預言者エルマの七転八倒人生 破滅フラグは足音を立ててやってくる!

野良ぱんだ

3章 第4話 ヨベル


2日ほどベッドで休息を取った後、悪魔によって壊滅された例の村に向かう事にした。

前日の内に北領騎士団が調査し村人の死骸は簡易的に埋める処理をしたというが穢れをそのままにしておけなかったからだ。

一応北領騎士団に許可を取った後、浄化をする事を取り付けた。

一緒にと言う話も出たがジル殿下の一件もあり断る。

ライゼンハイマー家の馬を借り、宣教師姿のままのディビドの案内の元、エルマさんとマックス氏、神殿騎士数人で向かう。

オーバー湖北の山深い位置にありそこまで丸一日かかった。

野営には慣れているため村の近くで一泊し朝にその村に入る。

死体は確かに無くなってはいたが、周囲は荒れ血で穢れていた、臭いも酷い。

「まぁ遺体が無い分マシですけどね」

ディビドが眉を顰める。

「このままだと悪いものが溜まるから浄化するね」

どうしても殺害などで土地に人の血が注がれるとその土地は穢れ、アンデットや魔獣の溜まり場になるので浄化する必要があるのだ。

特に今回は多くの人が悪魔によって生贄にされたため人の強い思いが引きずり悪化しやすいため念入りに行う必要がある。

入り口からクリアランスを唱え浄化をし始める。

そうすると血と死臭が消え空気が綺麗になる。

村の中央部に足を踏み入れるとフォロカルが封じられていたと思われるズタズタになった祠がある。

祭をするために様々な飾りをしていたと思われる後が見られる。

「きっと賑やかな祭にしようと思ってたんだろうね」

ロッドを掲げクリアランスを唱えその場も浄化した後に祠を調べる。

石でできた祠は大人1人くらいの大きさで扉は破壊されており前日までに騎士団が調べて必要な物は回収していったのだろう、中は空っぽだ。

「マックス氏、この祠を砕いてくれる?」

マックス氏は大剣でその祠を叩き破り粉々にしていく、こう言った物は浄化の邪魔になるため残さない方がいいのだ。

砕いた石に更にクリアランスをかけ、ただの石ころにした後他の場所も浄化を続ける。

この手の浄化は年に一度、ヨベルと呼ばれる土地の休息の儀式で7年をかけて浄化を行う必要がある、聖マーシャがバーレを清めたのと同じ様に。

最後に村人が埋葬された場所へ足を運ぶ、村の外の元々畑だったのだろう、そこには一人一人埋葬しその上に頭ほどの大きさの石が一つ一つ置いてある、簡易的な墓だ。

周辺の畑の状態を見るに水不足で様々なものが枯れかけている、雨を望んで祭りを行ったのが見て取れる。

ライゼンハイマー領は神託をバーレの次に伝えて、備蓄など備えているのだがそれでも溢れ落ちる人々もいるし、トラウゴッド教より土着信仰を優先している人々に強制もできない。

