忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~

こげ丸

【第30話:辻褄】

 ギルドの依頼窓口で指名の形でゲイルとデリーに依頼を発行して貰い、ついて来ていた二人にその場で依頼を受けて貰った。

「それじゃぁ、急で悪いが明日の朝出発だから、今日中に準備をしておいてくれ」

「えっと……一応、最大で5日間の予定だけど、念のために7日分ぐらいの水と食料は用意しておいてね」

 オレが二人に向けてそう言うと、リシルが冒険者なら当たり前にしているような事を補足する。

「ははは。一応、これでも僕はA級冒険者だよ? それぐらいは心得ているさ」

 そう言って笑いながら答えるゲイルとは対照的に、乾いた笑いを浮かべるデリーはきっとわかっていなかったのだろうな……。さすがリシルだ。

「み、水と携帯食だけで良いんだよな? 俺は調教テイムの手伝いなんてした事ないからよぉ」

 デリーはまだ不安だったようで、そう言って確認してきた。

「あぁ。調教テイムの手伝いって言っても、デリーに頼むのは周囲の警戒と目的の魔物以外が現れた場合の対応だけだ。特別必要なものなんて無いさ」

 あとは普通に野営の準備とかだけだと付け加えると、

「そ、そうか。ありがとうな」

 そう言って柄にもなく礼を言って来た。
 ゲイルとリシルがすごく意外そうな顔をしていたが、オレは内心こういう所が憎めない馬鹿な所なんだろうなと、失礼な納得の仕方をしていたのは黙っておこう。

「それじゃぁ、明日の朝、七の刻に『グレイプニルの蹄』前に集合だから。遅れないように頼むぞ」

 こうして予定外に充実したメンバーでナイトメアの調教テイムに挑戦する事になったオレたちだが、この後、テグスへの一連の報告で一悶着あったのは言うまでもなかった……。

 ~

 翌朝、オレとリシルが二人で『グレイプニルの蹄』に向かっていると、どう見ても待ち伏せしていたデリーが、

「お、おう! 奇遇だな! ちょうど俺も向かっていた所なんだ」

 そう言って話しかけて来た。

 リシルが横で必死に笑いを堪えているのを横目に、

「……あぁ、じゃぁ一緒に行くか」

 仕方がないので、何も突っ込まずにそういう事にしておいてやった。

 それから程なくして『グレイプニルの蹄』まで着いたオレたちは、気まずそうにしているデリーとテグスの仲を取り持つと言う、誰得な任務をこなす。
 しかし、デリーがいきなり頭を下げて謝ったのが良かったのか、思っていたよりすんなりと険悪な雰囲気を無くす事に成功する。

 だけど……二人の仲が悪くなった最初の原因が、酒場で昔ナイトメアを調教テイムしたと言うテグスをデリーが馬鹿にしたのが始まりだったとと聞き、正直、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 これはなんとしてでもナイトメアを発見し、テイムを成功させないといけなくなった。

「テッド……別にあなたが悪いわけじゃないんだから、変に気にしないでよね?」

「あぁ、気をつかわせて悪いな。大丈夫だ。それよりテイムに成功した時はぞ」

 リシルには、もし今回全て上手くいった場合、ナイトメアを引き取るのはリシルにして欲しいとお願いしてある。
 これは、もしまたオレがレダタンアを抜くことがあっても、調教に成功した事実を世界に消し去られないためだ。

 オレが聖魔剣レダタンアを抜く事で起こる現象は、はっきり言って辻褄が合わない事が多々ある。
 だが、そのことを一切疑問に思わなくなるのだ。

 例えば、オレが店で何かを買ったとすると、店主はその商品を『売った』時の事を忘れてしまう。
 しかし、その時一緒にいた別の人間が支払いなどを済ませておけば、店主はその商品を『売った』という記憶は綺麗に覚えているのだ。
 そう。忘れられるのはその時『オレが一緒にいた』という事だけで済むのだ。

「わかってるわ……だけど、私は忘れないからね」

 リシルは少し真剣な瞳でオレを見つめると、小声でちょっと照れくさそうにそう言うのだった。

 ~

 そうこうしているうちに、約束の七の刻になった。
 ゲイルも先ほど時間ちょうどに現れたので、改めて今回の調教の依頼の件を話しておく。

「昨日、二人にはある程度話してあるが、目的地は『アルデソリデの森』の南西にある、とある深い洞穴の中だ。運がいい事に近くまで街道が通っていて、テグスが馬車を出してくれる事になっているから、今日の夕暮れまでには着く予定だ」

「まぁ夜にナイトメアと遭遇すると厄介なんで、目的地の少し手前で野営する事になるがな」

 これは、ナイトメアは『夢魔』とも呼ばれ、夜にだけ使える特殊能力をいくつか持っているためだ。
 出来る限りナイトメアと夜に遭遇する事は避けなければいけない。

「まぁでも心配するな! 昼にさえ見つけられれば、俺の調教師テイマー として腕を見せてやるからな! あとは、運が良ければ洞窟の地形を利用して逃げ道を防げるから、洞穴の中にいてくれると最高なんだがなぁ」

 テグスが何だか楽しそうだ。
 久しぶりの調教テイムだから、浮かれてドジを踏まないように願うばかりだ。

「ちなみに、その付近に昨日の時点でナイトメアがいたのは間違いがないわ。昨日、私の魔眼で確認して発見したから」

先ほどリシルの魔眼については少しだけ誤魔化して皆に伝えてあった。

「おぉぉぉ!!?? やっぱり居るのか!! こうしちゃおれん! 説明なんて歩きながらでも出来るし出発だ!」

 早くしろ! と興奮するテグス。

 実際にはナイトメアは移動する時は1日でとんでもない距離を移動するので、オレたちが着いた時に洞穴付近にいるかどうかは運による所が大きい。
 だけど、テグスが居ても立っても居られないと言った気持ちもよく理解出来た。

「まぁこれでナイトメアが付近にいた事は、ほぼ間違いないというわけだ。このままだとテグスが一人で出発しちまうから、二人には道すがらオレからもう少し詳しく説明しよう」

 今にも駆け出しそうになっているテグスを見て苦笑しながら、出発する事を皆に告げるのだった。

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