忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~
【第34話:陽炎の帯】
オレの様子がおかしい事に気付いたリシルが、そばに来て少し心配そうに尋ねてくる。
「ねぇテッド。どうしたの? 上位種だとこのパーティーじゃきつそう?」
しかし、その言葉に先にテグスが反応する。
「冗談じゃねぇぞ! ここまで来て、最高に調教しやすい舞台まで用意されてて諦めるなんて馬鹿な事言うなよ!?」
「テグスさん。僕もここまで来てとは思うが、そこの所はどうなんだ?」
オレはようやく少し落ち着きを取り戻し、少し脚色して話をはじめる。
「実はあのナイトメアは知り合いが乗っていたもののようなんだ。10年以上前にその知り合いが亡くなった戦いがあって、その時にそのナイトメアも死んだものとばかり思っていたのだが、まさか上位種に変化してこうして再会するとは思っていなくて、ちょっと驚いただけだ」
リシルは何となく察しているようだが、2人は半信半疑といった様子だった。
「しかしその話が本当だとすると、調教はすんなりいくか、逆にすげぇ梃子摺るかのどっちかだな」
テグスの話だと、一度調教された事のある魔獣は、元主人との主従契約がどうなっているのか? どのような切れ方をしたのかによって変わるらしい。
オレもよくは知らないのだが、調教とは一種の特殊能力らしい。
一定の距離から調教スキルを発動し、その主従契約を繋ぐことに成功すれば従える事が出来るそうだが、相手が魔獣だとその主従契約を繋ぐのに何時間もかかる場合もあり、相性次第では何時間かけても失敗するらしい。
その為、調教する間、魔獣を抑え込み、調教師を守るのがオレとリシルの役目だ。
「まぁどちらにせよ。やってみねぇとわからねぇ。テッド、リシル、ゲイル頼んだぞ」
「あぁ任せておけ。オレは黒魔法で抑え込む。リシルはテグスの守り、ゲイルは広場の入口で逃走しようとした場合の阻止と他の魔物が近寄ってこないよう見張りを頼む」
二人が頷くのを確認すると、最後にテグスに向き直り、
「オレたちが突入したら一時的な戦闘状態になる。テグスはオレがナイトメアを抑え込むのに成功したのを確認してから広場に突入してくれ」
「あぁ、それぐらいは心得ているさ。あんなのにいきなり飛び込んだら殺されるってんだ」
まぁこの辺りは当たり前の事なので、あくまでも念のための確認だ。
「そうだ。気休め程度だけど、最初に強化をかけるからみんな魔法陣をくぐってから開始して」
リシルの強化は高い効果があるが、調教がはじまればかけ直す余裕はないだろう。
ただ、それでも最初の抑え込みの時が一番難易度の高い作業なので、あると無いとでは大違いだ。
「頼む。頼りにしているぞ」
オレのその言葉に「任せてよ」と嬉しそうにこたえるリシルを確認して、作戦の開始を合図する。
「さぁ、それでは頑張ってみようか!」
オレのその言葉を合図に、リシルの魔法の言葉がつむがれる。
≪緑を司る解放の力よ、我が魔力を糧に衣となりて道を示せ≫
≪薫風の囁き≫
オレたちの前に現れた緑の魔法陣を、オレとリシルが駆け抜け、2人はゆっくりと歩いてくぐり抜ける。
それと同時に強力な風の加護が全身を覆い、まずはリシルが前面に踊りでる。
「さぁ、私のスピードで翻弄してあげるわ!」
ナイトメアは最初からオレたちの存在には気付いていた。
それでも全く動じなかったのは、そのくぐり抜けてきた経験から来る余裕だったのだろう。
しかし、予想を上回るリシルの動きに警戒を強めたようだ。
「はぁぁっ!」
最初から当てるつもりはないが、リシルの素早い突きと横薙ぎの一撃がナイトメアに迫る。
「うそ!?」
しかし、当てるつもりは無かったはずのその一撃は、例え本気で打ち込んでいたとしても躱されていただろう。
ナイトメアは、それほどの速さで後ろに飛びのいた。
「嬢ちゃん! 魔法にも気を付けろよ! 上位種は魔法も強力だぞ!」
テグスのその声に、気を引き締めた瞬間だった。
さっきまでリシルがいたところに2mに達するような火柱があがる。
「うっそ!? ちょっと本気でいかないとこっちがやられそうね!?」
しかし、リシルが苦戦しながらも時間を稼いでいる隙に、オレは詠唱を完成させる。
≪黒を司る穢れの力よ、我が魔力を贄に荊棘となりて怨敵を貫け≫
≪咎人の荊棘≫
魔力を限界まで込めた魔法は、数本の荊棘となってナイトメアに巻きついて行く。
ナイトメアの表皮は普通の剣では傷つかないほど固いので、棘ぐらいではダメージは入らないのだが、動きを封じる事には成功したようだった。
「今だテグス! でも、魔法には気を付けるんだぞ!」
何とかナイトメアの動きは抑えたのだが、魔法まで封じたわけではない。
嘶きと共にさっそく火の玉を放ってきた。
元々このためにリシルがテグスの護衛について、放たれる魔法を防ぐことになっていたのだが、さっきのような位置指定で発動する上位魔法は避けるしかないだろう。
「任せておけ!」
そう叫びながら走り込んできたテグスはナイトメアを見つめると、呼吸を整え精神を集中する。
すると、テグスの身体がうっすらと陽炎が覆い始め、それはテグスが前に突き出した両手から帯のようになってナイトメアに向かっていく。
しかしこの陽炎の帯は、話によると魔獣や魔物には見えないらしい。
実際にナイトメアも避けようともがく事もなく、テグスの方を見つめていた。
ここからが精神と精神との戦いらしい。