きっと信仰していた神に殺され、生贄にされた人々は無念だったろうに...彼らは信じていた神が悪魔だった事を知らなかっただけだ。

せめて安らかに眠りにつき、悪霊などになる事なくこの地と一つになる事を願うしか無い。

「創造主であり忠実なる神(トラウゴッド)よ、彼らは何も知らず異教の神を崇拝しそれに殺されました...どうか寛大な愛を...彼らに安らぎをお与えください」

祈りを捧げるとふわりと周辺が光りだす、祝福だ!これでこの地で眠る村人達はアンデットとして出現する事は無い。

ああ神は聞き届けてくれたのだと確信する。

「願いを聞き入れてくださりありがとうございます!」

空を見つめながら神に感謝をする。

後ろで祝福の光景を見て神殿騎士達から流石エルマ様、と声が上がるが神の祝福であり私の力などでは無い。

「これは神の祝福、私の力ではないよ...代わりにみんなも神に感謝を捧げてくれる」

振り向いて神殿騎士達にそう言うと全員がかがみ込み神に感謝の祈りを捧げる。

全員が祈りを捧げ終わったので村の入り口まで戻る。

「ねぇディビド...炎属性の高位術式ってある程度コントロールできる?」

ディビドに尋ねる、きっとエルマさんが何をしたいのか理解したのか微笑む。

「この村の建物のみを焼き尽くすくらい出来ますよ」

「お願いしてもいい」

「ええ勿論」

そう言うと最高位術式を二つ展開する。

一つは炎と地の最高位術式ラーヴァシュトローム、もう一つはその炎が木々に燃え移らないための結界だ。

先に結界を発動させ、村全体を包み込む。

「大地よ!その燃える流れを解き放て!ラーヴァシュトローム!」

結界内の村の大地に亀裂が入り、村は溶岩に飲まれていく。

ディビドは最高位術式を大規模に二つ展開させたためか珍しく息を切らしている、きっと術の使用回数が完全に枯渇したのだろう。

本当ならエルマさんができると良いのだが、神罰系の奇跡はあくまでも裁きを与えるもののため、ただ村を燃やすなどができないからだ。

溶岩に飲まれる村をただじっと見つめる、ここで起こったであろう出来事を忘れないようにしようと思う、そしてヨベルの儀式はエルマさんの手で7年通い行うつもりである。

こうして一つの村は溶岩に飲まれ消えていった。

朝早くから行った浄化だが終わったら日が陰り始めたため再度野営を行うことにし、翌朝にライゼンハイマーの屋敷に戻る事にした。

前日に野営用に立てておいたテントに戻ると食事係の神殿騎士が全員に塩味のきいた硬いビスケットとお湯で溶かせば食べられるスープを用意してくれたのでそれを口にしたら身体が暖かくなってきた。

少し眠くなってきたため寝る前に回復のために術酒を最後に飲もうと思って封を開けようとし、ふとディビドが術回数が枯渇しているであろうと思い出し手を止める。

テントから出ると入り口にマックス氏が護衛として守っていた。

「エルマ様どうされました?」

「マックス氏、ちょっとディビドに術酒渡しておこうと思って、ディビドどこにいるかわかる?」

「あーあいつなら火の番するって言ってましたよ?」

「ありがとう!」

「僕も一緒に行きますよ」

そう言われて火の番をしているディビドの元に2人で向かう。

ディビドは火の番の傍ら、片手に聖典を開き目を通していた。

「ディビド!」

「あ!エルマ様どうされました?」

ディビドは嬉しそうにこちらを見上げて微笑む。なんとなくだか疲労の色が隠せて無い気がする。

「今日かなり大掛かりな術式使ったからきっと一晩じゃ回復しないと思ってこれ飲んで」

「術酒ですか?こんな貴重品...」

術酒を受け取ってまじまじとディビドはそれを見る。

確かに回復薬より手に入りにくいが地下墓地攻略で戦利品として多めに所持してる。こんな時こそ使わねば!

「アルコールフリーだから酔わないけどね」

「エルマ様12歳の時から地下墓地に入り浸ってる時にポーションとちゃんぽんして飲んでましたもんねー」

「ポーションは甘いけど術酒は子供の口にはそんなに美味しくなかったからだしねぇ、あれは混ぜて飲むに限る!」

微妙に苦いのだ、そう一番近い味はアルコールフリーの麦酒の味に近い。あれが発泡してない飲物だ。

10歳の時に初めて飲んだ時についその苦さで噴き出してしまった事を思い出す。

「はは、エルマ様らしいですね、では有り難く頂きます」

そう言ってディビドは術酒を開け口にする。

「ああ、これは確かに子供には早い味だ」

そう言って全部飲み切る頃には少し回復したのか顔色が良くなってるようだった。

「ところでディビド、聖典読んでいたの?」

「ええ、ちょっと気になった事がありましてね」

開いていたのは最初のあたり、元々天の使いだった悪魔達が最初の悪魔であるリュシフェルに唆され、人間から崇拝されたり肉欲に耽ったりしたいがために堕天した場面。

堕天し悪魔となった者達は受肉し好き勝手にその力を使い人間の世で富や名声、崇拝され、あろうことか人間と交わり子を為すまでしたのだ。

悪魔と人間とのハーフ達であるゴライアスと呼ばれる残虐な巨人が地の大半にまで増えてしまい、その不自然な状態に神は怒り一度世界を滅ぼす事にするが、神への強い信仰心のあった混じり気の無い人間ルーエンとその一族のみ滅びに至る事のない地に住まわせ世界は火と硫黄の海に飲まれ一度滅びたのだ。

