忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~
【第23話:噂話】
降りてきたのは見知った顔の女性だった。
オレが知っている姿より少し老けていたが、その顔は見間違い様がなかった。
「すまないねぇ。うちの旦那がグレイプニルごり押しして迷惑かけてないかい?」
その女性の名は『リネシー』と言い、昔よくテグスから恋愛相談を受けていた女性だった。
当時と同じように少しくすんだ金髪を後ろで結び、愛想の良い笑顔を苦笑にかえてオレに謝ってきた。
「いや、ちょっと勧められただけだから問題ないよ」
少し大柄な彼女は調教師としても優秀で、テグスの後輩であり相棒だった。
しかし、ある魔獣の調教中に怪我をさせてしまい、それを俺の責任だとか意固地になったテグスのせいで疎遠になっていたはずなのだが……。
6年前にテグスと再会した時にはもう諦めたとか言っていた癖に、上手くくっついているじゃないかとちょっと嬉しくなる。
「なんだい? 私の顔に何かついているかい?」
つい嬉しくなって顔を見つめてしまっていたらしい。
「すまない。ちょっと昔の知り合いに似ていたのでな。オレは冒険者のテッドだ。探しているのはラプトルなので、よろしく頼む」
そう言って笑いながら挨拶を交わす。
「まぁ普通の奴はラプトル選ぶよなぁ。グレイプニルの方が絶対カッコいいのによぉ」
テグスはオレがラプトルを念押ししたことにちょっと残念そうだが、何やら帳簿のようなものを引っ張り出してきてページをめくり始める。
「しかし、ラプトルは人気だからなぁ……えぇと……あった! あぁ……今8人も入荷待ちがいるな」
「え!? そんなに待っているの!?」
一人、二人は待ってる奴がいるかもと話をしていたのだが、予想以上の人数にリシルが驚きの声をあげる。
「それがねぇ。ただでさえ月に1、2頭ぐらいしか手に入らなかったのに、何か魔物の異常発生とかで更に手に入りにくくなってしまってねぇ」
リネシーの言葉の通りなら、下手をすると1年以上待たなくてはいけなくなる。
騎獣はこれから当分付き合っていく相手になるから、妥協はしたくないのだが、これはちょっと考え直さないといけないかもしれない。
しかし、ここでも魔物の異常発生が出てくるのか……。
オレが少し険しい顔で考え込んでしまっていると、何かを思いついたテグスがオレに話しかけてきた。
「なぁ、テッド……とか言ったな。そこの嬢ちゃんも二人とも腕の立つ冒険者なんだよな?」
そう言って、ちょっと期待に満ちた目でオレを見てくる姿は見覚えがある。
何か良からぬ事を考えている時だ……。
「そうね。私はB級冒険者だし、テッドも強さだけならB級並だと思うわよ?」
この数日一緒に過ごしてわかったのだが、リシルは褒められたり強いと言われるのが大好きなようで、オレの代わりに喜んで答えてくれる。
後ろでリネシーが訝しんでいるのだが、テグスは全くお構いなしで話を続ける。
まぁ単に話に夢中で気付いていないだけだろうが。
「実はな。この近くの谷にある魔獣が現れたそうなんだ。どうだ? 俺が格安で調教してやるから連れてってくれないか?」
やはり思った通りの提案だった……。
6年前ではなく、初めてテグスと出会った頃、よく調教時の護衛役として駆り出されたのだ。
さっきの顔は、15年以上経っているにもかかわらず、その時の顔にそっくりだった。
しかし、自ら出向いての調教はもう引退したはずだったのだが、リネシーともよりを戻したようだし、何か吹っ切れるような事があったのかもしれないな。
「ちょっとあんた!? あんなのただの噂じゃないか! お客さんを巻き込むんじゃないよ!」
噂話に飛びついた形だ。リネシーが注意するのも無理はない。
だけどオレは……面白い! と思ってしまった。
「面白そうな話だな。それである魔獣ってのは何なんだ?」
オレがそんな噂話の域を出ない話に飛びついたのが意外だったのだろう。
隣でリシルがちょっと驚いている。
「お客さん……本気かい? こないだ酒場で小耳に挟んだだけの与太話だよ?」
「そうよ。テッドらしくないわね。その手の『何か出た』とか『何かいるらしい』なんて話ほとんど偽物じゃない?」
リシルの言う通りなのだ。
酒場で聞くようなその手の話は、ほとんどが偽物。つまり嘘っぱちだ。
しかし、テグスがその話に喰いついたのだ。
こと魔獣に関する話に限ってだけは、テグスの嗅覚は信用できる。
悪いがリシルには目線で大丈夫だと合図を送り、喜んでいるテグスに話の続きを促す。
「そう来なくっちゃな!! なんかわからねぇが、あんたなら引き受けてくれるような気がしたんだ!!」
オレの事は忘れているはずだが、嬉しい事を言ってくれる。
「それで、結局その魔獣ってのは何なんだ?」
その問いかけに、テグスは少し勿体ぶった様子を見せたあと、叫ぶようにこう答えたのだった。