こうして長い調教が始まったのだった。
「ねぇテッド。どうしたの? 上位種だとこのパーティーじゃきつそう?」
しかし、その言葉に先にテグスが反応する。
「冗談じゃねぇぞ! ここまで来て、最高に調教しやすい舞台まで用意されてて諦めるなんて馬鹿な事言うなよ!?」
「テグスさん。僕もここまで来てとは思うが、そこの所はどうなんだ?」
オレはようやく少し落ち着きを取り戻し、少し脚色して話をはじめる。
「実はあのナイトメアは知り合いが乗っていたもののようなんだ。10年以上前にその知り合いが亡くなった戦いがあって、その時にそのナイトメアも死んだものとばかり思っていたのだが、まさか上位種に変化してこうして再会するとは思っていなくて、ちょっと驚いただけだ」
リシルは何となく察しているようだが、2人は半信半疑といった様子だった。
「しかしその話が本当だとすると、調教はすんなりいくか、逆にすげぇ梃子摺るかのどっちかだな」
テグスの話だと、一度調教された事のある魔獣は、元主人との主従契約がどうなっているのか? どのような切れ方をしたのかによって変わるらしい。
オレもよくは知らないのだが、調教とは一種の特殊能力らしい。
一定の距離から調教スキルを発動し、その主従契約を繋ぐことに成功すれば従える事が出来るそうだが、相手が魔獣だとその主従契約を繋ぐのに何時間もかかる場合もあり、相性次第では何時間かけても失敗するらしい。
その為、調教する間、魔獣を抑え込み、調教師を守るのがオレとリシルの役目だ。
「まぁどちらにせよ。やってみねぇとわからねぇ。テッド、リシル、ゲイル頼んだぞ」
「あぁ任せておけ。オレは黒魔法で抑え込む。リシルはテグスの守り、ゲイルは広場の入口で逃走しようとした場合の阻止と他の魔物が近寄ってこないよう見張りを頼む」
二人が頷くのを確認すると、最後にテグスに向き直り、
「オレたちが突入したら一時的な戦闘状態になる。テグスはオレがナイトメアを抑え込むのに成功したのを確認してから広場に突入してくれ」
「あぁ、それぐらいは心得ているさ。あんなのにいきなり飛び込んだら殺されるってんだ」
まぁこの辺りは当たり前の事なので、あくまでも念のための確認だ。
「そうだ。気休め程度だけど、最初に強化をかけるからみんな魔法陣をくぐってから開始して」
リシルの強化は高い効果があるが、調教がはじまればかけ直す余裕はないだろう。
ただ、それでも最初の抑え込みの時が一番難易度の高い作業なので、あると無いとでは大違いだ。
「頼む。頼りにしているぞ」
オレのその言葉に「任せてよ」と嬉しそうにこたえるリシルを確認して、作戦の開始を合図する。
「さぁ、それでは頑張ってみようか!」
オレのその言葉を合図に、リシルの魔法の言葉がつむがれる。
≪緑を司る解放の力よ、我が魔力を糧に衣となりて道を示せ≫
≪薫風の囁き≫
オレたちの前に現れた緑の魔法陣を、オレとリシルが駆け抜け、2人はゆっくりと歩いてくぐり抜ける。
それと同時に強力な風の加護が全身を覆い、まずはリシルが前面に踊りでる。
「さぁ、私のスピードで翻弄してあげるわ!」
ナイトメアは最初からオレたちの存在には気付いていた。
それでも全く動じなかったのは、そのくぐり抜けてきた経験から来る余裕だったのだろう。
しかし、予想を上回るリシルの動きに警戒を強めたようだ。
「はぁぁっ!」
最初から当てるつもりはないが、リシルの素早い突きと横薙ぎの一撃がナイトメアに迫る。
「うそ!?」
しかし、当てるつもりは無かったはずのその一撃は、例え本気で打ち込んでいたとしても躱されていただろう。
ナイトメアは、それほどの速さで後ろに飛びのいた。
「嬢ちゃん! 魔法にも気を付けろよ! 上位種は魔法も強力だぞ!」
テグスのその声に、気を引き締めた瞬間だった。
さっきまでリシルがいたところに2mに達するような火柱があがる。
「うっそ!? ちょっと本気でいかないとこっちがやられそうね!?」
しかし、リシルが苦戦しながらも時間を稼いでいる隙に、オレは詠唱を完成させる。
≪黒を司る穢れの力よ、我が魔力を贄に荊棘となりて怨敵を貫け≫
≪咎人の荊棘≫
魔力を限界まで込めた魔法は、数本の荊棘となってナイトメアに巻きついて行く。
ナイトメアの表皮は普通の剣では傷つかないほど固いので、棘ぐらいではダメージは入らないのだが、動きを封じる事には成功したようだった。
「今だテグス! でも、魔法には気を付けるんだぞ!」
何とかナイトメアの動きは抑えたのだが、魔法まで封じたわけではない。
嘶きと共にさっそく火の玉を放ってきた。
元々このためにリシルがテグスの護衛について、放たれる魔法を防ぐことになっていたのだが、さっきのような位置指定で発動する上位魔法は避けるしかないだろう。
「任せておけ!」
そう叫びながら走り込んできたテグスはナイトメアを見つめると、呼吸を整え精神を集中する。
すると、テグスの身体がうっすらと陽炎が覆い始め、それはテグスが前に突き出した両手から帯のようになってナイトメアに向かっていく。
しかしこの陽炎の帯は、話によると魔獣や魔物には見えないらしい。
実際にナイトメアも避けようともがく事もなく、テグスの方を見つめていた。
ここからが精神と精神との戦いらしい。
こうして長い調教が始まったのだった。
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