戦力。
リバイソン王国でもクロムス国でも、冒険者の力は平等に審査される。
つまり、クロムス国でSランク認定されたとあうことは、リバイソン王国でもSランク認定することの出来る力を持つ。
(そんな者が移住だと!? 馬鹿な! そんなこと許せるはずがない!)
許す、許せないの前に既に移住の手続きは終わっている。
それにプライドもある。今更返せなんて口が裂けても言えない。
「ほっほっほ。まさかあんなに強力な神器を多数持っているなんて、貴国の冒険者は化け物揃い……おっと失礼。ご無礼を」
「……は……? 神器……?」
神器を多数持っている、だと?
何だそれは。どういうことだ?
アーノルドが嘘をついているようには見えない。
つまり、全部本当。
神器を多数持った冒険者が、リバイソン王国からクロムス国へ移住した。
その動かし難い事実に、アルゴールの心は激昂していた。
(何だそれは……何なんだそれは!? 何でそんな奴が小国に移住を!? ギルドマスターは何をしていた! そもそもそんな奴がいたなんて報告は一切受けていないぞ! どうなっている!?)
怒り狂う心を必死に押さえつけ、アルゴールは口を開いた。
「そ、の……レアル君は、この国ではどこかのパーティーに属していたのかな? いや、忘れている訳ではないが、数が多くてね」
「ほっほっほ。無理もないことです。確か、【龍號】というパーティーに属していたとか」
【龍號】。
つい最近、王国抱えのパーティーになったリバイソン王国でも強力なパーティー。
何故【龍號】のリーダーは、レアルが抜けることを許したのか。
何故誰も止めなかったのか。
何故だ。
何故。
何故だ……!?
「……申し訳ない、アーノルド殿。用事を思い出した」
「ふむ。リバイソン王国の王ともなれば、仕事は山のようにありますじゃろ。儂のことはお気になさらず」
「すまない。またいずれ、別の機会に茶会を開こう」
「ですな。では、これにて」
アーノルドが腰を折り、従者を連れて国賓室を後にする。
「……ガアアアアアァァァァッッッ!!」
直後、アルゴールは怒りに任せてテーブルを叩き割った。
異変を感じ取った兵士が、国賓室になだれ込んでくる。
「こ、国王様! 如何なされました!?」
「ふーっ、ふーっ……! ……呼べ……」
「……へ? あ、あの……?」
「……【龍號】のリーダーをここに呼べァ!」
「は、はいぃ!?」
アルゴールの剣幕に圧倒された兵士は、転がるようにして走り去っていった。
◆ソブロ◆
「何? 国王様が?」
チッ。今日は休みだってのに、面倒なことだ。
国王の使者に連れられて馬車に乗り、王城へと向かう。
ま、最近イケイケの俺らのパーティーだ。リーダーである俺に、褒美か何かくれるんだろう。
そうだな……金もいいが、女もいいな。
それか領地……いや、爵位ってのも捨てがたい。
くっくっく、楽しみだぜ。
「こんの大馬鹿者がああああああ!!!!」
「ぶげっ!?」
な……え……殴……?
何だ、それ……何で殴られた、俺は……?
国王は俺の髪を掴みあげると唾を撒き散らして怒鳴った。
「貴様ァ! レアルとかいう男を知っているだろう! 吐け! 知っているな!?」
「は、はいっ。し、ししし知っていますが……」
「何故奴が貴様のパーティーを抜ける時止めなかった! 貴様ふざけているのか!? それとも舐めているのか!」
え……な、何で……意味が……え……?
「奴は! レアルは神器を多数所持しているらしいじゃないか! クロムス国国王、アーノルド殿から聞いたぞ! 奴は今クロムス国でSランク冒険者となっていると!」
「……ぇ……は……?」
……何が何だか分からない……。
レアルが、神器を持っている……?
多数ということは……いくつも……?
「し、しかし国王様っ」
「しかしだと!? 言い訳するか貴様! アーノルド殿が嘘をついているとでも言うのか!?」
「め、滅相もないです……!」
国王の前に跪いて忠誠を示す。
だが……どういうことだこれは。本当に意味が分からない。
レアルが神器を多数所持している? 何の冗談だ。何の──。
『ま、待ってくれよソブロ。俺、強くなったんだぜ……?』
──あ。
まさ……か……。
あの時かアァッ……!
あの時、強くなったって言ったのは神器を手に入れたからだ……!
クソが……クソがクソがクソが!
舐めやがって、ふざけやがって……!
神器を手に入れたならあの時言えよクソゲボがァ……!
国王様は少しは怒りも収まったのか、冷たく冷徹な口振りで口を開いた。
「【龍號】に司令を出す。レアルを捕獲、リバイソン王国へ連れ戻せ。いや……最悪神器だけでも奪えればいい。その際レアルの生死は問わないものとする」
「はっ!」
「失敗すれば【龍號】の王国抱えの地位を剥奪。及び貴様はリーダーとして責任を取り、処刑とする」
「はっ! ……は?」
処刑……え、俺が、処刑……?
待て、何の冗談だ? 俺が死ぬ? 殺される? ミスを許されない……?
「分かったな? 下がれ」
「……はい……」
……クソ……クソクソクソ!
全部……全部あいつのせいだ!
あいつがいたからこんなことになった!
……殺してやる……あいつを、完膚なきまでに殺してやる……!
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