「聞いて驚け! あの漆黒の魔馬『ナイトメア』だ!!」
オレが知っている姿より少し老けていたが、その顔は見間違い様がなかった。
「すまないねぇ。うちの旦那がグレイプニルごり押しして迷惑かけてないかい?」
その女性の名は『リネシー』と言い、昔よくテグスから恋愛相談を受けていた女性だった。
当時と同じように少しくすんだ金髪を後ろで結び、愛想の良い笑顔を苦笑にかえてオレに謝ってきた。
「いや、ちょっと勧められただけだから問題ないよ」
少し大柄な彼女は調教師としても優秀で、テグスの後輩であり相棒だった。
しかし、ある魔獣の調教中に怪我をさせてしまい、それを俺の責任だとか意固地になったテグスのせいで疎遠になっていたはずなのだが……。
6年前にテグスと再会した時にはもう諦めたとか言っていた癖に、上手くくっついているじゃないかとちょっと嬉しくなる。
「なんだい? 私の顔に何かついているかい?」
つい嬉しくなって顔を見つめてしまっていたらしい。
「すまない。ちょっと昔の知り合いに似ていたのでな。オレは冒険者のテッドだ。探しているのはラプトルなので、よろしく頼む」
そう言って笑いながら挨拶を交わす。
「まぁ普通の奴はラプトル選ぶよなぁ。グレイプニルの方が絶対カッコいいのによぉ」
テグスはオレがラプトルを念押ししたことにちょっと残念そうだが、何やら帳簿のようなものを引っ張り出してきてページをめくり始める。
「しかし、ラプトルは人気だからなぁ……えぇと……あった! あぁ……今8人も入荷待ちがいるな」
「え!? そんなに待っているの!?」
一人、二人は待ってる奴がいるかもと話をしていたのだが、予想以上の人数にリシルが驚きの声をあげる。
「それがねぇ。ただでさえ月に1、2頭ぐらいしか手に入らなかったのに、何か魔物の異常発生とかで更に手に入りにくくなってしまってねぇ」
リネシーの言葉の通りなら、下手をすると1年以上待たなくてはいけなくなる。
騎獣はこれから当分付き合っていく相手になるから、妥協はしたくないのだが、これはちょっと考え直さないといけないかもしれない。
しかし、ここでも魔物の異常発生が出てくるのか……。
オレが少し険しい顔で考え込んでしまっていると、何かを思いついたテグスがオレに話しかけてきた。
「なぁ、テッド……とか言ったな。そこの嬢ちゃんも二人とも腕の立つ冒険者なんだよな?」
そう言って、ちょっと期待に満ちた目でオレを見てくる姿は見覚えがある。
何か良からぬ事を考えている時だ……。
「そうね。私はB級冒険者だし、テッドも強さだけならB級並だと思うわよ?」
この数日一緒に過ごしてわかったのだが、リシルは褒められたり強いと言われるのが大好きなようで、オレの代わりに喜んで答えてくれる。
後ろでリネシーが訝しんでいるのだが、テグスは全くお構いなしで話を続ける。
まぁ単に話に夢中で気付いていないだけだろうが。
「実はな。この近くの谷にある魔獣が現れたそうなんだ。どうだ? 俺が格安で調教してやるから連れてってくれないか?」
やはり思った通りの提案だった……。
6年前ではなく、初めてテグスと出会った頃、よく調教時の護衛役として駆り出されたのだ。
さっきの顔は、15年以上経っているにもかかわらず、その時の顔にそっくりだった。
しかし、自ら出向いての調教はもう引退したはずだったのだが、リネシーともよりを戻したようだし、何か吹っ切れるような事があったのかもしれないな。
「ちょっとあんた!? あんなのただの噂じゃないか! お客さんを巻き込むんじゃないよ!」
噂話に飛びついた形だ。リネシーが注意するのも無理はない。
だけどオレは……面白い! と思ってしまった。
「面白そうな話だな。それである魔獣ってのは何なんだ?」
オレがそんな噂話の域を出ない話に飛びついたのが意外だったのだろう。
隣でリシルがちょっと驚いている。
「お客さん……本気かい? こないだ酒場で小耳に挟んだだけの与太話だよ?」
「そうよ。テッドらしくないわね。その手の『何か出た』とか『何かいるらしい』なんて話ほとんど偽物じゃない?」
リシルの言う通りなのだ。
酒場で聞くようなその手の話は、ほとんどが偽物。つまり嘘っぱちだ。
しかし、テグスがその話に喰いついたのだ。
こと魔獣に関する話に限ってだけは、テグスの嗅覚は信用できる。
悪いがリシルには目線で大丈夫だと合図を送り、喜んでいるテグスに話の続きを促す。
「そう来なくっちゃな!! なんかわからねぇが、あんたなら引き受けてくれるような気がしたんだ!!」
オレの事は忘れているはずだが、嬉しい事を言ってくれる。
「それで、結局その魔獣ってのは何なんだ?」
その問いかけに、テグスは少し勿体ぶった様子を見せたあと、叫ぶようにこう答えたのだった。
「聞いて驚け! あの漆黒の魔馬『ナイトメア』だ!!」
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