神器コレクター 〜ダンジョンでドロップする『種』が、神器に育つことを俺だけが知っている。今更返せと言われてももう遅い。勝手に捨てたのはそっちじゃないですか〜

赤金武蔵

第1話:そして助ける

 空を飛ぶこと丸一日。
 俺は一先ず休憩のため、湖の畔で火を起こしていた。
 適当に集めた木の枝に葉っぱを積んで。




「えっと火は……プロメテウスの炎」




 収納の指輪から浮き出たのは、異様に赤く輝く小さな炎。
 それが、積まれた木の枝を激しく燃やした。


 プロメテウスの炎。
 対象を燃やし尽くしても消えることのない伝説の炎だ。
 収納の指輪にしまうまで燃え続けるから、野宿の時に最適な神器と言える。


 焚き火の前に座り込み暖を取る。




「……くそ……」




 思い出されるのは、嘲笑、失笑、蔑み。
 そしてソブロやフォルンからの言葉。




『俺ら全員、テメェが死ぬほど嫌いなんだよ』
『吐き気がするほど嫌いです』




 ……くそが……何なんだよ、それ……。
 俺も、俺自身の弱さは自覚していた。
 だから強くなろうと頑張った。
 神器を手に入れてからはようやく皆と肩を並べられると思った。
 それなのに……こんなのってありかよ。
 やってられるか、ふざけんな。




「はぁ……これからどうしよう……」




 突然、【龍號】には戻れない。
 しかも【龍號】は王国お抱えの冒険者ギルドだ。王国に残ることは難しい。
 つまり、どこにも行くあてがないか……。




「はぁ……どっか他国に流れるしかないよな……」




 俺だって出来ることなら王国を離れたくはない。
 ただ、いつアイツらとかち合うか分からない王国にいるのは無理だ。




「はぁ……どこかに俺を拾ってくれる超絶美人でおっぱい大きくて気立てのいい女の子いねーかなぁ……」




 ……はは、そんなのいるわけ──。






「キャアーーーーーーーー!!!!」






「ッ! 今の悲鳴は……!?」




 今の悲鳴……あっちの方か!




「絨毯、行くぞ!」




 ソロモン王の絨毯を呼び出し、木々の間を縫うように飛ぶ。


 ……あ、あれは!?


 先に見えるのは巨大な狼。そいつが、馬車のようなものを噛み砕き、脚で人間を踏み潰しているのが見えた。


 あの巨躯、間違いない。




「大狼!? 何でこんな所に……!」




 自然発生型の魔物の中でも強力な大狼だが、こんな所には現れることのない危険生物だ。
 これ以上被害が拡大する前に仕留める!




「来い、フェイルノート!」




 現れたのは、ミスリルで作られた光沢のある弓。
 そいつを力の限り引き絞ると、弦から虹色の光が溢れ出て矢の形となる。


 神器フェイルノート。その特性は。




「狙った場所に絶対に当たる!」




 行け!


 放たれる虹色の矢。
 そいつが縦横無尽に木々の間を駆け──大狼の頸に直撃。
 木っ端微塵に吹き飛ばした。


 ふぅ……上手く倒せてよかった。


 絶命した大狼が、魔素と呼ばれる物質に分解される。
 後に残されたのは、大狼からドロップした毛皮と牙、それに大狼が蹂躙した馬車や死骸だけだった。




「……せめて安らかに眠れ」




 黙祷を捧げる。
 もう少し速かったら助けられた……なんて偽善を言うつもりはない。
 今目の前にあるものが現実だ。受け入れるしかないんだ、俺達生きる者は。


 ……で。




「大狼は殺したぞ。そこにいるんだろ、出てこいよ」




 粉々に破壊されている馬車に呼び掛ける。
 ……何も反応はない。まあ当たり前か。




「別にとって食おうって訳じゃない。安心しろ、俺は味方だ」
「…………っ」




 お、出て来た。
 ひょこっと顔を出したのは……暗くてよく見えないが、恐らく女の子だろう。
 怯えている気配が伝わってくる。


 ……流石にこの子に、「仲間死んでドンマイ、ハハッ」とは言いづらい。




「えっと……悪かった、仲間を助けられなくて」
「……な、仲間じゃない、です……」
「……仲間じゃない? え、でも一緒にいたんじゃ……?」
「わ、私……捕まってたです……」




 ……捕まっていた?
 女の子はゆっくりと馬車の後ろから出てくる。
 その時、僅かに風が吹き、空を覆っていた木々が揺れ……月明かりが女の子に当たった。




「────ッ」




 ……可愛い……。
 月明かりに輝く銀髪。
 紅玉のように赤い瞳。
 健康的で艶かしい褐色の肌。
 服は……胸当てと腰巻しか付けておらず、ほとんど全裸だ。扇情的でグラマーな肉体を惜しげも無く晒している。


 そして特徴的なのが……耳。
 人間ではありえない、長く尖った耳に三日月型のピアスを付けている。




「……ダークエル、フ……?」




 俺の問いかけに、女の子はこくりと頷いた。
 ダークエルフ自体は珍しくない。
 ただ、その子の首に付けられているのは……黒く、厚みのある首輪。
 あれは、間違いない。


 奴隷の首輪だ。


 どこの国でも、人身売買は固く禁じられている。
 百年ちょっと前には奴隷制度なんてものがあったらしいが、今はそんなものはない。
 だが稀に……こうして、闇で取引されている奴隷もいるのだとか。


 まさか、こいつらがその奴隷商の関係者だったとは。


 …………。






 俺の捧げた黙祷を返せッッッ!

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