第二百五話 信頼関係

――目を覚めましたビクニが立ち上がっていたとき――。


地上ちじょうでは女神がリム、リンリ、ソニックを相手に優勢ゆうせいに戦っていた。


「このまま埒らちが明あかねえッ! リム! 聖騎士せいきしッ! 俺に続けッ!」


「オッケ―! だけどあたしのことはリンリって呼んでね、吸血鬼きゅうけつきちゃんッ!」


「わかりました! リムもあなたに続くのですよ、ソニックッ!」


今の状態じょうたいのまま消耗戦しょうもうせんを続けてもこちらが不利ふりだと判断はんだんした三人は、互たがいに叫さけび合いながら一気いっきに勝負しょうぶに出る。


三人は女神を囲かこみながら回まわり、それぞれの力ちからを限界げんかいまで高めた。


「闇やみの炎ほのおで焼やき尽つくしてやる。ダークフレイムッ!」


手を翳かざしたソニックの腕うでから黒炎こくえんが迸ほとばしる。


炎魔法のヘルフレイムと彼の魔力属性ぞくせいが合わさった黒い爆炎ばくえんが女神へと襲おそいかかる。


「あたしも行くよッ! うおぉぉぉッ! 聖騎士ス―パービームッ!」


ロボット兵器へいきの技わざのように叫ぶリンリの身体からは、高出力こうしゅつりょくの光ひかりが放出ほうしゅつされていく。


魔法には唱となえる者のイメージ――想像力そうぞうりょくが大事である。


リンリが想像する強力きょうりょくな攻撃こうげきとは、スーパーロボットのレーザー的なイメージだったのだろう。


彼女の身体から放出された魔力は、そのままレーザーのように女神へと発射はっしゃされた。


「右手に炎魔法……。左手に氷こおり魔法……。さらにこのまま武道家ぶどうかの里に伝つたわる秘儀ひぎ、オーラフィストを放はなつッ!」


両手りょうてそれぞれに炎魔法ヘルフレイムと氷魔法ブリザードブレスを合わせ、それを前方に突つき出すリム。


さらに体内たいないで練ねり込こんだ気オーラを集あつめ、その掌てのひらから波動はどうを放つ。


「はぁぁぁッ! アイスフレイムフィストッ! 」


氷塊ひょうかいと火炎がリムの気オーラに纏まとわりつきながら女神に向かって放たれる。


それは、賢者けんじゃクラスの技術ぎじゅつが必要ひつような魔法の同時使用どうじしようと、彼女が持つ武道家の技が入り混まじった凄すさまじい魔法技だった。


その様子ようすを地上から見ていたレヴィが、驚愕きょうがくの声をあげていた。


「三人ともあそこまで強力な攻撃を……これならいける! いけるぞリョウタ! もしかしたら私たちの出番でばんはないかもしれない!」


「それならそれが一番いいけどな……。それよりも、ソニックとリムに比くらべてリンリはなんか酷ひどいセンスだな……。ファンタジー感ゼロじゃねえか……」


三人の全身全霊ぜんしんぜんれいの攻撃を受けた女神は、それでもなんとか魔法陣の障壁しょうへきを使って耐たえている。


だが、左右さゆうと後うしろから攻撃というのもあって、今の女神は完全に動きが止まっていた。


今が絶好ぜっこうの機会きかいだと思ったリョウタは、レヴィに声をかけて跳躍ちょうやくするように言う。


「それで、どうやってお前の魔力を私に注そそぐつもりなんだ?」


「さあ? 一緒に飛べばまた勝手かってに注がれんじゃねえか?」


「よし、ならば行くぞリョウタッ!」


「うわぁぁぁッ!?」


レヴィは突然リョウタを担かつぎ上げて跳躍ちょうやく。


女神や三人がいる空中の遥はるか上空じょうくうへと飛んでいった。


竜りゅう騎士の秘儀である飛翔ひしょうにリョウタの高いな魔力を込め、そのまま女神の体を槍やりで貫つらぬく体勢たいせいに入る。


「かつて、こんなカッコ悪い恰好かっこうでラスボスと戦った男がいたのだろうか……」


担がれていたリョウタは空中でレヴィを背中せなかから抱だくような姿勢しせいへと切り替かえ、一人ブツブツと呟つぶやいていた。


たしかに彼の言う通とおり――。


長い歴史れきしの中で、女性の体にしがみつきながら敵てきと戦った英雄えいゆうの話など聞いたことはない。


「いいぞリョウタッ! いつでもお前の魔力を私に注げッ!」


「わかったよッ! やってやるッ!」


リョウタの体からレヴィの槍へと魔力が移うつっていく。


レヴィは降下こうかしながら姉であるラヴィの言葉を思い出していた。


魔力を移すやり方は、どうも相手への信頼関係しんらいかんけいが重要じゅうようであると姉は言っていた。


こうやって魔力が槍に集まっていることは、自分は当然リョウタを信頼していて、そして彼もまた同じなのだ。


そう思うと胸むねの高まりが抑おさえられなくなる。


レヴィが叫ぶ。


こんな神との決戦中に不謹慎ふきんしんだが、自分は幸しあわせであると。


リョウタと会えてよかったと、吹ふきつける風に負けないように大声を出す。


「そういうことを言うな! 死亡しぼうフラグが立つだろ!」


レヴィにしがみつきながら叫び返すリョウタ。


冗談じょうだんでもそういうことはいうなと言いながらも、彼は顔を赤くしていた。


だが、その真下ましたでは――。


「いいわ、認みとめてあげる。たしかにあなたたちは強い……。だけど、それでも私のほうがまだまだ上よッ!」


女神が三人の攻撃を弾はじき返そうとしていた。