その際に悪魔達は生き残るために肉体を捨てその心臓を翡翠石で出来た禁呪の書き板に埋め込み、その姿となり各地に点在しているのだ。

「エルマ様は近隣諸国で悪魔の解放がここ数年の間に頻繁している話を知ってますか?ウルムでは30年位前から活発化し、そのために専門の軍が存在しており研究も進められています」

エアヴァルド国内ではあまり聞いたことが無いのはトラウゴッド教を国教としているためも大きい。

「そしてここに来てアスモデウスの書き板の消失、フォロカルの受肉の一件も出てきました...」

「何かあると言いたいの?」

「ウルムでは最初の悪魔である明けの明星リュシフェル...神の使いを堕天させた存在...その名を名乗る存在が裏に潜んで地位のある人々を唆して禁呪の力を得させているんです...しかもその場をこのエアヴァルド国内でも行い始めた可能性も考えられます」

「!」

「フォロカルの禁呪の封印式を見る限りだと高位術士の血で解放されるのはわかってますので、この村の村長や雇われたであろう高位術士あたりを探れば痕跡があるかもしれません。」

「まさかそんな存在がいるなんて」

「一応ウルムでも厳戒態勢を引かれている情報ですから...そしてその存在が現時点で悪魔として本当に存在しているのか...名を騙った個人なのか集団なのか...何かヒントになる事があるかと思いましてね、再度目を通しておこうかと思ってたんです」

明けの明星リュシフェル、自らが神になり崇拝されたいが為に堕天した最初の悪魔。

その姿は元は天の使いゆえとても麗しく力もあるとされるが実際は狡猾で邪悪な神と人類の敵である。

そして一度世界が滅んだ後、封じられていた悪魔を解放させてきた黒幕としての側面も持つ。

旧バーレ時代のアスモデウスや聖サンソンが封じたダガンも何年も前にリュシフェルが手引きし解放されその地の現人神として崇拝されてきたニュアンスの事が別の章に書かれている。

「場合によってはエアヴァルド国内の土着信仰で祀られている物や現時点で確認できる聖サンソンの墓...あそこはダガンの封印になっているのでそこも調べた方がいいかもしれません」

「そうだね...近いうちに王都へ行ってコンラート陛下の許可を貰って調べた方がいいかもね」

「その際はぜひ私も」

「勿論!」

「ではエルマ様、もう空が暗くなりましたし明日も早いのでぜひお休みください」

「ディビドも別な神殿騎士に火の番を代わってもらって休みなよ?今回一番疲れているんだから」

「はは...私を気遣ってくださりありがとうございます、エルマ様はやっぱりお優しいですね、かわいいなぁ」

「またディビドは!そんな事言って~」

そう言ってディビドと別れ、前日から設置していたテントに戻って寝る支度をする。

毛布に包まれランプの火を消して目を瞑る。

そうこの世界には神と悪魔は存在しているのだ、それはえりかだった私をエルマさんに生まれ変わらせた存在、ゲームの世界とタカをくくってたところもあったがこの様な現実を直視すると、もしかしたら本来ならゲーム内に現れない筈の預言者としての能力をもったエルマさんに何らかの役割があるのかもしれない。

ーーーならばどうか創造者、忠実なる神よ、私がなすべき事をお教えください...

そう祈るがその時は答えは返って来なかった。

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※ゲーム豆知識
ヨベル
血によって穢れた土地を清める儀式を指す。年に一度七回行う必要がありそれが終わると地が清められる。
ちなみにこれをしないと悪霊やアンデッドや魔獣といったモンスターが溜まり危険な土地となってしまう為念入りにおこなう必要がある。
他国ではヨベルの概念がないためモンスターがあちこち闊歩しているがエアヴァルドは清めの為モンスターがあまりいない。

          

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